四又の百合

(略)
大蔵大臣はひとり林の方へ行きました。林はしんとして青く、すかして見ても百合の花は見えませんでした。
 大臣は林をまわりました。林の蔭に一軒の大きなうちがありました。日がまっ白に照って家は半分あかるく夢のように見えました。その家の前の栗の木の下に一人のはだしの子供がまっ白な貝細工のような百合の十の花のついた茎をもってこっちを見ていました。
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 大臣は進みました。
「その百合をおれに売れ。」
「うん、売るよ。」子供は唇を円くして答えました。
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「いくらだ。」大臣が笑いながらたずねました。
「十銭。」子供が大きな声で勢よく云いました。
「十銭は高いな。」大臣はほんとうに高いと思いながら云いました。
「五銭。」子供がまた勢よく答えました。
「五銭は高いな。」大臣はまだほんとうに高いと思いながら笑って云いました。
「一銭。」子供が顔をまっ赤にして叫びました。
「そうか。一銭。それではこれでいいだろうな。」大臣は紅宝玉の首かざりをはずしました。
「いいよ。」子供は赤い石を見てよろこんで叫びました。大臣は首かざりを渡して百合を手にとりました。
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「何にするんだい。その花を。」子供がふと思い付いたように云いました。
「正遍知にあげるんだよ。」
「あっ、そんならやらないよ。」子供は首かざりを投げ出しました。
「どうして。」
「僕がやろうと思ったんだい。」
「そうか。じゃ返そう。」
「やるよ。」
「そうか。」大臣は又花を手にとりました。
「お前はいい子だな。正遍知がいらっしゃったらあとについてお城へおいで。わしは大蔵大臣だよ。」
「うん、行くよ。」子供はよろこんで叫びました。
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 大臣は林をまわって川の岸へ来ました。
「立派な百合だ。ほんとうに。ありがとう。」王さまは百合を受けとってそれから恭々しくいただきました。
 川の向うの青い林のこっちにかすかな黄金いろがぽっと虹のようにのぼるのが見えました。みんなは地にひれふしました。王もまた砂にひざまずきました。
 二億年ばかり前どこかであったことのような気がします。
                     童話「四又の百合」


正遍知は仏の十号の一。正しい悟りを開いた仏、如来のこと。
童話「四又の百合」は仏教的香りが濃厚な作品だが、いかにも賢治風なのは正遍知を迎えるのに
野の百合こそがふさわしいというイメージである。
しかも、子どもも大臣も王も同じ想いでいることのさわやかさ。

賢治の白百合は山百合であろう。
東北には山百合のほかにウバユリ、オニユリ、クルマユリなどが自生しているが、
野山でもっとも目に付きやすく、人々に親しまれ、愛された花である。





野に咲く山百合を探して房総の村を訪ねた。
四又の百合は、国籍不明の物語だが、古い民家の裏庭には青い栗が目に付いた。
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暑い日差しのなかから、元気な男の子が、飛び出して来ることはなかった……。
(当然ですが)
Commented by ぎんがぎが at 2011-07-20 02:03 x
美しいですね。山百合大好きです。やくについた花粉のにおいも大好き。雄蕊はとらないでっていつも思います。
Commented by nenemu8921 at 2011-07-20 08:56
ぎんがぎがさん。おはようございます。
山百合の濃厚な香りは、子どもの頃の夏休みの思い出と繋がっています。
最近は花屋さんでも蕊を取ってしまい、つまらないですね(^_-)-☆
Commented by オキザリス at 2011-07-20 10:04 x
なんて豪華な山百合でしょう。
四又の百合の世界ですね。
最後の一枚は、まさにかすかな黄金色が背後に見えるようです。
この国はどこの国でしょう。
王様や大臣がいて、お金の単位は、銭なのですね。
そしてだれもが正遍知を敬っている…。
でも、百合にはソロモンの栄華も及ばないといった聖書のイメージもありますね。
四又もクロス、十字架を連想させますし。

Commented by saitamanikki2008 at 2011-07-20 12:43
こんにちは。
物語と山ユリ 最後の民家が良い構成になってますネ。
私は、殆ど賢治文学を読んでないですが
こうして、nenemuさんのブログを通して少しでも接すると
子供の頃の紙芝居を見ているような気分になります。
そして民家の脇から子供が飛び出してくるような。。。。雰囲気があります。
ムギワラ帽子の子供が。。。。

Commented by ILmoon at 2011-07-20 13:09 x
お久しぶりでございます。
コメントありがとうございました。
百合は仏壇の供え花にいいですね。
民家の風情、昔の田舎を思い出しますよ。
懐かしい感じがします。
Commented by nenemu8921 at 2011-07-20 19:29
オキザリスさん。
山百合はどうかすると20花も咲かせる株がありますね。
最後の百合は背後に黄色く枯れた植物があって、ぼかして背景に入れてみました。(^_-)-☆
本当に、この国はどこにあるのでしょうか?
2億年も前の、不確かな記憶のようですから。追求はしないほうがよさそうですね(笑)~~。
「めくらぶだうと虹」でしたか。たしか、「まことの瞳でものを見る人は、人の王のさかえの極みをも、野の百合の一つにくらべようとはしませんでした」とか、なんとか、書いていましたね。
賢治はキリスト教にも強い関心を持っていたと思います。
「銀河鉄道の夜」などは、そんな雰囲気が強いでしょう。

Commented by nenemu8921 at 2011-07-20 19:45
saitamanikkiさん。
ありがとうございます。
賢治文学に少しでも関心を持ってもらえたらうれしいです。
でも、写真を見てもらえるだけでもうれしいです。(^.^)

ムギワラ帽子の子どもですか!!
まあ、斬新ですね(^_-)-☆

Commented by nenemu8921 at 2011-07-20 19:49
ILmoonさん。
百合を仏壇の供え花ですか?
田舎の夏を連想させる花ですよね。
でも、園芸店では、カサブランカはあっても、山百合の球根は入手できませんでした。
Commented by yamakin716 at 2011-07-20 21:44
山百合の良い匂いが漂って来るようです。
一番・四番が良い撮り方してますね、とても素敵ですよ。
今年は一枚も撮らずに終わってしまいそうです。
最近茅葺の家が所々で見られますね、ひたち海浜公園にも二棟建ってました。
昔の田舎を思い出します。
Commented by 明日はケロリ^^ at 2011-07-20 22:49 x
つばさ雲さんのブログからこちらに来ました。
はじめまして「明日はケロリ」と申します。
宮沢賢治のファン名のですね^^「雨にも負けず」いいです^^
「自分を勘定に入れずに・・・」私はこの言葉が一番好きです。
お問い合わせで恐縮ですが^^このゆりの花^^カメラとレンズ
どんなお持ち物で写したか教えていただけませんか。
見事な鮮明度で惹かれてます^^

Commented by ミチ at 2011-07-21 21:21 x
こんばんわ。
貝細工のような山百合がどれも素敵に撮れていますね。
香りが強烈ですが懐かしい思い出があり好きな花です。
Commented by sdknz610 at 2011-07-21 21:22
五つ星!三ツ星!素晴らしい♪
トップの一つ星・・・
拡大画像で見られるといいんですが(涙)
Commented by boniy at 2011-07-21 22:22
我家の裏にも咲いてます
Commented by goiccio at 2011-07-22 12:41 x
改めてよく見ると、白い花というよりも花粉と斑紋の色で“赤い花”という感じがしました。
発見?それとも、心眼まで色眼鏡になってしまったのかしら…

デジブック、すごいです。世界はまだまだ広いです。
Commented by matsu_chan3 at 2011-07-24 06:49
おはようございます
こちらでは山百合だけが見たことがないですが東北どまりなのかな・・
オニユリが遅く来月咲くと思います。
今は、オオウバユリとクルマユリが咲いています。
Commented by nenemu8921 at 2011-07-24 21:33
yamakinさん。
出かけていてご無沙汰しました。
ありがとうございます。
#1と#4、やはり、ひかりと背景でしょうか?
ここでは昔の農家を復元しているようです。
Commented by nenemu8921 at 2011-07-24 21:36
明日はケロリさん。ようこそ。歓迎します。
宮沢賢治、関心をお持ちいただければ、うれしいです。
カメラはキャノン7D、レンズは200ミリの望遠を使っています。
Commented by nenemu8921 at 2011-07-24 21:44
ミチさん。
やっぱり思い出をお持ちですか?
なつかしい花ですよね。
かなり強い香りです。
しめきった部屋ではくらくらしますね。(^_-)-☆
それもなつかしさに繋がっています。
Commented by nenemu8921 at 2011-07-24 21:48
samさん。ありがとうございます。
花鳥画像はクリアだけでなく、美しくありたいと思うのですが。
難しいです!!
Commented by nenemu8921 at 2011-07-24 21:52
boniyさん。地方へ行くと、民家の庭先によく見かけますね。
やはり、夏休みの光景だなあと思います。
Commented by nenemu8921 at 2011-07-24 21:56
goiccioさん。赤い花ですか!! 新発見でもありますね。
遠方からだと白い花です。
こうしてレンズを通すと、細部がくっきりUPされる印象ですもの、
感じ方、よくわかるような気がします。(^_-)-☆
Commented by nenemu8921 at 2011-07-24 22:00
matsu_chanさん。
えっ、北海道には山百合が咲かないのですか。
そうですか。初めて聞きました。

ウバユリ、クルマユリ、どちらもスキです。(^_-)-☆
Commented by Peter Pooh at 2013-07-26 17:28 x
『十字架の赤い百合の花』が咲きました。
URL は、NHK神戸放送局の「ひょうごフォトコレ」のサイトを入れていますので、どうぞ、その写真をご覧下さい。
「四又の百合」は、仏教用語を用いていますが、私には以前訪れた中央アジア(カザフスタン)の風景と、イエス・キリストのエルサレム入城の情景が重なって感じます。
もしかすると、宮沢賢治もこのような「4枚の花びら(花弁)の百合」を見たのでは?、と思わされます。
Commented by nenemu8921 at 2013-07-27 06:48
peter poohさん。
ようこそ。たいへん貴重な情報をありがとうございます。拝見しました。
《十字架の赤い百合》、聖書のイメージがダブりますね。
ロマンを感じますね。カザフスタンは賢治の作品にも登場しますし。

科学的に考えれば、カサブランカがノ周辺で咲いたということを考慮しますと、
オリエンタルハイブリット系の変異かと思われますが。
(^_-)-☆
by nenemu8921 | 2011-07-20 00:22 | 植物 | Comments(24)

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by nenemu8921