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サイカチ

さいかち淵なら、ほんたうにおもしろい。(略)
ぼくらが、さいかち淵で泳いでゐると、発破(はっぱ)をかけに、大人も来るからおもしろい。(略)
しゅっこも、大きな白い石をもって、淵の上のさいかちの木にのぼってゐたが、それを見ると、すぐに、石を淵に落として叫んだ。
「おお、発破だぞ。知らないふりしてろ。石とりやめて、早くみんな、下流(しも)へさがれ。」
                                      童話「さいかち淵」


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サイカチ(マメ科サイカチ属)
山野や川原に生え、高さ15mほどになる落葉高木。幹や枝には分枝したとげが多い。葉は偶数1~2回羽状複葉。小葉は8~12対あり、長楕円形。6月ごろ、総状花序に淡黄緑色の小花をつける。豆果は長さ約30cmでねじれる。これはサポニンを含み、薬用となる。昔は石けんの代用にもした。

木に登り、川で泳いだ少年たちの夏休みだ。
発破(魚を捕るために爆薬を仕掛けること)は、大人も子どももワクワクした様子が伝わってくる。
by nenemu8921 | 2007-10-27 22:39 | 植物 | Comments(12)

アカゲラ←キツツキ

(略)
虫が来て桐のみきを食ふ。鳥、ことにきつゝきが来てその虫をほじくる。
その孔へは何か変な油の様なものを塗りつけて置く。
又くるみは盛んに栗鼠が食ふ。丁度リーダアにある様に食ふがいい。
栗鼠の食い残りは人間生存競争の落伍者たる私が拾って集めてほしたりたべたり売ったりする。
又草地を掘りかへして三年の間には一町歩も畑を作る。この畑はみんな菊芋を作るつもりです。(略)
                            書簡83a
 
                            保阪嘉内宛て  大正7年8月と推されているもの

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画像提供は佐渡閑蔵さんです。

アカゲラ
(キツツキ目キツツキ科)
北海道、本州の山地の落葉広葉樹林に多く生息している。冬は平地近くまで下りてくる。
キョッ、キョッと鋭く強い声で鳴く。
枯木のこずえなどをくちばしでたたくドラミングで、タララララ-と大きな音をだす。

キツツキはアオゲラでも、コゲラでもいいのだが、花巻周辺ではアカゲラ、コゲラが多いので、アカゲラをイメージした。


この書簡は、賢治が盛岡高等農林を卒業して、6月に肋膜の診断を受け、稗貫郡の土性調査を手伝っていた8月末頃のものと推定されている。将来への不安を抱えて、友人の保阪嘉内に心情を吐露している。
リスの食べ残したクルミを食べたり、売ったり、草地を開墾して一町歩の畑に菊芋を栽培するなどと、いかにも現実感の希薄な展望だ。菊芋に関してはこちらもどうぞ。

山梨県立文学館では、現在「宮沢賢治 若き日の手紙ー保阪嘉内宛七十三通ー」の企画展が開催されている。この手紙の実物をそこで読むことが出来る。
詳しい情報はこちらをどうぞ。

また、今回たびたび山梨へ出向き、この企画を丁寧に紹介している「賢治の事務所」の「緑いろの通信」のレポートもこちらからどうぞ。
by nenemu8921 | 2007-10-25 21:53 | 鳥・動物 | Comments(9)

イチョウ←いてふの実

いてふの実はみんな一度に目をさましました。
そしてドキッとしたのです。
今日こそはたしかに旅立ちの日でした。(略)

「僕なんか落ちる途中で目がまはらないだらうか。」(略)
「さうだ。忘れてゐた。僕水筒に水をつめて置くんだった。」(略)
「僕、靴が小さいや。面倒くさい。はだしで行こう。」(略)
「わたし困ってしまふわ、おっかさんに貰った新しい外套がみえないんですもの。」(略)

北から氷のやうに冷たい透きとほった風がゴーッと吹いて来ました。
「さよなら、おっかさん。」「さよなら、おっかさん。」
子供らはみんな一度に雨のやうに枝から飛び下りました。
                                       童話「いてふの実」

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イチョウ(イチョウ科イチョウ属)銀杏 公孫樹
寿命の長い中国原産の落葉大高木。雌雄異株。
各地の寺院をはじめ公園や並木によく使われ、人里近くに野生化しているものも見られる。
よく育つと30m以上になる。種子はギンナンである。

賢治が構想していた《花鳥童話集》の作品群に共通しているモチーフは死と再生である。
実ること、散乱すること、死、新たな命につながること、植物は美しい方程式で成立している。

毎年、近くの神社でギンナンを拾うのが楽しみだった。来年こそ、雄花と雌花の撮影をしようと思うのだが、いつも忘れてしまう。
by nenemu8921 | 2007-10-22 23:07 | 植物 | Comments(6)

メジロ

よだかは、じっと目をつぶって考へました。
(一たい僕は、なぜかうみんなにいやがられるのだらう。
僕の顔は、味噌をつけたやうで、口は裂けてるからなあ。
それだって、僕は今まで、なんにも悪いことをしたことがない。
赤ん坊のめじろが巣から落ちてゐたときは、助けて巣へ連れて行ってやった。
そしたらめじろは、赤ん坊をまるでぬす人からでもとりかへすやうに僕からひきはなしたんだなあ。
それからひどく僕を笑ったっけ。
それにああ、今度は市蔵だなんて、首へふだをかけるなんて、つらいはなしだなあ。)
                                     童話「よだかの星」


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画像提供は阿出川栄次さんです。

メジロ(スズメ目メジロ科)目白
スズメより一回り小さな鳥で、ほぼ日本中どこでも見られる留鳥。

庭先に訪れて花の蜜を吸い、みかんの輪切りをtつつく姿は実に可愛い。
が、賢治作品ではヨタカを心理的に追い詰めていく立役者でもある。
そんなキャラは似合わないと思っていたら、この鋭い目つきに出会って、なるほどと納得した。
野生に生きるものたちは、みな真剣な表情をしている。
by nenemu8921 | 2007-10-20 17:42 | 鳥・動物 | Comments(7)

ヨタカ

ヘン、又出て来たね。まあ、あのざまをごらん。ほんたうに、鳥の仲間のつらよごしだよ。」
「ね、まあ、あのくちの大きいことさ。きっと、かへるの親類か何かなんだよ。」
〈略〉
                                      童話「よだかの星」
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画像提供は阿出川栄次さんです。

ヨタカ(ヨタカ目ヨタカ科)
日本では夏鳥として渡来するこの一種のみだが、温熱帯には広く分布し、90種余りの種類がいる。昼間はこの画像のように横枝に平行に止まっていて、目立たない。夕方から草原や林の上を飛び回って昆虫をとる。
キョッ、キョッ、キョッ、キョッ………と単調に連続音で鳴く。

賢治はよだかと書いているが、標準和名はヨタカである。
ヨタカの声は聞く機会はあっても、夜行性のため、野外でじっくり観察できることは少ない。
昼間運良く撮影するチャンスに恵まれても、たいていウトウトしている。このように口を開けた画像は実に貴重である。いかに口が大きいか!! 
by nenemu8921 | 2007-10-20 00:55 | 鳥・動物 | Comments(8)
〈略〉
緑と紫銅のケールの列や
赤いコキヤのぼたんを数へ
しづかにまがってここまで来れば
小屋は窓までのナスタシヤだの
まっ赤なサイプレスヴァインだの
ぎらぎらひかる花壇で前をよそほはれ
つかれたその眼をめぐらせば
ふたたびさわやかなこの緑色を見るでせう
〈略〉
                 詩「三原三部」 第二部


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ルコウソウ〈ヒルガオ科ルコウソウ属〉縷紅草
ヒルガオ科イポメア属としている図鑑もある。熱帯アメリカ原産の蔓性一年草または多年草。
夏の終りから秋まで、星型の小さな花を次々に咲かせる。
最近では野生化したものもあるようだ。葉の丸いマルバルコウソウやハゴロモルコウソウなど園芸種は多様化している。
↑はモミジバルコウソウ

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サイプレスヴァインは英名。サイプレスは糸杉の意で、ヴァインはつる性の植物を表し、ルコウソウのことだが、最近ではルコウソウの品種名としても流通している。↑
賢治作品にはサイプレスがしばしば登場する。名前からも賢治が気に入ったのであろう。
「三原三部」は昭和3年6月大島へ伊藤兄妹を訪ねた折の作品。
伊藤チエとは見合いの意味もあったと伝えられている。
ケールは葉牡丹のこと。 ナスタシヤはナスタチューム。コキヤはホウキグサのことで、いずれも、当時は珍しい園芸植物だった。

追記
ご親切なメールを頂いた。
-「アメリカ原産の帰化植物・観賞用として江戸時代に渡来した」との記載も有る。「野生化しているものが多い。」とも記載されている。-と。
そのとおりですが、ブログ上の解説は仔細に書ききれないので、最近ではとすることで、ご容赦いただきたい。
手元にある保育社の「原色日本植物図鑑」でも、ルコウソウの記載はなく、園芸種扱いのようだ。どこで線引きするかは、それぞれの学者さんの見識に任されていて、厳密な基準はないようだ。
野生化しているのはマルバルコウソウが多いようで、「季節の窓」でも、ご紹介がある。ヒルガオ科の帰化植物は多く、今の季節、野山を歩けば、マルバルコウソウのほかに、ホシアサガオ、マルバアサガオ、マメアサガオなど容易に出会う。
  ご教示ありがとうございました。


賢治がここで描いているのは明らかに園芸種のルコウソウのこと。
縷紅草は、糸のように細い葉で、赤い花を 咲かせることからの命名だが、留紅草の 表記もある。
学名 Quamoclit pennata Quamoclit : ルコウソウ属 pennata : 羽状の Quamoclit(クアモクリット)は、 ギリシャ語の「kyamos(豆) + clitos(低い)」が語源。 だそうで、 マメの植物のようにつる性で伸び、背が低いことからという。

等と、書き連ねると、賢治のサイプレスバインのイメージが遠くなってしまいますね。
by nenemu8921 | 2007-10-18 15:56 | 植物 | Comments(4)

きのこの楽隊

(略)
 一郎がまたすこし行きますと、一本のぶなの木のしたに、たくさんの白いきのこが、どってこどってこどってこと、変な楽隊をやってゐました。
一郎はからだをかがめて、
「おい、きのこ、やまねこが、ここを通らなかったかい。」
とききました。すると、きのこは
「やまねこなら、けさはやく、馬車で南の方へ飛んで行きましたよ。」とこたへました。
(略)
                              童話「どんぐりと山猫」


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きのこの楽隊?

イメージです。キノコの名前は確認できませんでした。ご存知の方がいらしたらご教示ください。
房総の里山、ハンノキ湿原というところで見つけました。
このとおり、どってこどってこどってこやっていましたから、これはもうきのこの楽隊です。
by nenemu8921 | 2007-10-16 19:48 | イメージ | Comments(6)
(略)
ずゐぶん豚といふものは、奇体なことになってゐる。水やスリッパや藁をたべて、それをいちばん上等な、脂肪や肉にこしらへる。豚のからだはまあたとへば生きた一つの触媒だ。白金と同じことなのだ。無機体では白金だし、有機体では豚なのだ。(略)
                                童話「フランドン農学校の豚」


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この画像はさる9月22日宮沢賢治学会の懇親会の折のメニューからピックアップしたもの。白金豚を使ったトンしゃぶと、角煮です。

白金豚(ハッキントンとも、プラチナ・ポークとも言うようです)
高源精麦(株)のポークのブランド。もちろん、ネーミングはこの「フランドン農学校の豚」から・だそうです。
岩手県花巻市内の、のびのびとした飼育環境で手間暇かけて、安心安全な飼料と奥羽山脈の地下水を利用したミネラル水を与えて育てた豚だそうで、きめこまやかな肉質と、柔らかくしっとりとした舌触り、脂身の甘みが特徴・だそうです。
白金豚のことをもっと知りたい方はこちらをどうぞ。

年に数回、岩手を訪れる私ですが、いつも山や野原ばかり廻っているものですから、町情報には疎くて、今回初めて《白金豚》その存在を知りました。正直なところ、ネーミングの絶妙さに感動しました。
そして、賢治作品の及ぼす影響が文化や教育的レベルにとどまらず、経済・産業界まで及んでいることを実感しました。
花巻市内には 「白金豚」生産農場直営の「源喜屋」という居酒屋も最近開店されていました。
こちらはランチタイムに案内してくださる方がいて、白金豚丼↓を体験できました。
味ですか? ええ、美味しかったですよ。¥680でした。
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美味しかったといえば、後日談があります。
フジテレビのSMAP×SMAPという番組は、料理を注文してその味の優劣をゲストが査定するといった趣向のようですが、たまたま先日、アラン・ドロンが登場していました。彼はパスタとブイヤベースとチョコレート菓子と、シンプルなオーダーをしていましたが、出てきたのは豪華な食材をふんだんにつかった手の込んだ料理ばかり。
プラチナポークとモッツァレラチーズのクロケットを味見するドロン氏は「(やれ、やれ、僕はこの料理注文していないのに……)、でも、このポークは美味しいよ」とはっきりとコメントするシーンがありました。

おやおや、こんな情報ばかり紹介すると、宮沢賢治愛読者にお叱りを受けそうですが、この童話を「死の自己決定権」というまことに現代的な切り口で論じているサイトがあり、刺激を受けました。関心のある方は 「宮沢賢治詩の世界」をどうぞ。このサイトを管理するHさんには、今回いろいろ御教示を頂きました。ありがとうございました。

また、「フランドン農学校の豚」に関しては、現在、宮沢賢治記念館で企画展が展開されています。
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by nenemu8921 | 2007-10-13 09:19 | | Comments(6)

ヒヨドリ← ひよ

(どこかですももを灼いてるわ)
(あすこの松の林のなかで
 木炭(すみ)かなんかを焼いてるよ)
(木炭窯(すみがま)ぢゃない瓦窯(かわらかま)だよ)
(瓦窯()くとこ見てもいい?)
(いいだらう)
林のなかは淡いけむりと光の棒
窯の奥には火がまっしろで
屋根では一羽
ひよがしきりに叫んでいます
(まああたし
 ラマーキアナの花粉でいっぱいだわ)
      イリスの花はしづかに燃える
                詩「北上川は熒気をながしィ」


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画像提供はfieldnoteさん

ヒヨドリ(スズメ目ヒヨドリ科)
全国に分布し繁殖するが、北部のものは秋に暖地に移動する。
ピーヨ、ピーヨと騒がしく鳴き、飛びながらピーッ、ピーッと鳴く。
10~11月には次々と移動する群れを各地で見る。
低地から山地の林にすみ、庭や公園でも普通に見られる。深い波形をえがいて飛ぶ。


《すももを灼く》というイメージがつかめなかったが、花巻出身の長老から「すももの実を葉に包んで焼き、咳止めにもちいるという民間療法があったようだよ」と伺ったことがある。
調べてみたが、詳細は不明。どなたか、ご存知の方がいらしたらご教示願いたい。

イリスはIris(アイリスとも)で、アヤメ科アヤメ属の学名。
賢治のお気に入りの植物の一つで、他の作品にもしばしば登場する。

この作品は再三の手入れを経て、このような最終形に落ち着いたかのように見えるが、さらに一部の推敲が加えられ、昭和8年7月に「花鳥図譜・七月・」という題で「女性岩手」という雑誌に発表された。
確かに「花鳥図譜」ではある。
by nenemu8921 | 2007-10-11 18:18 | 鳥・動物 | Comments(6)

ヘラサギ

    燕麦の白い鈴の上を
    へらさぎ二疋わたってきます
            詩「北上川は熒気をながしィ」


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先頭がヘラサギ、続くのはクロツラヘラサギ
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画像提供はどちらもmomokibituさんです。07.01.20佐賀県東与賀町大授干潟の撮影だそうです。
こちらは右がヘラサギで、左がクロツラヘラサギです。


ヘラサギ(コウノトリ目トキ科)
サギの仲間によく似ているが、トキ科に分類されている。サギの仲間は立つときに胸を反らせ、飛ぶときに首をS字型に縮めるが、ヘラサギは立つときにやや前のめりで、飛ぶときには首をのばして飛ぶ。体長68cm。くちばしはへら形で、これが名前の由来にもなっている。干潟や水田、湿地などでくちばしを水につけて左右に振り、くちばしに触れた魚、カエル、カニなどを捕食する。分布地はユーラシア大陸とアフリカ大陸に点在しているが、日本では毎年数は少ないが、鹿児島県出水のツル渡来地に冬鳥として渡来するという。それ以外の地域では迷鳥としてごくまれに出現する。なおクロツラヘラサギは近縁種。

この作品は様々なヴァージョンがある。最初の題は「夏幻想」であり、日付も1924.7.12となっている。幻想世界ではイメージが交錯するのか、月見草の咲く季節に冬鳥のヘラサギが飛ぶのである。

クロツラヘラサギは見たことがあるがヘラサギはいまだ出会ったことがないという関東以北のバーダーは多いのではないかと思う。賢治の時代には非常にまれな旅鳥である。
by nenemu8921 | 2007-10-09 18:22 | 鳥・動物 | Comments(4)

宮沢賢治の愛した鳥や植物


by nenemu8921