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「銀河鉄道の父」直木賞受賞(@_@)

「銀河鉄道の父」門井慶喜著/講談社/2017.9月初版/¥1600+税
直木賞受賞だそうです。
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「銀河鉄道の父」は、門井慶喜という小説家の書いた賢治の父政次郎氏の視点で描いた宮沢賢治の伝記ですね。(昔、内田朝雄さんが政次郎擁護という文章を書いていましたが。)

ご存知のように、政次郎氏は小学校を出ただけで、家業を引き継ぎ、発展させ、株にも目ざとい投資をして利殖の才にたけた人でしたが、仏教信心に厚い人で、仏教講習会なども企画し実践し、町会議員でもありました。

門井さんは賢治も政次郎氏も聖者伝説風の美化した視点で描いていない点は好感が持てました。

研究者の多くは、賢治年譜・伝記の多くの資料を有しているわけですが、読み物として作るには、それらすべてを盛り込むわけにはいかないでしょうが、何を捨て、何を選んで、父親の立場として描くかだろうだと思います。全体としては、幼年時代に力点が置かれ、晩年は端折りすぎでした。

6歳の時赤痢に感染した賢治の付き添いとして一緒に入院して介護した政次郎氏が感染し、大腸カタルを起こし、以後生涯胃腸が弱くなったという話は有名ですが、当時としては家長としてあるまじき行為であり、それだけ長男への期待というか愛情というか、それが格別だったと描かれています。そのとおりでしょうね。

興味深かったのは妹トシの死も、賢治は書くための材料(たね)としてとらえていたという見方です。法華経信仰も農村活動も、父親の目からは大きなものと映らず、賢治にとっては文筆で身を立てることを目指していた風に描かれているように感じました。しかし説得力がないのです。もう一歩踏み込んでほしかったですね。

大正10年東京に家出した賢治を案じて訪ね、政次郎と二人で伊勢参りを兼ねた小旅行をしたことにも触れず、労農党を支援したことなどから、昭和2年花巻警察署で聴取を受けたことなどは宮沢家にとって大きな出来事だったと思いますが、全く触れていませんし。後半があまりにも駆け足なので、残念に思うばかりでした。

校本の年譜とはラグ(ずれ)も少なくなく、それが作者の見解なのか、単に調査不足なのか、わかりません。

 門井さんという方は存じませんが、講談社の担当編集者から話を聞いてみました。

小学生低学年の男の子が二人いて、父親としての立場を感じ考えるところから、賢治の父を描く動機だったとか。なんだか、イージーねと思いました。この人は「天才の値段」など美術品を素材にしたミステリーっぽい読み物も書いています。大阪にお住まいだそうで、週刊誌や新聞など関西版にいくつかインタビュー記事など載っているようです、(朝日新聞では、逢坂剛氏が新刊紹介をしていましたね)


以前から、年譜とは別に賢治の評伝を書いてくれる人がいたらいいなあと思っていましたが、

余りにも安易で、舌足らずで、残念に思ってしまいました。

以前、読後、率直な感想を友人宛に書いた書簡から引用しました。


芥川賞を受賞した「おらおらでひとりいぐも」(若竹千佐子著)は、宮沢賢治の詩「永訣の朝」に登場するフレイズがタイトルになっていますが、

内容は、いわゆる、玄冬小説(年を取るのも悪くないと思える小説のことだとか)で、賢治とも、妹さんとも関係のない世界が描かれています。


最近の直木賞、芥川賞の受賞は話題性が優先するのかもしれませんね。やれやれ。

宮沢賢治に関するものであれば、一定の読者を確保でき、話題になるのは確かですから。



Commented by h6928 at 2018-01-17 09:46
今朝の上毛新聞を見たら、
1面の記事にこのことが載っていました。
作者は群馬県桐生市の生まれだそうで、さすが上毛新聞です。
郷土出身者の偉業ということなのでしょうね。好意的な内容です。
nenenmuさんのような研究者には物足りないのでしょうけど(;^ω^)
ボクは、少し前に週刊誌の書評で褒められているのは見ましたけど、
本自体は読んでは降りません。
でも、この小説をきっかけに深く探求しようという人が現れれば、
それも貢献になるのかなぁ。
Commented by nenemu8921 at 2018-01-17 10:56
そうでしょうね。
群馬出身ということで、この本が出た当時彼の他の作品も読んだのですが……。
大阪の人というイメージでした。
ただただ、内容があまりにもイージーだなという印象でした。(>_<)
「おらおらでひとりいぐも」の若竹千佐子の受賞が千葉日報ではトップ記事でした! 
岩手県の遠野の出身だそうですが、現在千葉県木更津市在住だからです。
by nenemu8921 | 2018-01-16 23:53 | 賢治情報・スクランブル | Comments(2)

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