ノカンゾウ

日ざしがほのかに降ってくれば
またうらぶれの風も吹く
にはとこやぶのうしろから
二人のをんながのぼって来る
けらを着 粗い縄をまとひ
萱草の花のやうにわらひながら
ゆっくりふたりがすすんでくる
その蓋のついた小さな手桶は
きょうははたけへのみ水を入れて来たのだ
今日でない日は青いつるつるの蓴菜を入れ
欠けた朱塗の椀をうかべて
朝の爽やかなうちに町へ売りにも来たりする
鍬を二梃たゞしくけらにしばりつけてゐるので
曠原の淑女たちよ
あなたがたはウクライナの
舞手のやうに見える
   ……風よたのしいおまへのことばを
      もっとはっきり
      この人たちにきこえるやうに云ってくれ……
        詩「曠原淑女」(〔日脚がぼうとひろがれば〕下書稿(一))


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ノカンゾウ(ユリ科ワスレグサ属)野萱草
野原や山麓に生える多年草。ヤブカンゾウより、やや小ぶりで一重咲き。

賢治は萱草といっているので、ヤブカンゾウでもノカンゾウでもいいのだが、この詩のイメージとしては、ノカンゾウがいいなと思う。
この作品は手入れされて、定稿では「睡蓮の花のやうにわらひながら」となる。

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ジュンサイ(ハゴロモモ科ジュンサイ属)蓴菜
多年生の水生植物である。澄んだ淡水の池沼に自生する。若芽の部分を食用にするため、栽培されている場合もある

花巻でよくお世話になる「ならの里」というユースでは、このジュンサイを自家栽培していて、よくご馳走になる。
この宿のすごいのは、野菜、ヨーグルト、漬物、みな自家栽培の新鮮な素材をつかっているところだ。
Commented by かぐら川 at 2007-07-20 01:16 x
「ウクライナの舞手」が気になって、『宮沢賢治語彙辞典』をのぞいてみましたが、「立項」されていませんね。「鍬を二梃たゞしくけらにしばりつけてゐるので」とその衣装のさまを書いていますから、賢治は写真で?ウクライナの女性ダンサーを見たのでしょうね。
Commented by nenemu8921 at 2007-07-20 08:15
ダンサーというより、民族衣装姿ではないかと思うのですが。
ご存知かと思いますが、最初は「カウカサス」と書き、ウクライナと手直ししています。舞手は「祭」を手入れした語句です。
賢治の死後整理された蔵書目録のなかに「世界地理風俗体系」(全25巻・別巻9巻)がありました。
以前、このシリーズを図書館で調べたことがあります。別の項目を調べるためでしたが。
当時としては珍しい写真ページの多い興味深い本でした。
おそらくこのあたりが、イメージの源泉ではないかと…。

『宮沢賢治語彙辞典』は、膨大な語彙の解説ですので、もれた項目も当然、あるのでしょう。(ーー;)


Commented by かぐら川 at 2007-07-22 23:50 x
ダンサーは「踊る人」の意味で使ったのでした。
「世界地理風俗体系」(全25巻・別巻9巻)。そうですね、これが賢治の想源だったんですね。それにしても、こうした本からまるで実際見たかのような詩句が引き出されてくるとは。
Commented by nenemu8921 at 2007-07-23 19:08
そうですね。
踊る人←民族衣装姿かな? 推測です。

最近「宮沢賢治大事典」(勉誠出版)が、出ました。
残念なことに、こちらにも「ウクライナ」は立項されていません。
地名はかなり丁寧に拾ってはいるのですが。
植物の項目でも、ちよっと気になる部分はあります。


Commented by namiheiii at 2007-07-26 16:52
秋田の刈和野へ仕事で何度か行ったことがあります。一杯飲み屋のおばさんがよくこの「じゅんさい」の熱い汁を振舞ってくれました。雪の刈和野を思い出しました。
Commented by nenemu8921 at 2007-07-26 23:18
namihei先生が、秋田弁のおばさんを前にして、雪の町で、ひとり?飲む姿は絵になりそうですね。
ジュンサイは酢の物でしか、食べたことがありません。
熱い汁も美味しそうですね。
by nenemu8921 | 2007-07-19 23:31 | 植物 | Comments(6)

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by nenemu8921