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【99】 ライラック

今夜市庁のホールでうたふマリヴロン女史が、ライラック色のもすそをひいてみんなをのがれて来たのである。
                                        童話「マリヴロンと少女」


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ライラック(モクセイ科ハシドイ属)
別名リラ。ムラサキハシドイ。美しい花とその芳香が愛され、庭木などで親しまれている落葉小高木。ちなみにハシドイとは、木の枝先に花が集まって咲くことから「ハシツドイ=端集い」と言われていたものが、つまったものという。
原産地は東ヨーロッパ。日本に入ってきたのは明治半ば。花色は白もある。

「めくらぶだうと虹」に手入れした作品。
めくらぶだうが少女ギルダに、虹が声楽家マリヴロンに置き換えられている。
賢治が中学生のときの英語の教科書に、フランスのオペラ歌手マリー・マリブラン(1806~1838)のエピソードが載っていたという。
by nenemu8921 | 2007-03-31 22:27 | 植物 | Comments(4)

【98】 雪柳

その水際園に
なぜわたくしは枝垂れの雪柳を植えるか
十三歳の聖女テレジアが
水いろの上着を着羊歯の花をたくさんもって
小さな円い唇でうたひながら
そこからこっちへでてくるために
わたくしはそこに雪柳を植える
          「装景手記」ノート


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ユキヤナギ(バラ科シモツケ属)雪柳
各地の川沿いの岩上などに生える落葉低木。庭木としても親しまれている。

聖女テレジアはフランスの修道女(1873~1897)。
彼女の書いた自叙伝は世界的なロングベストセラーとなり、日本では1911(明治44)年に『小さき花 聖女ちいさきテレジアの自叙伝』として刊行され、広く感動をよんだという。
ユキナヤギの白い小さな花はテレジアへささげる花としていかにもふさわしい。

追記
知人から画像をお送りいただいたので、感謝とともに、ご紹介いたします。
短編「花壇工作」にも聖女テレジアは登場します。賢治は修道女と若い看護婦と重ねてイメージしたようです。
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画像提供は壺中人さんです。
by nenemu8921 | 2007-03-30 09:40 | 植物 | Comments(0)
浅黄と紺の羅紗を着て
やなぎは蜜の花を噴き
鳥はながれる丘丘を
馬はあやしく急いでゐる
(中略)

かぐはしい南の風は
かげろふと青い雲滃を載せて
なだらのくさをすべって行けば
かたくりの花もその葉の斑も燃える
             詩「北上山地の春」

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北上山地、外山検査所のにぎやかな光景です。
浅黄と紺の羅紗を着ているのは雌馬だった。
希望の種馬につけてもらえうよう、家族の手でせいいっぱい磨き上げた馬である。
冬のあいだ、農家で飼育された雌馬たちから、将来生まれてくる産駒を考慮して、種牡馬を配合するに最も適当な血統と体型を持った雌馬を選出する行事が雌馬検査だった。
そして、これから馬たちは共同の放牧地に連れ出され放し飼いにされる。
雲滃はくもかげの意。ヤナギの花芽がほころび、カタクリが咲く季節だ。
by nenemu8921 | 2007-03-29 01:19 | 植物 | Comments(2)

【96】 連雀

  松の林の足なみは
  ごくあたらしいテレピンの香と
  炭窯のなかには小さなドラモンド光もあって
  一羽の連雀が叫んでゐる
    (まああたし
     月見草の花粉でいっぱいだわ)
          詩〔北上川は熒気をながしィ〕下書稿(一)


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ヒレンジャク(スズメ目レンジャク科)緋連雀
冬鳥として渡来。まったくこない年もある。11~4月頃に各地で見られる。イボタ、ヤツデ、キヅタ、ヤドリギなどの実を食べる。群れでいることが多い。チリチリチリと細く鳴き、ヒーヒーと高い声も出す。
尾の先端が赤いのがヒレンジャク、黄色いのがキレンジャク。
両者が混群をなしていることもある。

この作品ははじめ「夏幻想」の題で書き始められたが、推敲過程で、再三手を入れられ、変化している。
最終形では、賢治と妹トシと思わせる兄妹が北上川を眺めながら、エスプリの効いた会話をかわしながら、バードウォッチングしている情景が浮かんでくる。
登場するのは、へらさぎ、連雀、ほヽじろ、かはせみ、孔雀(石)、かけす、夜鷹、蜂鳥などの鳥や、植物はバッタカップ、月見草、燕麦、杏、松、アイリス、かきつばた、赤楊、しヽうど、稲草、チュウリップ、カンナなどが多彩に入れ替わる。
まことに絢爛たる賢治風の花鳥図譜だ。だから実際の光景ではないのである。
「女性岩手」に発表したときの題は「七月・花鳥図譜」であった。

画像は数日前、豊沢川周辺で、カワヤナギの新芽をついばんでいたレンジャクの群れに出会った折のもの。曇天で、対岸の小鳥は小さかった。
ご案内いただいたイーハトーブの友人に感謝です。
by nenemu8921 | 2007-03-27 13:18 | 鳥・動物 | Comments(4)
(春が来るとも見えないな)
(いや、来るときは一どに来る
 春の速さはまたべつだ)
(春の速さはをかしいぜ)
(文学亜流にわかるまい
 ぜんたい春といふものは
 気象因子の系列だぜ
 はじめははんの紐を出し
 しまひに八重の桜をおとす
 それが地点を通過すれば
 速さがそこにできるだらう)
          詩「実験室小景」


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ハンノキ(カバノキ科ハンノキ属)榛の木
低地の湿地に生え、高さ20mくらいになる落葉高木。
2~3月、葉よりも早く花を開く。雄花花序は長さ4~7cmで尾状に2~5個たれさがる。雌花花序は雄花序の下部の葉脈に1~5個つく。雄花は成熟すると長さ1.5~2cmの卵状楕円形の果穂となり、これは翌春まで残る。

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          はんの紐(雄花花序)

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          残った雌花の果穂

実験室での会話風の作品である。1927年2月18日の日付があるから、春を待ちわびる心情から発展していったのだろうか。
北国の春一番の兆しは、ハンノキのこの紐である。それからヤナギが芽を噴き、カタクリやイチゲが咲き始める。八重桜はソメイヨシノの散ったあと咲くので、一番最後の春の仕上げともいえる。
春とは気象因子の系列だよ、とは賢治らしい表現だ。

画像は、ここ数日前の胡四王山のふもとの光景。
by nenemu8921 | 2007-03-26 16:16 | 植物 | Comments(0)

【94】 あんず

ドイツ唐檜にバンクス松にやまならし
やまならしにもすてきにひかるやつがある
白樺は林のへりと憩みの草地に植えるとして
あとは杏の蒼白い花を咲かせたり
きれいにこさへとかないと
お嫁さんにもすまないからな
雪が降り出したもんだから
きみはストウヴのやうに赤くなってるねえ
         詩「丘陵地を過ぎる」


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アンズ(バラ科サクラ属)杏
高さ6mくらいになる落葉小高木で、果樹としてもよく栽培される。
比較的冷涼な地帯が適地である。

教え子に語りかけている作品だ。
お嫁さんは「君」の未来のお嫁さんのことであろう。

花巻で、杏の実の種を抜き、しその葉で巻いた砂糖漬けをご馳走になったことがある。
大変おいしかったので、自分でも作ってみたいと思ったが、郷里の杏の木も伐採してしまって久しい。
by nenemu8921 | 2007-03-22 23:38 | 植物 | Comments(2)

【93】 やなぎの花

けふはぼくのたましひは疾み
烏さへ正視ができない
 あいつはちやうどいまごろから
 つめたい青銅(ブロンヅ)の病室で
 透明薔薇の火に燃される
ほんたうに けれども妹よ
けふはぼくもあんまりひどいから
やなぎの花もとらない
         詩「恋と病熱」


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by nenemu8921 | 2007-03-22 00:30 | 植物 | Comments(2)

【92】 カタクリ

  その窪地はふくふくした苔に覆はれ、所々やさしいかたくりの花が咲いて
  ゐました。

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  若い木だまには、そのうすむらさきの立派な花はふらふらうすぐろくひらめく
  だけで、はっきり見えませんでした。 

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却ってそのつやつやした緑色の葉の上に次々せはしくあらはれては又消えて
  行く紫色の怪しい文字を読みました。
  「はるだはるだ、はるの日がきた」字は一つづつ生きて息をついて、消えてはあら
  はれ、あらはれては又消えました。

                                        童話「若い木霊」
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カタクリ(ユリ科カタクリ属)片栗
丘陵地の北側や山地にかけて生える多年草で、群生することが多い。
葉には紫色の斑紋が出る。

「若い木霊」の幻想に誘われるように、カタクリの群生地を下野に訪ねました。
ようやく開き始めたばかりの風情でした。
日が差し、カタクリが開き、影が揺れ…、光と影の織り成す不思議な時空間を私の拙いカメラ力では十分に捕らえきれず残念です。
宮沢賢治は、その不思議さを、若い木霊の青春期の官能に託すかたちで、言葉で構築していて、すばらしいなあと思います。
ことにカタクリの葉の斑紋を怪しい文字のメッセージとしているのも面白いですね。
by nenemu8921 | 2007-03-21 00:07 | 植物 | Comments(2)

【91】 シダレザクラ

……墓地がすっかり変わったなあ……
……なあにそれすっかり整理したもんでがす……
……ここに巨きなしだれ桜があったがねえ……
……なあにそれ
   青年団総出でやったもんでがす
   観音さんも潰されあした……
……としよりたちが負けたんだねえ……
                  詩「開墾地検察」


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シダレザクラ(バラ科サクラ属)枝垂桜
エドヒガンの園芸品種。ソメイヨシノに先駆けて咲く。
花は満開時には白くなる。

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〔開墾地検察〕は、羅須地人協会時代の作品。
方言を交えた会話体で全篇展開されている。
開墾した土地を検察するような制度はあったのだろうか。
どうも、いろんな想いをかかえた賢治の虚構的設定のように思われる。
作品舞台はどこなのか、不明。墓地ということばがあるので実相寺周辺かとも思われるが…。
どなたか、ご存知の方がいらしたらご教示願いたいです。

画像はイーハトーブの景色ではなく、拙宅近所の古い寺院を今朝撮影したもの。
このサクラはまだ樹齢数十年で、若い樹だ。ピンクのつぼみがまだ残っていて、満開は数日後だろう。
日ごろ、ひっそりしていてアオジやメジロが見られるのに、今日は春の彼岸入りというので、人が多かった。
人の途絶えた短い時間に撮影した。
by nenemu8921 | 2007-03-18 12:54 | 植物 | Comments(0)

【90】 こぶし

こぶしの咲き
きれぎれに雲のとぶ
この巨きななまこ山のはてに
紅い一つの擦り傷がある
それがわたくしも花壇をつくってゐる
花巻温泉の遊園地なのだ
          〔こぶしの咲き〕


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by nenemu8921 | 2007-03-18 01:04 | 植物 | Comments(2)

宮沢賢治の愛した鳥や植物


by nenemu8921