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野ばら

(略)
野ばらが咲いてゐる 白い花
秋には熟したいちごにもなり
硝子のやうな実にもなる野ばらの花だ
(略)
                 詩「習作」

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カジイチゴ(バラ科キイチゴ属)
海岸地方に自生し、人家にもよく植えられている落葉低木。果実は淡黄色に熟し、食べられる。

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ノイバラ(バラ科バラ属)野茨
山野にふつうに生える落葉低木。枝にはとげが多い。果実は直径6~9mmの卵形で赤く熟す。赤い実に雨滴がつけば硝子細工だ。

ここではキイチゴもノイバラも、一緒にして野ばらと呼んでいる。詩人のまなざしは、時としてミクロにも、アバウトにもなる。
詩人に倣って、キイチゴの画像を恣意に選んだ。この四月、拙宅周辺の川べりで見つけたもの。
ノバラは園芸種でも、たくさん種類があるが、賢治が愛したのは山野に自生するノイバラである。香りが高いが、花は散りやすく、写真には撮りにくい。
『春と修羅』第一集中の作品。「習作」とは、創作のエチュードの意か。春のスケッチ。
by nenemu8921 | 2007-05-31 10:30 | 植物 | Comments(2)

うつぎ

野馬がかってにこさへたみちと
ほんとのみちとわかるかね?
(略)
その地図にある防火線とさ
あとからできた防火線とがどうしてわかる?

泥炭層の伏流が
どういふものか承知かね?

それで結局迷ってしまふ
そのとき磁石の方角だけで
まっ赤に枯れた柏のなかや
うつぎやばらの大きな藪を
どんどん走って来れるかね?

そしてたうたう日が暮れて
みぞれが降るかもしれないが
どうだそれでもでかけるか?

はあ さうか
                    詩〔野馬がかってにこさへたみちと〕


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ウツギ(ユキノシタ科ウツギ属)空木
山野にふつうに生え、高さ1~3mになる落葉低木。株立ち状になることが多い。髄が中空のため、この名がある。別名ウノハナ。

うつぎやばら(野茨)は、春、白い清楚な花を咲かせるが、みぞれが降り始める季節には、大きなやぶとなって、道に迷った者には厄介な相手だ。
1924年、10月、26日、詩人は小岩井農場で道に迷い、走ったり、牧夫に道を尋ねたりして、ようやく汽車に間に合って帰り着き、母にそのいきさつを語り「そして昼めしをまだ食べません/どうか味噌漬けをだしてごはんをたべさせてください」と結んでいる。その最初の形が「母に云ふ」という詩である。手入れされ改稿されると、まるで趣の異なる作品になった。
by nenemu8921 | 2007-05-30 15:32 | 植物 | Comments(6)

ヘリオトロープ

まるでまるでいゝ音なんだ。切れ切れになって飛んでは来るけれど、まるですゞらんやヘリオトロープのいゝかをりさへするんだらう、その音がだよ。
                                         童話「黄いろのトマト」


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ヘリオトロープ(ムラサキ科キダチルリソウ属)
ペルー、エクアドル原産の多年草。花は甘いバニラのような香りを強く漂わせ、古くから香水の原料に使用された。非耐寒性。園芸種。
最近ガーデニングブームで種から入手して栽培することも容易になったが、子どものときは母の香水の名前かと思っていた。


博物館のガラスの戸棚のなかの蜂雀が語るお話。
ペンペルとネリの兄妹は、二人だけで愉快に暮らしていたのに、いい香りのする音に魅かれて、二人の世界を飛び出して、音のするほうへ駆け出していく…。そして、…かあいさうな想いをすることになる…。
いい音とは、スズランや、ヘリオトロープが香る音楽とはいったいどのようなものなのだろう。
by nenemu8921 | 2007-05-28 21:40 | 植物 | Comments(2)

【140】 藤

ホロタイタネリは、小屋の出口で、でまかせのうたをうたひながら、何か細かくむしったものを、ばたばたばたばた、棒で叩いて居りました。
「山のうへから、青い藤蔓とってきた
  …西風ゴスケに北風カスケ…
 崖のうへから、赤い藤蔓とってきた
  …西風ゴスケに北風カスケ… 
 森の中から、白い藤蔓とってきた
  …西風ゴスケに北風カスケ…
 洞のなかから、黒い藤蔓とってきた
  …西風ゴスケに北風カスケ…
 やまのうへから、…」
 タネリが叩いてゐるものは、冬中かかって凍らして、こまかく裂いた藤蔓でした。
                  童話「タネリはたしかにいちにち噛んでゐたやうだった」


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ヤマフジ(マメ科フジ属)藤
山野に自生する落葉つる性木本。蔓は左巻きで他物に巻きつく。近畿以西に多いと図鑑にはあるが、これは関東、渡良瀬渓谷でこの5月上旬に撮影したもの。
庭園に植えられているのはノダフジ(野田藤)。蔓は右巻きで花は長く垂れ下がる。

長いタイトルのこの童話は、「赤い鳥」に、人を介して持ち込んだが、鈴木三重吉には採用されなかったと伝えられている作品。
タネリが藤蔓を叩いているのは、その樹皮を繊維にするためだ。大昔から藤の樹皮を繊維にして衣服を織っていたそうである。古事記に大変美しい女神がいて、ある兄弟の弟神が、母神に衣服、弓矢すべてを藤蔓で作ってもらい、女神の所へ行ったところ、衣服、弓矢のすべてに藤の花が咲き、女神と深い契りを結ぶことが出来たと言った話がある。現在でも帯などに藤布が使われている。
村童タネリは藤蔓を叩くという単調な労働に飽きて、向こうの野はらや丘が早春の気配をざわざわざわざわさせているので、思わず出かけていく。
全篇、「早春という季節特有の狂気がすみずみまでゆきわた」(天沢退二郎解説)っている賢治特有の世界である。
by nenemu8921 | 2007-05-27 13:54 | 植物 | Comments(0)
それでは計算いたしませう
場所は湯口の上根子ですな
(略)
そしてやっぱり川からは
一段上になるでせう
畦やそこらに
しろつめくさが生えますか
上のほうにはないでせう
そんならスカンコは生えますか
マルコや ・ ・ はどうですか
土はどういふふうですか
くろぼくのある砂がゝり
はあさうでせう
けれども砂といったって
指でかうしてサラサラするほどでもないでせう
(略)
さてと今年はどういふ稲を植えますか
この種子は何年前の原種ですか
肥料はそこで反当いくらかけますか
(略)
               詩〔それでは計算いたしませう〕


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スイバ(タデ科ギシギシ属)←スカンコ
田畑のあぜ道など、人里近くにふつうに生える多年草。酸葉。
スイコ スカンコ スカンポ スイスイなど地方名も多い。葉や茎に、蓚酸(しゅうさん)カリウムを1%含み、酸っぱい。かっては、子ども達は若い葉や茎をかじって、味わった。酸葉は古代から、のどの渇きをいやすために、この葉を吸ったことに由来。若茎、若葉は食用。ハーブではソレルの名で親しまれている。
雌雄異株で、雄花と雌花は別の株につく。雌花は朱紅色。雄花は緑色。

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オオバコ(オオバコ科オオバコ属)大葉子←マルコ
人が踏みつけるような道端に多い多年草。マルコは地方名。他にもワダチソウ、オンバコ、ゲーロッパ、スモトリグサ、ズイコなどの地方名は200近くあるという。
漢名は車前(シャゼン)で、車の通る道によく生えることによる。
最近では、ヨーロッパ原産の帰化植物、ヘラオオバコが増えている。


宮沢賢治は農学校を退職後、羅須地人協会活動のかたわら、花巻およびその近郊に肥料設計事務所を開設して、農民の肥料相談に応じた。おもに、土壌改良、ことに酸性土壌の石灰混合による土性改良に力を注いだ。肥料設計とは、農地の土質や作物の条件に最も適した肥料の質、量とその配合などの見積もり計算をすること。
その折りの農民とのやり取りを詩にしたもの。これを読むと、日照、通風、土色、潅水、地味、地質、耕起、排水などの様子をこと細かくたずね、その上で指導していた様子がわかる。
スカンコ、マルコなどの土着的な表現は農民とのやり取りゆえであろう。
この種の肥料相談設計は2000件を超えたといわれる。その詳細な設計表も残されているが、肥料設計に関する詩も多い。
by nenemu8921 | 2007-05-26 15:52 | 植物 | Comments(6)

【138】 アカシヤ

アカシヤの木の洋燈(ラムプ)から
風と睡さに
朝露も月見草の花も萎れるころ
鬼げし風のきもの着て
稲沼(ライスマーシュ)のくろにあそぶ子
             詩〔アカシヤの木の洋燈(ラムプ)から〕

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ハリエンジュ(マメ科)針槐←アカシヤ
明治初期に渡来した落葉高木。各地に広く植えられ、野生化している。別名ニセアカシア。
5、6月、大形の花序をたらし、芳香のある白色の蝶形花を開く。
明治期に日本に輸入された当初は、このニセアカシアをアカシアと呼んでいた。後に本来のアカシア(ネムノキ科アカシア属)の仲間が日本に輸入されるようになり区別するためにニセアカシアと呼ぶようになったが、今でも混同されることが多い。たとえば、札幌のアカシア並木も、アカシア蜂蜜として売られているものも、西田佐知子のヒット曲『アカシアの雨がやむとき』、石原裕次郎のヒット曲『赤いハンカチ』や北原白秋の『この道』に歌われる"アカシアの白い花"もすべてニセアカシアである。

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オニゲシ(ケシ科ケシ属)鬼芥子
西南アジアのアルメニア、イラン北東部、トルコが原産の多年草。山地の下部から丘陵地帯の、日当たりが良い砂礫の多い斜面や草原などに自生する。和名は、葉や茎に粗い毛があるところから。英名(oriental poppy)から、オリエンタルポピーとも呼ばれる。

「春と修羅」第三集中の作品。「アカシヤの木の洋燈」は房状に垂れる花を灯りに見立てたもの。稲沼(ライスマーシュ)は水田のこと。くろは田の畦。
農村の初夏のありふれた風景も、賢治のイーハトーブ用語に置き換えて翻訳されると、別の世界が立ち上がってくるようだ。
by nenemu8921 | 2007-05-25 09:33 | 植物 | Comments(2)

【137】 睡蓮 

日脚がぼうとひろがれば
つめたい西の風も吹き
黒くいでたつむすめが二人
接骨木薮(ニワトコヤブ)をまはってくる
けらを着 縄で胸をしぼって
睡蓮の花のやうにわらひながら
ふたりがこっちへあるいてくる
         詩〔日脚がぼうとひろがれば〕


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スイレン(スイレン科スイレン属)睡蓮
スイレンは園芸上の呼び名。和名はヒツジグサ(未草)。「未の刻(今の午後 2 時)」に咲くのが命名の由来というが、実際は明るくなると開き、暗くなると閉じる。

この作品は書き始めた形(下書稿一)が、「曠原淑女」というタイトルを持っていて、旧全集や教科書ではそのかたちが紹介されているため、それに馴染んでいる人も多いと思う。
下書稿(一)では萓草の花のやうに
下書稿(二)では星座のやうに わらひながらとなっていた。それぞれ、だいぶイメージが違いますね。
by nenemu8921 | 2007-05-21 08:33 | 植物 | Comments(4)

【136】 地しばり

黄いろな花もさき
あらゆる色の種類した
畦いっぱいの地しばりを
レーキでがりがり掻いてとる
川はあすこの瀬のところで
毎秒九噸(トン)の針をながす
(略)
            詩〔黄いろな花もさき〕

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ジシバリ(キク科ニガナ属)地縛り
多年草。細長い茎が地面を這い、ところどころで根をおろすところが、まるで地面を縛るように見えることからこの名がある。
手入れをしていない畑や、畦や路傍にも群生する。

レーキ(rake)はくまで。長い木製の柄の先にクマの爪のような鉄爪を4,5本指状に並べた鍬。
草や牛ふんなどをかき集めたり、土を掘り起こしたり、ならしたりする農具

ジシバリは、開墾する賢治を悩ませた植物である。
by nenemu8921 | 2007-05-20 02:27 | 植物 | Comments(0)

【135】 ホタルカズラ

(略)
さっき峠の上あたりでは
山鳩もすうすう啼けば
ほたるかづらの花も咲き
野馬も光って遊んでゐたが
いまはすっかり雲ってしまひ
あたりの山におぼろで見えず
雀がくれの苗代に
霰は白く降り込んでゐる 
(略)
              詩「霰」(下書稿(一)」


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ホタルカズラ(ムラサキ科ムラサキ属)蛍葛
乾いた山地や丘陵に生える多年草。4~5月に茎の上部の葉のつけ根に直径1.5cmほどの瑠璃色の花を咲かせる。

今年はもう行き会えないかと思っていたが、千葉市郊外の農村で偶然見つけた。咲き残りの最後の花といった風情だった。

山峡の小さな村へ、稲作指導で訪れた折、会場の小学校に到着する前に思いがけなく霰に降られたときの情景がうたわれている。
消防小屋の軒下に霰を避けてたたずんでいる詩人の目に、鍬を担いだり、のみ水の桶を持ったりして、はだしで家にかけこむ村人が目に留まり、それを大和絵巻の手法だとつぶやいたりしている。口語詩稿に分類されている作品である。
by nenemu8921 | 2007-05-19 12:10 | 植物 | Comments(5)

【134】 黄ばら

狼(オイノ)のごとく
朝早く行くなり
ひがしぞら、黄ばらにひかり哂ひせり  
              歌稿〔B〕226

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ゴールデン・メダイヨン

ひゞ入りて
凍る黄ばらのあけぞらを
いきをもつかず かける鳥はも 
             歌稿〔B〕637
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サハラ

(略)
今朝黄金の薔薇東はひらけ
雲ののろしはつぎつぎのぼり
高圧線もごろごろ鳴れば
澱んだ霧もはるかに翔けて
見給えたうたう稲穂は起きた
(略)        
          詩「和風は河谷いっぱいに吹く」下書稿(四)

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ヘンリー・フォンダ

「賢治が愛した薔薇」というキャッチフレーズで、最近、「グリス・アン・テプリッツ(日光)」という薔薇のことが話題になっている。その信憑性はともかく、賢治が書き残した原稿の中で、一番数多く登場するバラは、野ばらである。香りのイメージが多いが、羅須地人協会時代にはその薮に悩まされた様子も感じられる。
いわゆる西洋薔薇に関しては、あけがたの空やお日さまの比ゆとして登場する。それもみな、黄ばらである。

宮沢賢治の愛した薔薇については、宮沢賢治の詩の世界で、丁寧に、そのいきさつを解説しているので興味のある方はこちらをどうぞ。
薔薇は時代によってさまざまに進化してきた植物で、現在バラ園でわれわれが見る薔薇の多くは戦後のものが多いようだ。詩句のイメージから黄ばらを選んでみた。

短歌226は、大正三年四月に分類されているもの。盛岡中学校を卒業して悩み多き春だった時のもの。哂うは含み笑いをする。微笑む、失笑するなどのニュアンスがある。
短歌637は、大正六年七月からに分類されている。盛岡高農三年生のとき。
「和風は河谷いっぱいに吹く」は、「春と修羅」第三集のなかの1篇。最終稿では削除された部分である。
by nenemu8921 | 2007-05-18 19:07 | イメージ | Comments(4)

宮沢賢治の愛した鳥や植物


by nenemu8921