カテゴリ:植物( 944 )

【85】 うずのしゅげ

うずのしゅげを知ってゐますか。
うずのしゅげは、植物学ではおきなぐさと呼ばれますがおきなぐさといふ名は何だかあのやさしい若い花をあらはさないやうに思ひます。(中略)
うずのしゅげといふときはあの毛茛(きんぽうげ)科のおきなぐさの黒繻子(くろじゅす)の花びら、青じろいやはり銀びろうどの刻みのある葉、それから6月のつやつや光る冠毛がみなはっきりと眼にうかびます。
                                       童話「おきなぐさ」
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オキナグサ(キンポウゲ科オキナグサ属)翁草
高さ10センチぐらいになる多年草。4,5月に長さ3センチほどの鐘状の花を下向きに開く。
宮沢賢治がこのおきなぐさ賛歌ともいうべき小さな童話を書き残さなかったら、この山野草は注目されなかったかもしれない。

最近の園芸店では、セイヨウオキナグサがたくさん出回っている。
セイヨウオキナグサは花も大きく、色鮮やかなものが多い。セイヨウオキナグサは上向きに咲く。
近くの万葉植物園では、ねつこ草(根都古草)という大きなプレートの横で小さな花を開き始めた。
by nenemu8921 | 2007-03-11 22:58 | 植物 | Comments(4)
たけしき耕の具を帯びて、   羆熊の皮は着たれども、
夜に日をつげる一月の、    干泥のわざに身をわびて、
しばしましろの露置ける、   すぎなの畔にまどろめば、
はじめは額の雲ぬるみ、    鳴きかひめぐるむらひばり、
やがては古き巨人の、     石の匙もて出てきたり、
ネプウメリてふ草の葉を、  薬に食めとをしへけり。
                文語詩「民間薬」


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ネプウメリ→ギョウジャニンニク(ユリ科ネギ属)行者大蒜
「民間薬」のネプウメリはこれまで、定説がなかったが、最近ギョウジャニンニク説が発表されている。
羆熊の毛皮をまとった農夫が夢で啓示を得る民間薬は、アイヌ民族がご馳走として、冬の保存食として、魔よけとして肺病をはじめ多くの病気に効能あらたかな食品としてのギョウジャニンニク、ヌペ草であろうというのである。
興味のある方は「ワルトラワラ22号」(ワルトラワラの会発行)をどうぞ。

最近ではこのギョウジャニンニクは山菜として、自然食品としても大変な人気だそうで、栽培しているところもあると聞いていた。
その折、2006年、6月、沢内村で、本当に栽培している情景に出会ったので撮影させていただいた。花はきれいだが、食品としては若い茎や葉を食するという。
また、つい最近、ギョウジャニンニクの漬物を知人からお送りいただいた。
これは栃木県産である。
味噌漬けで、白いご飯でいただくとたいそうな美味であった。

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by nenemu8921 | 2007-03-03 12:05 | 植物 | Comments(4)

【79】 コブシ

沃土ノニホヒフルヒ来ス、   青貝山のフモト谷、
荒レシ河原ニヒトモトノ、   辛夷ハナ咲キタチニケリ.

    文語詩〔沃土ノニホヒフルヒ来ス〕


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コブシ(モクレン科モクレン属)辛夷
マグノリアである。
賢治作品にはたびたび登場するので、下手な写真をお許しいただきたい。

文語詩 一百篇 中の一つ。
沃土は沃素。賢治作品には科学用語がごく当たり前に出てくるので戸惑う。
2行の定型が8連つづく作品。
海の匂うようなさわやかな山の朝だ。谷川はそこにささやかな河原を広げていた。
山仕事の人々の集合地には1本のコブシの木が立っていた。
「宮沢賢治文語詩の森」 (宮沢賢治研究会編)では、このように解説が始まっている。


by nenemu8921 | 2007-02-24 01:37 | 植物 | Comments(3)
 盛岡の産物のなかに、紫紺染といふものがあります。
 これは、紫紺といふ桔梗によく似た草の根を、灰で煮出して染めるのです。
                                童話「紫紺染について」


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ムラサキ(ムラサキ科ムラサキ属) 紫
ムラサキ科の多年草。
根が紫色で太く、古くから染料または薬用とされ、万葉の歌などにも多く詠まれてきた。
6~8月にこのような小さな花をつける。
明治維新以降、新しい染料が開発されるに伴って、紫の栽培は急速に衰えた。

紫紺染は普通は紫根染と書く。
童話「紫紺染めについて」は、町の工芸学校の先生や 紫紺染研究会の人が、西根山の
山男を招いて紫紺染めの製法を聞き出す話である。
by nenemu8921 | 2007-02-23 23:56 | 植物 | Comments(2)

【77】 ツバキ

海鳴りのとどろく日は
郵船(ふね)もより来ぬを
火の山の燃えさかりて
雲の流るる
海鳴りよせ来る椿のはやしに
ひねもす百合掘り
今日もはてぬ
    歌曲「火の島の歌」


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ツバキ(ツバキ科ツバキ属)椿
宮沢賢治が三原島を訪れたのは昭和3年の6月のことで、実際には大島の椿の花を見ることはなかったと思われるが、後に作ったこの詩には椿のはやしが登場する。
「椿のはやし」は自生するやぶ椿と思われる。つややかな緑の林だったろうか。

数年前の夏、私が三原島を訪れた時はアシタバの栽培が目立った。

画像は今日千葉市郊外の都市公園で出会った園芸種である。
by nenemu8921 | 2007-02-21 23:54 | 植物 | Comments(4)
葱いろの春の水に
楊の花芽ももうぼやける……
はたけは茶いろに掘りおこされ
並樹ざくらの天狗巣には
いぢらしい小さな緑の旗を出すのもあり
みづみづした鶯いろの弱いのもある……
            詩「小岩井農場」パート四

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イヌゴリヤナギ(ヤナギ科ヤナギ属)犬行李柳
日あたりのよい川岸や湿地などにふつうに生える落葉低木。
コリヤナギがその枝で柳行李の材料として使われたのに対して、
こちらは役に立たないことからイヌを冠した名がついた。
山野や水辺に自生するヤナギはいくつか種類があるが、総称してカワヤナギとよぶ。
これもその一つである。

長詩「小岩井農場」は、壮大な春のスケッチ集でもある。
もうぼやけるとは、この尾状花序がすっかり開いた風情をさすのだろう。

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桜の天狗巣
天狗巣とは植物の病害。菌類などの寄生、生理的障害の結果、高等植物の側芽が
異常に発達し、小枝が密生する現象。桜によく見られる。
賢治は目立たない自然の美しさを発見する達人であったが、同時に植物への専門的なまなざしも持っていた。天狗巣病は気にかかったものとみえ、文語詩にはよもぎの天狗巣という表現もあるが、それはその形状の比喩であろう。
by nenemu8921 | 2007-02-20 00:40 | 植物 | Comments(4)
私どもの方でねこやなぎの花芽をべむべろと云いますが、
そのベムベロが何のことかわかったやうなわからないやう
な気がするのと全くおなじです。
とにかくべむべろといふ語(ことば)のひゞきの中にあの柳の
花芽の銀びろうどのこゝころもち、なめらかな春のはじめの
光の具合が実にはっきり出てゐるやうに……
                          童話「おきなぐさ」

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ネコヤナギ(ヤナギ科ヤナギ属)猫柳
山野の水辺などに自生する落葉低木。
この花の美しさを教えてくれたのは宮沢賢治だ。
そしてカメラのレンズがこんな不思議なしべの存在を気づかせてくれた。
しかし撮影のテクニックまではなかなか取得できません。
by nenemu8921 | 2007-02-19 19:04 | 植物 | Comments(1)

【72】 蕗の薹

陶標春をつめたくて、   水松(いちい)も青く冴えそめぬ。

水うら濁る島の苔、    萱屋に玻璃のあえかなる。

瓶(へい)をたもちてうなゐらの、みたりためらひ入りくるや。

神農像に饌(け)ささぐと、   学士はつみぬ蕗の薹

                          文語詩「医院」


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フキ(キク科フキ属)
フキノトウは若い花茎をいう。早春の味として親しまれている。

賢治の文語詩は定稿だけではなかなか解しにくいが、下書き稿や題材の一部を共有している口語詩などを勘案すれば、イメージできる。
陶器製の表札を掲げた医院の庭先の情景を歌ったものと読めよう。
立春過ぎてのころであろうか。雪はまだだいぶ残っている。
島の苔は唐突だが、「いちゐの囲み池をそなへた小さな医院」と、口語詩にはあることから池の中の島と思われる。いちゐの葉は雪が融けてつややかに青々している。
萱屋は萱葺き屋根を指す。玻璃はここでは氷柱であろう。
新米の3人の看護婦が薬瓶をささげもって部屋に入ってくるのが見える。
(医院の医師でもあるかつての)学士はようやく顔をのぞかせたフキノトウを 神農像にそなえようと摘んでいる。
人々が慎ましやかに穏やかに、心足りて暮らしている時間が、こちらにも流れてくるような情景である。
神農像は中国の古い伝説上の人物。漢方薬の神としてあがめられていたという。
群馬の薬王園というハーブ園を訪れたら門前にこの神農像が立っていた。

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いちゐ(イチイ科イチイ属) 水松
寒い地方に多い常緑針葉樹。このように赤い実がつくのは9~10月。
by nenemu8921 | 2007-02-13 00:02 | 植物 | Comments(2)
小十郎がすぐ下に湧水のあったのを思ひ出して、少し山を降りかけたら愕いたことは母親とやっと一歳になるかならないような子熊と二疋、丁度人が額に手を当てて遠くを眺めるといった風に、淡い六月の月光の中を向うの谷をしげしげ見つめてゐるのにあった。
小十郎はまるでその二疋の熊のからだから後光が射すやうに思へて、釘付けになったやうに立ちどまってそっちを見つめてゐた。
すると小熊が甘えるやうに云ったのだ。
「どうしても雪だよ、おっかさん。谷のこっち側だけ白くなってゐるんだもの。どうしても雪だよ。おっかさん」
すると母親の熊はまだしげしげ見つめてゐたがやっと云った。
「雪でないよ、あすこへだけ降る筈がないんだもの。………おかあさまはわかったよ、あれねえ、ひきざくらの花」
「なぁんだ、ひきざくらの花だい。僕知ってるよ。」
………
小十郎はなぜかもう胸がいっぱいになって、もう一ぺん向ふの谷の白い雪のやうな花と余念なく月光をあびて立ってゐる母子の熊をちらっと見て、それから音をたてないやうにこっそりこっそり戻りはじめた。
くろもじの木の匂ひが月のあかりといっしょにすっとさした。
                                      童話「なめとこ山の熊」


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ひきざくら(セキザクラとも)
岩手、秋田両県に通用するコブシの方言名。
春早く山の木がまだ一本も青くならないころの出来事である。
聖なる時間が流れているような会話の話題としてコブシはいかにもふさわしい。

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画像提供はyonoさん
by nenemu8921 | 2007-02-02 01:15 | 植物 | Comments(2)
賢治作品にはたくさんのマグノリアが登場する。
辛夷(こぶし)であったり、ひきざくらだったり、厚朴(ホオノキ)だったり、表記も呼び名もさまざまであるが、それらはすべてマグノリアである。
モクレン科モクレン属の学名がMagnoliaceae Magnolia、マグノリアである。
けれども、作品を読み込んでいくと、それらのイメージはそれぞれ限定できそうだ。

直き時計はさま頑く、       憎に鍛えし瞳は強し
さはあれ攀ぢる電塔の、      四方に辛夷の花深き。

南風(かけつ)光の網織れば、  ごろろと鳴らす碍子群、
艸火のなかにまじらひて、     蹄のたぐひけぶるらし。

                      文語詩「電気工夫」


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画像提供はyonoさん

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画像提供はyonoさん

コブシ(モクレン科モクレン属)辛夷
山野に自生する落葉高木。早春、桜に先駆けて咲く。握りこぶしを思わせるつぼみからコブシの名の由来という説もある。

電塔に攀じ登ろうとする電気工夫は正確な時計のように頑なで融通の利かない男。
するどい視線でなぜか憎しみに燃えている。
登れば、男の視界は開け、眼下には、あちこちに咲く白いこぶしの花が群れている。
南からの風に運ばれてまぶしく光が降り注ぎ、送電線も光って揺れ、揺れた碍子はごろろと鳴る。
枯れ草を焼く野火も遠く見え、牛か、馬か、煙にかすんでいるようだ。と読めようか。

この文語詩の最初の形は、詩ノートで、「あっちもこっちもこぶしのはなざかり」と始まっている。
はなざかりのこぶしは長い冬の終わりを告げている。
閉ざされた男の心も春をかんじ解放されただろうか。
by nenemu8921 | 2007-01-29 23:22 | 植物 | Comments(4)

宮沢賢治の愛した鳥や植物


by nenemu8921