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【23】 大空瀧

そこをがさがさ三里ばかり行くと、向ふの方で風が山の頂を通ってゐるやうな音がする。
気をつけてそっちを見ると、何だかわけのわからない白い細長いものが、山をうごいて
落ちてけむりを立ててゐるのがわかる。
それがなめとこ山の大空瀧だ。
そして昔はそのへんに熊がごちゃごちゃ居たさうだ。
                                     童話「なめとこ山の熊」


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by nenemu8921 | 2006-11-30 00:35 | 場所 | Comments(2)

ばらの実

一つぶのばらの実を唇にあてました。
するとどうでせう。唇がピリッとしてからだがブルブルッとふるひ、何かきれいな流れが頭から手から足まで、すっかり洗ってしまったやう、何とも云へずすがすがしい気分になりました。空まではっきり青くなり、草の下の小さな苔まではっきり見えるやうに思ひました。
それにいままで聞こえなかったかすかな音もみんなはっきりわかり、いろいろの木のいろいろな匂いまで実に一一手にとるやうです。おどろいて手に持ったその一つぶのばらの実を見ましたら、それは雨の雫のやうにきれいに光ってすきとほってゐるのでした。
    童話「よく利く薬とえらい薬」


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画像提供はyonoさん
by nenemu8921 | 2006-11-28 23:19 | 植物 | Comments(0)

つゆ

そして十力の金剛石は野ばらの赤い実の中のいみじい細胞の一つ一つにみちわたりました。
その十力の金剛石こそは露でした。
あゝ、そしてそして十力の金剛石は露ばかりではありませんでした。
碧いそら、かゞやく太陽、丘をかけて行く風、花のそのかんばしいはなびらやしべ、
草のしなやかなからだ、すべてこれをのせになふ丘や野原、王子たちのびろうどの
上着や涙にかゞやく瞳、すべてすべて十力の金剛石でした。
                              童話「十力の金剛石」

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画像提供はyono さん

王子と大臣の子どもは虹の脚もとにあるというルビーの絵の具皿を探しに出かけます。
霧が晴れて出た虹を追って二人は森に入ります。そこへ歌とともに現れた蜂雀たち。
蜂雀たちと丘に登れば、宝石の雨が降り注ぎます。見れば草花もみな宝石類です。
その花が十力の金剛石が来ない寂しさを歌います。やがて十力の金剛石が降り、地はみな潤います。
十力の金剛石とは露であり、万象を輝かしめるそのものでした。
金剛石はダイヤモンド、十力は仏のもつ十種の智力のこと。
by nenemu8921 | 2006-11-28 23:03 | その他 | Comments(0)
この荒れ畑の切り返しから
今日突然に湧き出した
三十キロでも利かないやうな
うすい黄いろのこの菊芋
あしたもきっとこれだけとれ、
更に三四の日を保する
このエルサレムアーティチョーク
イヌリンを含み果糖を含み
小亜細亜では生でたべ
ラテン種族は煮てたべる
古風な果蔬トピナムボー
  詩〔そもそも拙者ほんものの清教徒ならば〕

 
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キクイモ
キク科、ヒマワリ属、キクイモ 帰化植物。明治初期に資料として輸入されたものが各地で野生化している。エルサレム・アーティーチョークは英名で、エルサレムのヒマワリの意。果蔬トピナムボーは、果蔬(かそ)は食用にする果物や野菜のこと、トピナムボーはキクイモのフランス名。荒れ畑を開墾していて、キクイモの根茎がごろごろ出てきて、参っているのである。
しかし、賢治が言うように、確かにキクイモは、イヌリンをたっぷり含み、ビタミンもミネラルも豊富なので、最近では糖尿病改善、高血糖改善のための健康食品として注目されている。
しらべてみると、商品化されて、顆粒状にしたものやお茶やうどんまであるらしい。
http://www.e-kikuimo.com/index.html
きっと、宮沢賢治もびっくりしていることだろう。
今回、大迫の産直センターで袋入のキクイモが売られていたので、購入した。宿のご主人に話すと、「うちにもいっぱいある」と、行って奥から出してきて見せてくれた。そして塩漬けにしたものをご馳走になった。
by nenemu8921 | 2006-11-28 11:20 | 植物 | Comments(2)

ヤドリギ

「栗の木 死んだ、何して死んだ、
子どもにあたまを食われて死んだ」

「栗の木食って 栗の木死んで
かけすが食って 子どもが死んで
夜鷹が食って かけすが死んで
鷹は高くへ飛んでった」
 
     童話「タネリはたしかにいちにち噛んでいたやうだった」


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ヤドリギ(宿木)
クリ、ブナ、エノキ、ケヤキ、ミズナラなど、落葉樹の大木に寄生する常緑小低木。
常緑なので冬に宿主の葉が落ちると目立つ。
鳥がその実をついばみ、糞をすることで、他の枝に運ばれる。
賢治のヤドリギはクリの木がお気に入りのようだ。
カケスはヤドリギを食べるが、もちろんヨタカがカケスを食べることはない。
タネリはでまかせの歌を歌うのは得意である。
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晩秋のイーハトーブに行ってきました。
早池峰山の麓で、思いがけず出会いました。サガレン紀行は途中ですが、しばらく気ままに展開させてください。よろしく。from nenemu
by nenemu8921 | 2006-11-27 00:33 | 植物 | Comments(3)

十字狐

つめたがひにやられたのだな。

朝からこんないい標本がとれるならひるすぎは

十字狐だってとれるにちがないと私は思ひながら

それを拾って雑嚢に入れたのでした。

                     「サガレンと八月


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この画像は≪北海道紋別市郊外山ん中在住 てっちゃん≫のご提供によるものです。

十字狐という狐が本当にいると知ってびっくりしました。
背中に十字模様の斑紋があることからクロスフォックスと呼ばれ、毛皮の業界では珍重されますが、自然界では非常にまれにしか生まれないようです。
当時、樺太では養狐業が盛んで、十字狐も飼育されていました。
賢治が訪れただろうと推察している人もいますが、小沼(現ノポアレクサンドロフスク)にあった樺太庁農事試験場には、林に囲まれた大規模な養狐場がありました。
2006年、夏に我々が訪れたときには、建物は当時のままで、警察大学とロシア・アカデミー海洋地層地質学研究所になっていました。
私は建物の裏手を見て歩きましたが、ひとけがなく、エゾニュウが丈高く茂り、今にも狐が出てきそうでした。

十字狐は赤狐の変種とも、赤狐と黒狐の交配から生まれるともいわれます。
黒狐というのは、赤狐の突然変異の変種だそうですから、いかに珍らしいものか想像できますね。
でも、北海道の十字狐はキタキツネと野生化した銀狐の交配から生まれたのではないかと推測する人もいます。
北海道でも、10年前ぐらいまで養狐業は行われていたそうです。
土地のハンターは、サンケキツネ(三毛狐)とも呼ぶそうです。

明日から1週間ほど旅に出ます。しばらく更新できませんが、また、よろしくお願いいたします。from nenemu
by nenemu8921 | 2006-11-18 20:58 | 鳥・動物 | Comments(2)

不思議なブリーベル

不思議な釣鐘草(ブリーベル)とは何か。

海岸に多いハマベンケイソウではないかという説が有力であるが、内地のものより大きな花を咲かせる釣鐘草を見たという体験談もある。

私は海岸ではそれらしき植物に出遭えなかったが、郊外ではあちこちで野生化したコーンフリーを見た。


ハマベンケイソウ
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ツリガネニンジン
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コーンフリー
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by nenemu8921 | 2006-11-17 11:18 | 植物 | Comments(0)

こけももの実は

わたくしはしばらくねむらうとおもふ        
なぜならさつきあの熟した黒い実のついた
まつ青なこけももの上等の敷物(カーペット)と
おほきな赤いはまばらの花と
不思議な釣鐘草(ブリーベル)とのなかで
サガレンの朝の妖精にやつた
透明なわたくしのエネルギーを
いまこれらの濤のおとや
しめつたにほひのいい風や
雲のひかりから恢復しなければならないから
                詩「オホーツク挽歌」


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コケモモは黒熟しない。「サガレンと八月」でも、「タネリは云ひながら、黒く熟したこけももの間の小さなみちを、砂はまに下りて来ました」とある。同じような場所に生え、黒く熟すガンコウランのことではないかという説もある。しかし、見たままを書くのが賢治である。赤い実は遠くから見れば黒っぽくも見えたのかもしれない。[インドラの網]では、「こけももには赤い実もついてゐたのです」と書いている。

私は栄浜でコケモモもガンコウランも見つけることは出来なかった。
このスナップは 2006年、8月末、秋田の八幡平で撮影したものである。
by nenemu8921 | 2006-11-15 17:25 | 植物 | Comments(0)

【15】 妖精のしわざ


朝顔よりはむしろ牡丹(ピオネア)のやうにみえる

おほきなはまばらの花だ

真っ赤な朝のはまなすの花です

  ああこれらのするどい花のにほひは

  もうどうしても 妖精のしわざだ

         詩「オホーツク挽歌」


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by nenemu8921 | 2006-11-14 03:59 | 植物 | Comments(1)

チモシイ

チモシイの穂がこんなにみじかくなって
かはるがはるかぜにふかれてゐる
   (それは青いいろのピアノの鍵で
    かはるがはる風に押されてゐる)
          詩「オホーツク挽歌」


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チモシイはイネ科の植物で、ユーラシア産の多年草。
明治初期に牧草として輸入され、現在では広く各地に野生化した。オオアワガエリ。

風に揺れているチモシイの穂が、演奏するピアノの鍵盤のように
代わる代わるゆれているのである。
オホーツクの海風がチモシイのピアノで演奏するのは、亡き妹の死後の
ありようを案じる詩人のこころだった。




 
by nenemu8921 | 2006-11-12 16:28 | 植物 | Comments(0)

宮沢賢治の愛した鳥や植物


by nenemu8921