【72】 蕗の薹

陶標春をつめたくて、   水松(いちい)も青く冴えそめぬ。

水うら濁る島の苔、    萱屋に玻璃のあえかなる。

瓶(へい)をたもちてうなゐらの、みたりためらひ入りくるや。

神農像に饌(け)ささぐと、   学士はつみぬ蕗の薹

                          文語詩「医院」


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フキ(キク科フキ属)
フキノトウは若い花茎をいう。早春の味として親しまれている。

賢治の文語詩は定稿だけではなかなか解しにくいが、下書き稿や題材の一部を共有している口語詩などを勘案すれば、イメージできる。
陶器製の表札を掲げた医院の庭先の情景を歌ったものと読めよう。
立春過ぎてのころであろうか。雪はまだだいぶ残っている。
島の苔は唐突だが、「いちゐの囲み池をそなへた小さな医院」と、口語詩にはあることから池の中の島と思われる。いちゐの葉は雪が融けてつややかに青々している。
萱屋は萱葺き屋根を指す。玻璃はここでは氷柱であろう。
新米の3人の看護婦が薬瓶をささげもって部屋に入ってくるのが見える。
(医院の医師でもあるかつての)学士はようやく顔をのぞかせたフキノトウを 神農像にそなえようと摘んでいる。
人々が慎ましやかに穏やかに、心足りて暮らしている時間が、こちらにも流れてくるような情景である。
神農像は中国の古い伝説上の人物。漢方薬の神としてあがめられていたという。
群馬の薬王園というハーブ園を訪れたら門前にこの神農像が立っていた。

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いちゐ(イチイ科イチイ属) 水松
寒い地方に多い常緑針葉樹。このように赤い実がつくのは9~10月。
Commented by mayaha at 2007-02-18 08:32
中国地方北部の山に登ると山頂直下あたりの落葉樹の中にイチイの大木があって
神木になっています。遠くからでも目立っています。
Commented by nenemu8921 at 2007-02-18 17:53
大木に実がびっしりついたら見事でしょうね。
東北の方は、イチイをオンコといいます。
中国地方でもそういいますか?
by nenemu8921 | 2007-02-13 00:02 | 植物 | Comments(2)

宮沢賢治の愛した鳥や植物


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