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賢治作品にはたくさんのマグノリアが登場する。
辛夷(こぶし)であったり、ひきざくらだったり、厚朴(ホオノキ)だったり、表記も呼び名もさまざまであるが、それらはすべてマグノリアである。
モクレン科モクレン属の学名がMagnoliaceae Magnolia、マグノリアである。
けれども、作品を読み込んでいくと、それらのイメージはそれぞれ限定できそうだ。

直き時計はさま頑く、       憎に鍛えし瞳は強し
さはあれ攀ぢる電塔の、      四方に辛夷の花深き。

南風(かけつ)光の網織れば、  ごろろと鳴らす碍子群、
艸火のなかにまじらひて、     蹄のたぐひけぶるらし。

                      文語詩「電気工夫」


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画像提供はyonoさん

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画像提供はyonoさん

コブシ(モクレン科モクレン属)辛夷
山野に自生する落葉高木。早春、桜に先駆けて咲く。握りこぶしを思わせるつぼみからコブシの名の由来という説もある。

電塔に攀じ登ろうとする電気工夫は正確な時計のように頑なで融通の利かない男。
するどい視線でなぜか憎しみに燃えている。
登れば、男の視界は開け、眼下には、あちこちに咲く白いこぶしの花が群れている。
南からの風に運ばれてまぶしく光が降り注ぎ、送電線も光って揺れ、揺れた碍子はごろろと鳴る。
枯れ草を焼く野火も遠く見え、牛か、馬か、煙にかすんでいるようだ。と読めようか。

この文語詩の最初の形は、詩ノートで、「あっちもこっちもこぶしのはなざかり」と始まっている。
はなざかりのこぶしは長い冬の終わりを告げている。
閉ざされた男の心も春をかんじ解放されただろうか。
by nenemu8921 | 2007-01-29 23:22 | 植物 | Comments(4)

【64】 あぜみの花

「アンドロメダ、
あぜみの花がもう咲くぞ、
おまへのラムプのアルコホル、
しゆうしゆと噴かせ。」
       童話「水仙月の四日」


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アセビ(ツツジ科アセビ属)馬酔木
やや乾燥した山地に生える常緑低木。3,4月に壺状の花を無数につける。自生のものは白い花。これは園芸種。
有毒植物で馬が食べると苦しむことからこの字を当てたという。

馬酔木の英名がandromedaであることから、北天の星座を挑発し、地上の春に咲く花と競わせた発想を指摘したのは谷川雁氏だった。
天と地のアンドロメダの呼応。
壺型の小さな花をランプにたとえているが、短歌では馬酔木をまひるの月あかりとしているのも面白い。

月あかりまひるの中に入り来るは馬酔木の花のさけるなりけり
                                   歌稿791

あぜみ咲きまひるのなかの月あかりこれはあるべきことにあらねど
                                   歌稿792

by nenemu8921 | 2007-01-25 01:26 | 植物 | Comments(2)

【63】青い虻

今日こそわたくしは
どんなにしてあの光る青い虻どもが
風のなかから迷って来て
縄やガラスのしきりのなかで
留守中飛んだりはねたりするか
すっかり見届けたつもりである
            詩 〔今日こそわたくしは〕


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アオメアブ(ハエ目ムシヒキアブ科)
体長22~30mm。草原や林の周辺で見られ、甲虫やハエ、アブなど、他の昆虫を捕まえて体液を吸う。
サングラスをかけたような緑色の複眼が美しい。
私の「下ノ畑」で見つけたもの。

「春と修羅」第三集中の作品。羅須地人協会時代。
留守中にガラス戸のある家に入り込んで、飛んだりはねたりしている虻を気にかけているのである。今日こそという表現には日頃から悩まされている様子が伝わって来る。
この作品の虻がアオメアブとは限らないのだが。
by nenemu8921 | 2007-01-23 00:47 | 鳥・動物 | Comments(0)
さぎといふものは、みんな天の川の砂が凝(こご)って、ぼおつとできるもんですからね。
そして始終川へ帰りますからね。川原で待ってゐて、鷺がみんな、脚をこういう風にして
下りてくるとこを、そいつが地べたへつくかつかないうちに、ぴたつと押へちまふんです。
                                        童話「銀河鉄道の夜」

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画像提供は堀内洋助さん

がらんとした桔梗いろの空から、さっき見たやうな鷺が、まるで雪の降るやうに、
ぎゃあぎゃあ叫びながら、いっぱいに舞ひおりて来ました。                
                                        童話「銀河鉄道の夜」
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画像提供は堀内洋助さん

サギ(コウノトリ目サギ科)
ここでのサギは白鷺のイメージであろう。白鷺というのは、ダイサギ、チュウサギ、コサギなど、羽毛の白いサギの総称である。
このサギたちは晩夏から初秋にかけて大きな群れをつくり、川原や水辺の芦原やススキ野原をねぐらとし、明け方、陽が登る直前にねぐらを飛び立ち、それぞれの餌稼ぎに散っていく。
陽が落ち、空に夕焼けの余韻が消え暗闇が訪れる前の短い時間、あたりは確かに桔梗いろになる。
そのとき鷺たちが次々と舞い降りてくるさまは実に美しい。
ゆっくりと脚で地面を確認するように着地する様子を見ていると、手を伸ばして「地べたにつくかつかないうちに、ぴたっと押さえ」たくなる衝動は誰しも感じるだろう。
ここには殺生という血生臭い要素はない。
この美しい光景、心を奪われる一瞬を永遠のものにしたいという願望こそ、人であれば誰しも感じる感覚ではないだろうか。
だからこそ、人は鳥の写真を撮り、絵を描き、詩を作る。
鳥捕りとは、鳥を撮る人である。
                 拙稿「銀河で立ちつくすもの」(『宮沢賢治17 特集ジョバンニ』洋々社)より
                                         
by nenemu8921 | 2007-01-20 14:04 | 鳥・動物 | Comments(2)

【61】 同心町

同心町の夜あけがた
一列の淡い電燈
春めいた浅葱いろしたもやのなかから
ぼんやりけぶる東のそらの
海泡石のこっちの方を
馬をひいてわたくしにならび
町をさしてあるきながら
程吉はまた横眼でみる
          詩 〔同心町の夜あけがた〕


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同心町
花巻町大字下根子字桜にあった羅須地人協会から、町へ出るには向小路を抜けていく。
そこには、同心(下級武士のこと)の住んでいた曲がり家風の家屋が十数戸、軒を並べていた。
藩政時代には奥州街道をはさんで東側に15軒、西側に15軒、計30軒の武家屋敷があったという。
同心町とは賢治の造語である。文語詩「短夜」では、目あかし町と書いている。
この貴重な写真は昭和初期の頃の撮影だそうで、ここにお住まいだった現在花巻市在住のT・M氏から頂いた写真です。
by nenemu8921 | 2007-01-16 15:44 | 場所 | Comments(0)

【60】 水仙

「カシオピイア、
もう水仙が咲き出すぞ
おまへのガラスの水車(みづぐるま)
きつきとまはせ」
         童話「水仙月の四日」


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ニホンスイセン(ヒガンバナ科スイセン属)
日本では最も古くから園芸化された球根植物。房総や伊豆、南紀などでは、野生化したこの花の大群生地が観光名所にもなっている。
昨今ではラッパスイセンやクチベニスイセンなど数多くの園芸種があるが、賢治の時代はチューリップやヒヤシンスでさえ、一般的には珍しい花だった。
春一番に咲き始める香りのよいニホンスイセンこそ、水仙月のイメージにふさわしい。
ところで、水仙月とはいつかという命題には、これまでもさまざまな論があるが、どれもなるほどと思うものの、ムキになって定義しなくともいいなとも感じてしまう。

今年も私の「下ノ畑」では静かに咲き始めた。
by nenemu8921 | 2007-01-15 16:14 | 植物 | Comments(0)
それはちひさな蜘蛛の巣だ
半透明な緑の蜘蛛が森いっぱいにミクロトームを装置して
虫のくるのを待ってゐる
にもかかわらずは虫はどんどん飛んでゐる
あのありふれた百が単位の羽虫の輩が
みんな小さな孤光燈といふやうに
さかさになったり斜めになったり
自由自在に一生けんめい飛んでゐる
                 詩〔落葉松の方陣は〕


半透明な緑の蜘蛛とは何か?
賢治作品に登場するクモは、植物や鳥に比べれば、そう多くはない。
カラマツ林(落葉松)のなかで見つけた半透明の緑のクモとは何か?
ミクロトーム(microtome)は、顕微鏡で観察する際の試料を薄く切るための装置。
ここではクモの巣を比ゆしている。
網を張る緑色のクモは、水平円網を張るウロコアシナガグモ(アシナガグモ科)、エゾアシナガグモ(アシナガグモ科)、サツマノミノダマシ(コガネグモ科)などがある。
サツマノミノダマシは昼間は葉裏に隠れていて、夕方になるとすばやく円網を張る。山の林道から都会の公園まで、広く見られる。
ワカバグモ(カニグモ科)、ツユグモ(カニグモ科)、ハナグモ(カニゴモ科)も美しい緑色のクモだが、徘徊性で、網は張らず、大きな前足を広げて虫を待ち伏せして捕獲する。
『宮沢賢治語彙辞典』ではワカバグモとしているが、これは明らかな早とちりといえそうだ。

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ウロコアシナガグモ 画像提供は福光村昆虫記さん
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サツマノミノダマシ 私の「下ノ畑」で、昨年7月にアガバンサスの葉の上で見つけたもの。夕方になっても網は発見できなかった。

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ワカバグモ 画像提供は虫ナビさん

「下ノ畑」ニ居リマス
住まいのベランダから見下ろせる場所に市民農園の一角を借りて小さな畑で、花や野菜を作っています。
猫の額というより、鼠の額ほどのスペースで、「下ノ畑」と呼ぶのはおこがましいのですが、宮沢賢治が愛した植物を実際に育ててみますと、新たに発見するものも多いことは確かです。
冷や汗ですが、少しづつこの「下ノ畑」も紹介したいと思います。
by nenemu8921 | 2007-01-13 23:52 | 昆虫・クモなど | Comments(0)

【58】 蜘蛛の巣

風がにはかに吹きだすと
暗い虹だの顫えるなみが
息もつけなくなるくらゐ
そこらいっぱいひかり出す
それは小さな蜘蛛の巣だ
半透明な緑の蜘蛛が
森いっぱいにミクロトームを装置して
虫のくるのを待ってゐる
        詩〔落葉松の方陣は〕


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画像提供は堀内洋助さん
by nenemu8921 | 2007-01-11 23:08 | その他 | Comments(2)

【57】 氷の羊歯

船乗りの青年はポケットから小さなナイフを出してその窓の羊歯(シダ)の葉の形をした氷をガリガリ削り落としました。削り取られた分の窓ガラスはつめたくて実によく透きとほり、向ふでは山脈の雪が耿々とひかり、その上の鉄いろをしたつめたい空には、まるでたつたいまみがきをかけたやうな青い月がすきつとかゝつてゐました。
                                               童話「氷河鼠の毛皮」

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画像提供はてっちゃんです。

今年はあちこちから暖冬の便りが届きます。イーハトーブでもこんな情景は見られないのかもしれない。北海道紋別市郊外山ん中在住のてっちゃんによれば、こんな氷の羊歯は、マイナス10℃ぐらいにならないと見られないそうです。
by nenemu8921 | 2007-01-09 00:30 | 気象 | Comments(0)

【56】 太陽 1

(ちゃんと今朝あのひしげて融けた金の液体が
青い夢の北上山地からのぼったのをわたくしは見た)
                           詩「白い鳥」


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画像提供は堀内洋助さん

賢治作品には太陽が頻繁に登場する。その呼び名も「お日さま」「日輪」「日天子」「陽」「おキレさま」「光炎菩薩」「太陽マジック」「喪心のしろいかがみ」などと独特である。
その形容も朝日が青かったりして面白い。「銅(あかがね)づくりのいきもの」だったり、「日はトパーズのかけらをそそぎ」「ひはうつくしい孔雀石色に着飾って」などと鉱物的表現も宮沢賢治ならではのものだ。花巻農学校の精神歌は太陽賛歌そのものである。
ここでは《ひしげて融けた金の液体》という独特の表現を美しく捕えた画像を紹介する。背景は北上山地ではなく、渡良瀬遊水地である。
by nenemu8921 | 2007-01-08 04:14 | 気象 | Comments(0)

宮沢賢治の愛した鳥や植物


by nenemu8921