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ミソサザイ

(略)
寒さとねむさ
もう月はただの砕けた貝ぼたんだ
さあ ねむろうねむろう
 ……めざめることもあらうし
    そのまま死ぬこともあらう……
誰かまはりをあるいてゐるな
誰かまはりをごくひっそりとあるいてゐるな
みそさざい
みそさざい
ぱりぱり鳴らす
石の冷たさ
石ではなくて二月の風だ
(略)
                         詩「河原坊(山脚の黎明」


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画像提供は阿出川栄次さんです。

ミソサザイ(スズメ目ミソサザイ科)
日本で見られる鳥の中では、キクイタダキについで、最も小さな鳥の一つ。
L(体長)10.5cm。全国の山地や渓流沿いでで見られる留鳥。
体に似合わない大きな声で、チリリリリリ…というバイブレーションのきいた美声を長く続ける。すばらしいトレモロ。明け方早くからさえずりだし、早春から夏まで唄い続ける。

大正14年8月11日、早池峰山に単独で登り、麓の谷間で野宿をした折、賢治は不思議な体験をした。山の上のほうからうす赫い衣の裸足の二人の坊さんが降りてきて、念仏を唱えながら賢治の前を駆け抜けて行ったのである。
そんな幻想をもたらしたのは、ミソサザイのさえずりだった。
ぱりぱりならす!!
まさに山の早朝の冷たい空気をミソサザイが震わせて、それが頬に感じられるくらいだ。
by nenemu8921 | 2007-09-29 10:42 | 鳥・動物 | Comments(2)

栃の団子

ところがあんまり一生けん命あるいたあとは、どうもなんだかお腹がいつぱいのやうな気がするのです。そこで嘉十も、おしまひに栃の団子をとちの実くらゐ残しました。
「こいつば鹿さ呉(け)でやべか。それ、鹿、来て喰(け)」と嘉十はひとりごとのやうに言って、それをうめばちさうの白い花の下に置きました。
                                       童話「鹿踊りのはじまり」


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トチノキ(トチノキ科トチノキ属)栃の木
山地に生えるほか、公園や並木にもよく植えられている。大きいものは高さ35mにもなる落葉高木。五月ごろ白色に帯紅色のぼかしのある花を円錐花序につける。
果実は倒卵状球形で直径葯4cm。種子は赤褐色。

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      とちの実

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   とちだんご?(宮沢賢治学会のレセプションのメニューから)黄な粉で美味しく味付けしてありました。
by nenemu8921 | 2007-09-27 00:03 | | Comments(7)

鹿踊り

そのとき西のぎらぎらのちぢれた雲のあひだから、夕陽は赤くななめに苔の野原に注ぎ、すすきはみんな白い火のやうにゆれて光りました。
私が疲れてそこに睡りますと、ざあざあ吹いてゐた風が、だんだん人のことばにきこえ、やがてそれは、いま北上の山の方や、野原に行はれてゐた鹿踊りの、ほんたうの精神を語りました。
                                     童話「鹿踊りのはじまり」


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鹿踊り
郷土芸能の一。宮城県北、岩手県南に広く分布し、ことに花巻あたりでは、剣舞と並んで今は観光名物となっている。鹿の頭をかぶり、腹に太鼓をつけて打ち鳴らし、おおむね、八頭一組になって踊る。背から頭上高くつけた小紙片つきの一対の竿の白い割竹(ささら)の動きが見もの。全国的に見られる獅子舞、或は太鼓踊りの一種と言われる。古典にも多く出てくるので、その由緒は古い。盆には供養と悪魔払いに、社寺の秋祭には収穫を祝って、町や村の家々を門付けして回った。演目には供養歌、ほめ歌等の入る礼踊りのほか、女鹿かくし、鉄砲踊り、案山子踊り等、鹿のイメージ豊かな曲目もある。童話「鹿踊りのはじまり」は案山子踊りがモデルだという説もある。
と、「新宮沢賢治語彙事典」には解説されている。

画像は今年の賢治祭の折、花巻農業高校の生徒さんたちで演じられた鹿踊りです。
(ひどい画像で恐縮です)
by nenemu8921 | 2007-09-25 23:54 | その他 | Comments(4)

鹿←ホンシュウジカ

それはたしかに鹿のけはひがしたのです。
鹿が少なくても五六疋、湿っぽいはなづらをずうっと延ばして、しづかに歩いてゐるらしいのでした。
嘉十はすすきに触れないやうに気を付けながら、爪立(つまだ)てをして、そっと苔を踏んでそっちの方へ行きました。
たしかに鹿はさっきの栃の団子にやってきたのでした。
「はあ、鹿等(しかだ)あ、すぐに来たもな。」と嘉十は咽喉の中で、笑ひながらつぶやきました。
                                       童話「鹿踊りのはじまり」


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画像提供はfieldnoteさんです

ホンシュウジカ(シカ科)
かつては鹿は岩手県内各地にいたという。
狩猟や開発によって減少し、明治20年代後半から原生林の大量伐採が始まり、それに追い討ちをかけるように明治36年に大雪が降った。里に下りた鹿は全部撲殺され、山に残った鹿は餓死した。かろうじて難を逃れた鹿たちが子孫を増やし、現在は五葉山一帯にのみ残っている。

童話「鹿踊りのはじまり」は、民俗芸能の鹿踊りの《ほんたうの精神》をざあざあ吹いてゐた風が語ったものがたりである。
by nenemu8921 | 2007-09-25 00:05 | 鳥・動物 | Comments(4)

ノブドウ←メクラブドウ

(略)
そこでめくらぶだうの青じろい樹液は、はげしくはげしく波うちました。
さうです。今日こそ、ただの一言でも、虹とことばをかはしたい、丘の上の小さなめくらぶだうの木が、よるのそらに燃える青いほのほよりも、もっと強い、もっとかなしいおもひを、はるかの美しい虹に捧げると、ただこれだけを伝へたい、ああ、それからならば、それからならば、実や葉が風にちぎられて、あの明るいつめたいまっ白の冬の眠りにはひっても、あるひはそのまま枯れてしまってもいいのでした。
                                    童話「めくらぶだうと虹」

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ノブドウ(ブドウ科ノブドウ属)野葡萄
北海道から沖縄まで分布するツル性落葉多年草。
果実は、ブドウタマバエやブドウガリバチの幼虫の寄生(虫えい)により、虫こぶ状になり、形も大小様々で、色も白緑色、淡紫色、瑠璃色、赤紫色など変化に富んでいる。
メクラブドウとはノブドウの方言。実が盲人の目玉に似ているというのでこう呼んだ。

賢治はこの美しい実を地上の虹と見立て、天上の虹と対照させている。

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賢治祭で花巻を訪ねた。
在来線の花巻駅近く、ススキが生い茂る線路脇で、ウルシの樹木に絡まったノブドウを見つけた。色づき始めたばかりだった。
by nenemu8921 | 2007-09-24 15:25 | 植物 | Comments(8)

オオタカ←鷹

「いいや、出来る。さうしろ。
もしあさっての朝までにお前がさうしなかったら、もうすぐ、つかみ殺すぞ。
つかみ殺してしまふから、さう思へ。
おれはあさっての朝早く、鳥のうちを一軒づつまはって、お前が来たかどうかを聞いてあるく。
一軒でも来なかったといふ家があったら、もう貴様もその時がおしまひだぞ。」  
                                         童話「よだかの星」

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画像提供は佐渡閑蔵さんです。(画像をクリックすると大きくなります)

オオタカ(ワシタカ科)
北海道から本州で繁殖し、冬は低山から平地の林、湖沼、川原等にも現れる。
ハシブトガラスくらいの大きさで、翼は短めで尾は長い。早い羽ばたきと滑翔を交互に行い、直線的に飛ぶ。

ワシタカ科の大型のものをワシといい、中型以下をタカとよぶが、その区別は厳密ではない。翼の先が尖っているハヤブサ科の鳥も一般にはタカに含まれる。
賢治文学に登場するのは、タカ、ワシ、ハヤブサで、この童話で、よだかを追い詰めてゆく鷹は、オオタカと明確に書かれているわけではない。
すばらしい画像に出会ったので、オオタカをイメージしてみた。
「よだかの星」は、文字で読むと、よだかに同情せずに居られないが、こうしてみると、鷹の言い分も妙に説得力を持って迫ってくるのが不思議である。
by nenemu8921 | 2007-09-18 18:04 | イメージ | Comments(9)

ヒバリ

ほかの鳥は、もう、よだかの顔を見ただけでも、いやになってしまふという工合でした。
たとへば、ひばりも、あまり美しい鳥ではありませんが、よだかよりは、ずっと上だと思ってゐましたので、夕方など、よだかにあふと、さもさもいやさうに、しんねりと目をつぶりながら、首をそっ方へ向けるのでした。
                                           童話「よだかの星」


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画像提供はfieldnoteさんです。

ヒバリ(スズメ目ヒバリ科)
スズメより一回り大きな鳥で、留鳥。全長葯17cm。九州以北で繁殖し、平地から山地の草原、畑、河原、埋立地などに住み、数も多い。
地上を歩いて昆虫や草の種子を漁る。頭には小さな冠羽があるが、淡い黄褐色で目立たない。地面の色と紛らわしいくすんだ色をしているのは、保護色で身を守るためでもある。

賢治作品にヒバリはしばしば登場する。まだ風が冷たい早春からさえずり始め、人々に春が来たことを告げる嬉しい存在である。
手帳とペンシルを携えて野山を歩き、創作した賢治にとって、ヒバリの声は春の風景のBGMであった。
ヒバリは、ムクドリやスズメのように群れになることはない。しかし……。

あんまりヒバリが啼きすぎる。
   (育馬部と本部のあひだでさへ
    ひばりなんか一ダースできかない)  詩「小岩井農場」


そのこっちではひばりの群れが
いちめん漂ひ鳴いてゐる         詩「二九 休息」


日はトパースのかけらをそそぎ
雲は酸敗してつめたくこごえ
ひばりの群れはそらいちめんに浮沈する   詩「日はトパースのかけらをそそぎ」



ヒバリがさえずるのは求愛行動であり、テリトリー宣言でもある。
彼が鳴いているその真下、一定の区域は彼の妻子のためのマイホームと餌稼ぎのためのゾーンである。つまりここは僕の縄張りだぞと彼は叫んで歌う。
少し離れた地点で、隣人のヒバリも負けずと叫ぶ。ここは僕のものだ。
その向こうではこっちは俺のものだ……と。
小岩井農場の草原や農学校の実習地や村のあちこちにヒバリのさえずりが聞かれた。
そらいちめんに浮沈するヒバリの群れとはさえずりの競演のことだ。
その下に広々した草原や畑があってのことで、昨今ではそんな情景も少なくなった。
小岩井農場は広々しているのに、餌となる昆虫や雑草がすくないのか、数年前、小岩井ウォークに参加したが、信じられいほどヒバリのさえずりは少なかった。

心象スケッチを読むことは、詩的レトリックを解読すれば、その時代の環境を知る手がかりにもなる。
by nenemu8921 | 2007-09-14 19:14 | 鳥・動物 | Comments(8)

ヨタカ

よだかは実にみにくい鳥です。
顔は、ところどころ味噌をつけたやうにまだらで、くちばしは、ひらたくて、耳までさけてゐます。
足は、まるでよぼよぼで、一間とも歩けません。
                                           童話「よだかの星」


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画像提供は柳谷謹司さん(花巻野鳥観察会)です。

ヨタカ(ヨタカ目ヨタカ科)
日本では夏鳥として渡来するこの一種のみだが、温熱帯には広く分布し、90種余りの種類がいる。昼間はこの画像のように横枝に平行に止まっていて、目立たない。夕方から草原や林の上を飛び回って昆虫をとる。
キョッ、キョッ、キョッ、キョッ………と単調に連続音で鳴く。

賢治はよだかと書いているが、標準和名はヨタカである。
ヨタカの声は聞く機会はあっても、夜行性のため、野外でじっくり観察できることは少ない。
by nenemu8921 | 2007-09-13 23:30 | 鳥・動物 | Comments(3)
或る医師未亡人に二女ありけり。〈略〉
甥笑って二箇の赤と白のオーメンタルガードを携へ姉の室に行く。
「ねえ、ていちゃん。静物をもってきたよ。」
「あら おもしろいわねえ。」
「あ、二つはいけないよ。どっちか一つとるんだよ。」
「さうねえ。」
「こっちは角があるけれども色彩はよく調和してゐるし、こっちは形はいいけれども色がどうも俗だねえ。」
                                〔「感応的伝染病」創作メモ30〕


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オモチャカボチャ(ウリ科)
半耐寒性1年草。観賞用の矮小性のカボチャ。丸・楕円・円錐・卵型・先つぼみ型など様々な形がある。残念ながら食用にはならない。最近では、オモチャカボチャとして人気がある。赤いものは見かけないと思っていたが赤皮種のものもあるようだ。
Gourd Ornamental(ゴード・オーナメンタル)と表記されることが多い。Gourd はウリ科のこと、
Ornamentalは装飾用のの意だが、『宮沢賢治語彙事典』で、装飾用のひょうたんかとあるのは間違い。
最近の園芸店では一袋に様々な種子をミックスしたものを販売しているが、賢治の時代にはかなり珍しいものだったろう。

創作メモ30は、いずれ小説の素材にと考えたメモか。
姉娘の二人の恋人をオモチャカボチャにたとえて、甥っ子が揶揄するシーンである。

賢治の妹さんのおもしろい証言が『宮沢賢治の肖像』(森荘已池著)に紹介されている。
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「兄さんは、「カボチャのあらゆる種類をまく」といって、観賞用カボチャ三十種類も蒔いたのでした。例によって、お父さんは兄さんを「タメにならないもの蒔いたナ」と叱りました。
そのカボチャというのが、ピーマンのような形で、オリーブいろにかがやくようなカボチャ、黄いろでまくらのような風に長い形のものなど、何しろ三十種類ものカボチャですから、とてもたくさんで、みごとなものでした。
お父さんは、「お前ときたら、用のないものばかり採る」と、御飯のときなど、何べんも叱言をいっておりました。」
by nenemu8921 | 2007-09-09 11:38 | 植物 | Comments(6)

カラスウリ

「(略)
今夜はみんなで烏瓜のあかりを川へながしに行くんだって。きっと犬もついて行くよ。」
「さうだ。今晩は銀河のお祭だねえ。」
「うん。ぼく牛乳をとりながら見てくるよ。」
                                  童話「銀河鉄道の夜」


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カラスウリ(ウリ科カラスウリ属)烏瓜
林の縁などに見られる多年生のつる草。巻きひげで他の木などにからみつく。

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キカラスウリ(ウリ科カラスウリ属)黄烏瓜
カラスウリに似るが、花も実もカラスウリよりやや大きい。実は黄色。
花は8~9月に夕方から開き、朝にはしぼんでしまう。

賢治はカラスウリと書いているが、花巻周辺にはキカラスウリが多く、赤い実は見かけないと、土地の人から聞いたことがある。
花はこのように美しいのに、詩人が花に言及していないのは残念である。
by nenemu8921 | 2007-09-06 22:42 | 植物 | Comments(8)

宮沢賢治の愛した鳥や植物


by nenemu8921