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入道雲

 ある夏の暮れ方、カン蛙ブン蛙ベン蛙の三疋は、カン蛙の家の前のつめくさの広場に座って、雲見といふことをやって居りました。
一体蛙どもは、みんな、夏の雲の峯を見ることが大すきです。
じっさいあのまっしろなプクプクした、玉髄のやうな、玉あられのやうな、又蛋白石を刻んでこさへた葡萄の置物のやうな雲の峯は、誰の目にも立派に見えますが、蛙どもには殊にそれが見事なのです。眺めても眺めても厭きないのです。
そのわけは、雲のみねといふものは、どこか蛙の頭の形に肖ていますし、それから春の蛙の卵に似てゐます。
それで日本人ならば、丁度花見とか月見とかいふ処を、蛙どもは雲見をやります。
「どうも実に立派だね。だんだんペネタ形になるね。」
「うん。うすい金色だね。永遠の生命を思はせるね。」
「実に僕たちの理想だね。」
(略)
                                       童話「蛙のゴム靴」


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画像提供は堀内洋助さんです

積乱雲(入道雲)
積乱雲(せきらんうん)とは何らかの原因で発生した強い上昇気流によって雲頂が時には成層圏下部にも達することがあるような巨大な雲の一種。入道雲、雷雲とも言う。

玉髄(ぎょくずい、Chalcedony)とは、石英の非常に細かい結晶が網目状に集まり、緻密に固まった鉱物の一種。美しいものは宝石として扱われる。
蛋白石はオパールのこと。
ふわっとしたイメージの雲を硬質の鉱物やガラスにたとえるのがおもしろい。
ペネタ形は、気象用語のぺネトレーティヴ・コンベクション(貫入性対流、雲が垂直方向に気層を貫いて発達していくこと)からの賢治風の造語という説があるが、あまり説得力がない。

なによりも、蛙たちの雲見という発想はすばらしい。
by nenemu8921 | 2007-08-31 11:54 | 気象 | Comments(10)

ツユクサ

 松の木や楢の木の林の下を、深い堰(せき)が流れて居りました。
岸には茨(いばら)やつゆ草やたでが一杯にしげり、そのつゆくさの十本ばかり集まった下のあたりに、カン蛙のうちがありました。
 それから、林の中の楢の木の下に、ブン蛙のうちがありました。
 林の向ふのすすきのかげには、ベン蛙のうちがありました。
 三疋は年も同じなら大きさもたいてい同じ、どれも負けず劣らず生意気で、いたづらものでした。
(略)                             
                                         童話「蛙のゴム靴」


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ツユクサ(ツユクサ科ツユクサ属)露草
道端、荒地などに生える一年草。茎の下部は地面に横這い状になって盛んに枝分かれし、上部は斜上して高さ20~50センチになる。
by nenemu8921 | 2007-08-31 01:20 | 植物 | Comments(0)

小さな学校

谷川の岸に小さな学校がありました。
教室はたった一つでしたが生徒は一年から六年までみんなありました。
運動場もテニスコートのくらゐでしたが、すぐうしろは栗の木のあるきれいな草の山でしたし、運動場の隅にはごぼごぼつめたい水を噴く岩穴もあったのです。
(略)
                                     童話「風の又三郎」     



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小さな学校
種山ヶ原から人首町へ向かう途中で見つけた。廃校になって久しいのかもしれない。
思わず、車を止めて撮影した。
人影はなく、蝉の声ばかりが真夏の太陽の下で響いていた。
どうと風が鳴ったら、嘉助や一郎が飛び出してきそうだった。
by nenemu8921 | 2007-08-30 23:52 | イメージ | Comments(6)

ヤマナシ

(略)
そのとき、トブン。
黒い円い大きなものが、天井から落ちてずうつとしづんで又上へのぼって行きました。キラキラツと黄金のぶちがひかりました。
『かはせみだ』子供らの蟹は頸をすくめて云ひました。
お父さんの蟹は、遠眼鏡のやうな両方の眼をあらん限り延ばして、よくよく見てから云ひました。
『さうぢゃない、あれはやまなしだ、流れて行くぞ、ついて行って見やう、あゝいい匂ひだな』
なるほど、そこらの月あかりの水の中は、やまなしのいい匂ひでいつぱいでした。(略)
                                           童話「やまなし」


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イワテヤマナシ(バラ科ナシ属)山梨
つい、数日前に種山ヶ原で出会った樹木。
童話「やまなし」のヤマナシが、植物学上の何かについては諸説ある。いわゆるヤマナシは関東以西、四国、九州の山地に自生するもの。また、最近では園芸種のヤマナシも市場に多く流通していて、ややこしい。東北地方で自生しているこのイワテヤマナシを「やまなし」のイメージでとらえたい。
「或る農学生の日誌」に登場する小梨も、オオズミのことではなく、この野生のナシの方言である。

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画像提供はyonoさんです。
こちらは盛岡市の林業試験場で「ヤマナシ」とされていたもの。花期は4月末。
by nenemu8921 | 2007-08-29 19:42 | 植物 | Comments(5)

ウメバチソウ

(略)
このときは鹿はみな首を垂れてゐましたが、六番目がにはかに首をりんとあげてうたひました。
「ぎんがぎがの すすきの底でそつこりと
咲ぐうめばぢの 愛どしおえどし」
                                童話「鹿踊りのはじまり」


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ウメバチソウ(ユキノシタ科ウメバチソウ属)梅鉢草
山地の日あたりの良い湿り気のあるところに生える多年草。
八月の終りに、賢治童話の舞台の一つでもある「種山ヶ原」に行けば、物見山の頂上付近で必ず、咲き始めたばかりのこの花に出会う。
by nenemu8921 | 2007-08-28 09:57 | 植物 | Comments(7)

青蓮華

〈略〉梟鵄救護〈けうしくご〉章  梟鵄救護章
諸〈もろもろの〉の仁者〈じんじゃ〉掌〈て〉を合せて至心に聴き給へ。
我今疾翔大力〈しつしやうたいりき〉が威神力を享〈う〉けて、梟鵄救護章の一節を講ぜんとす。
唯〈ただ〉願ふらくは、かの如来大慈大悲〈にょらいだいじだいひ〉が小願の中に於いて、大神力を現じ給ひ妄言綺語〈まうげんきご〉の淤泥〈おでい〉を化〈け〉して、光明顕色〈けんじき〉の浄瑠璃〈じょうるり〉となし、浮華の中より清浄〈しゃうじゃう〉の青蓮華〈しょうれんげ〉を開かしめ給はんことを。〈略〉
                                      童話「二十六夜」


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青蓮華〈ショウレンゲ〉
経典の蓮華という言葉には、ハスもスイレンも含めた総称的なニュアンスがある。lotus(ロータス)も同様である。
法華経のサンスクリット名「サッダルマ・フンダリーカ・スートラ」は、サッダルマが正しい教え、善き教えの意で、フンダリーカは白蓮をさす。白蓮は正しい教えの象徴とされるようだ。
法華経では赤蓮華〈シャクレンゲ〉、青蓮華〈ショウレンゲ〉も登場する。
画像は、この5月に京成バラ園で、出会った「ティナ」という品種のスイレンである。
青蓮華がこの花だと限定するのものではなく、イメージで、取り上げてみた。
一説には、青蓮華は白いハスの花であるという。
スイレンやハスはユートピアの花であり、インドからオリエントにかけて広く聖なる植物とされてきた。                         

童話「二十六夜」は梟世界の不条理な悲しいお話。引用部分は梟のお坊さんのお経の一説である。天上の花、悟りの境地のイメージとして青蓮華が登場している。
by nenemu8921 | 2007-08-21 20:37 | イメージ | Comments(2)

ハス←lotus

(略)
蓮はすべてlotus という種類で
開くときには鼓のやうに
暮の空気をふるはせる
(略)
          詩「浮世絵展覧会印象」
 

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ハス(ハス科ハス属)ハス蓮
原産地はインド亜大陸とその周辺(現在のアフガニスタンからベトナムを含む)。地中の地下茎から茎を伸ばし水面に葉を出す。草高は約1m、茎に通気のための穴が通っている。水面よりも高く出る葉もある(スイレンにはない)。葉は円形で葉柄が中央につき、撥水性があって水玉ができる(ロータス効果)。花期は7~8月で白またはピンク色の花を咲かせる。インドの国花。

1928(昭和3)年、6月6日~25日、上野の東京府立(現、都立)美術館で報知新聞社主催の「御大典記念徳時代名作浮世絵展覧会」を鑑賞した折の作品の一節 。
宮沢賢治は浮世絵のコレクターとしても有名である。

蓮の花の開花音は、古くから多くの俳人にも歌われ、文学の世界では常識だったが、実際に大賀博士が催した観蓮会では、確認できなかったようだ。
「古代蓮ー大賀ハスと行田ハスー」中谷俊雄著・新風舎・2005年8月刊行)には、大賀博士のその折のエッセイも紹介されていて面白い。
古代ハスのロマンも、ハスの開花音も、科学的事実より、人々の願望が先行しているようだ。

 
         
by nenemu8921 | 2007-08-20 13:27 | 植物 | Comments(10)

釜淵の滝

(略)
「先生この石何て云ふのす」どうせきまってゐる。
〔凝灰岩。流紋凝灰岩だ。凝灰岩の温泉の為に硅化(けいか)を受けたのだ。〕
光が網になってゆらゆらする。みんなの足並。小松の密林。
「釜淵(かまぶち)だら俺ぁ前になんぼがへりも見だ。それでも今日も来た。」
うしろで云ってゐる。あの顔の赤い、そしていつでも少し眼が血走ってどうかすると泣いてゐるやうに見える、あの生徒だ。五内川(ごないがは)でもないし、何と云ったかな。
けれども、その語(ことば)はよく分かってゐるぞ。よくわかってゐるとも。
(略)
                                          短編「台川」


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釜淵の滝
花巻温泉と台温泉の間を流れる台川にある。
賢治が農学校の教師時代、生徒を連れての地形や岩石を調べるフィールドワークである。賢治の内心のつぶやきと、現実に発せられた生徒の発言が織り込まれたスケッチだ。
なんぼがへりは、なんべんも(幾度も)の意。「がへり」は、回りで、1回、2回というときの度数。地方語は趣がありますね。


c0104227_17413727.jpg最近では、立派な遊歩道も整備され、
近くにはこのような解説版もある。


c0104227_17475984.jpgまた、その脇にこんなものが……。
何だと思いますか?
熊が出たときはこの鈴を鳴らして
退散してもらうわけです。

幸い、この日は熊にも人にもまったく出会いませんでした。

by nenemu8921 | 2007-08-18 17:49 | 場所 | Comments(2)

アマ

立ちがれしいたやのしたに
あをじろき亜麻刈るひとや
ましろなるそらを仰ぎて
ほろ蚊帳にあかごはねむる
          文語詩「宗谷(一)」下書稿一


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アマ(アマ科アマ属)亜麻
比較的寒い地方で栽培される一年草の植物で、茎の繊維はリンネル(リネン)製品となる。亜麻は麻と間違えられることがあるが、麻よりも柔らかくかつ強靭で上等な繊維である。フランス語ではランと発音され、ランジェリーは亜麻の高級繊維を使用した女性の下着に由来する。
日本では、北海道開拓の初期に榎本武揚によって導入され、第二次大戦中をピークに繊維用として北海道で広く栽培されたが、化学繊維の台頭で1960年代半ばに栽培されなくなった。
画像はこの7月に佐倉市の国立暦史民俗博物館付属の「くらしの植物苑」で撮影したもの。

この作品の定稿はタンポポの綿毛のところで紹介した。
定稿では、亜麻刈る人は削除されてしまうのが惜しい。
by nenemu8921 | 2007-08-17 23:07 | 植物 | Comments(2)
グルース・アン・テプリッツ(日光)
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最近「宮沢賢治が愛したバラ」というキャッチフレーズで、有名になったバラに出遭った。
花巻温泉のバラ園である。四季咲きだそうで、かおりの良い品種だったが、花期をすぎていた。どうにか一輪だけ横顔を撮ることができた。
わたくしの「下ノ畑」で育ててみようとおもって、一鉢購入した。¥2500だった。

賢治が愛したバラというキャッチフレーズはバラ業界がつけたネーミングである。実際の話は、宮沢賢治が昭和3年頃、花巻共立病院の佐藤隆房氏の新築祝いに、横浜の苗木商「植木」から取り寄せて寄贈した花だという。このいきさつに関しては黄ばらのところでも触れた。関心のある方はこちらをごらんください。
昭和39年に瀕死状態だったその花を隆房氏の依頼で、花巻ばら会の方が、接木し、育てて、よみがえり、花巻温泉のバラ園ではそれを増やしたものを販売しているとのことだった。
by nenemu8921 | 2007-08-16 23:29 | 植物 | Comments(20)

宮沢賢治の愛した鳥や植物


by nenemu8921