【103】 キャンデイタフト
2007年 04月 09日
それにおれはおれの創造力に充分な自信があった。けだし音楽を図形に直すことは自由であるし、おれはそこへ花で BeethovenのFatasyを描くこともできる。さう考へた。
(略)
そのとき窓に院長が立ってゐた。云った。
(どんな花を植えるのですか。)
(来春はムスカリとチュウリップです。)
(夏は)
(さうですな、まんなかをカンナとコキア、観葉種です、それから花甘藍と、あとはキャンデタフトのライラックと白で模様をとったりいろいろします。)
院長はたうたうこらえ兼ねて靴をはいて下りて来た。
(略)
だめだだめだ。これではどこにも音楽がない。(略)
おれはこの愉快な創造の数時間をめちゃめちゃに壊した窓のたくさんの顔をできるだけ強い表情でにらみまはした。ところが誰もおれを見てゐなかった。次におれはその憐れむべき弱い精神の学士を見た。それからあんまり過鋭な感応体おれを撲ってやりたいと思った。
短編「花壇工作」
キャンデイタフト(アブラナ科イベリス属)
マガリバナ、トキワナズナなど和名はいろいろあるが、最近の園芸店ではイベリスという名で販売されていることが多い。キャンディタフトは英名で、砂糖菓子の盛り上がった様子からのネーミングという。
賢治の植物としては、私の「下ノ畑」に早くから導入した園芸植物。毎年、4月頃から花を咲かせ、花期も長く、楽しませてくれる。丈夫で手がかからない。
短編「花壇工作」は、賢治が花巻共立病院から花壇の設計を依頼された時の体験を交えた作品。
院長と、過鋭な感応体のおれとの心理劇が面白いのだが、解説は次回に。
nenemuのつぶやき
低迷気味の日々が続き、気分転換にスキンを変えました。
近ごろ、遅ればせに、写真のことが少しわかり始めたら、これまでの写真がどれも気に入らず、画像をアップできなくなりました。(;>_<;)
ふーむ、ここで写真道に専念できれば、ささやかでも1歩の前進があるのでしょうが、雑用をかかえて、そうもならず……。
やれやれ、楽しい気分を取り戻して、どうにか続けたい。