ミズバショウ←牛(ベゴ)の舌

丘のうしろは、小さな湿地になってゐました。そこではまっくろな泥が、あたたかに春の湯気を吐き、あちこちには青じろい水ばせう、牛(ベゴ)の舌の花が、ぼんやりならんで咲いてゐました。
タネリは思はず、また藤蔓を吐いてしまって、勢いよく湿地のへりを低い方へつたはりながら、その牛の舌の花に、一つづつ舌を出して挨拶してあるきました。
そらはいよいよ青くひかって、そこらはしぃんと鳴るばかり、タネリはたうたう、たまらなくなって、「おーい、誰か居たかあ」と叫びました。
                    童話「タネリはたしかにいちにち噛んでゐたやうだった」

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ミズバショウ(サトイモ科ミズバショウ属)水芭蕉
山地の湿原に生える多年草。花期は5~6月。ベゴノシタは東北地方の方言。
尾瀬のミズバショウが美しい歌によって有名になったのは戦後である。
賢治の時代、牛が食べないため、牧草にもならず、はびこって、農民にとってはやっかいものだった。
賢治は早くからその美しさを発見して、早春のシンボルとして登場させている。


イーハトーブでは、車で動けば一日のうちに早春から初夏まで体験できる。
関東ではもうすっかり花は終わったミズバショウだが、標高の高いところではようやく雪がとけ、
花がいま盛りで、葉は、ごらんのようにこれから伸びるのである。
Commented by マルメロ at 2007-06-14 00:30 x
ミズバショウをべゴの舌っというんでしたか。うっかりしていました。春先の湿原に咲くとは身近にあるようで気がつきませんでした。でも>そこではまっくろな泥が、あたたかに春の湯気を吐き・・・は痛いほどよくわかります。誰もが注目しなくても花のひとつひとつを見つめていくとその美しさにハット突然気が付くことがあることをこの年になってわかってきました。賢治はそれが何時でもどこでものひとであったこと、その感性はまさにフル全開だったということなんですね。
Commented by nenemu8921 at 2007-06-14 08:39
マルメロさん。声に出して発音してほしいわ。
私が読むと、ちがう、ちがうといわれました。

賢治の描く春の描写は、実感があるのですね。
Commented by マルメロ at 2007-06-14 16:55 x
そうなんです。賢治の詩はなんたって盛岡人がいい~とおっしゃったのは長岡輝子さんです。20年近く前のこと都心のデパートの賢治展に行ったとき画像童話のTV鑑賞コーナー席で、騒ぐ子供にアンタタチ~チャ~ントミナサイヨ~と懐かしい訛りでいさめていらした輝子女史に隣り合わせました。近くに住むこと知っていましたので思い切って声を掛けると帰る時彼女から是非ご一緒にと。足が悪い様子なので腕を貸し地下鉄の中では騒音を幸いとばかりに大声でウノジュウキチさんニハワルイケドケンジハヤッパリ盛岡弁デナクッチャ~と久しぶりの故郷訛りで気勢をあげました。ふふふ。丁度その頃発売された音声童話集のことでした。地下鉄とバスと乗りついて自宅前までの時間はとても楽しく、懐かしい思い出です。
Commented by nenemu8921 at 2007-06-15 01:06
マルメロさん。こんばんわ。
まあ、長岡輝子さんですか。魅力的な女優さんでしたね。
東北弁の美しさを文字で表現したのが宮沢賢治であれば、長岡さんは言葉の響きで東北弁のあたたかさを多くの人に伝えた人でしたね。
Commented by mayaha at 2007-06-16 12:03
牛(ベゴ)の舌と地元の方たちは感じていたのですね~早春から初夏まで堪能されて素敵ですね~
Commented by nenemu8921 at 2007-06-16 19:59
西の都では、いつも一足先に季節の先取りですね。
それぞれの土地の、それぞれのよさがありますね。
by nenemu8921 | 2007-06-13 16:04 | 植物 | Comments(6)

宮沢賢治の愛した鳥や植物


by nenemu8921