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コナラ

月のほのほをかたむけて、  水杵はひとりありしかど、
搗けるはまこと喰みも得ぬ、 渋きこならの実なりけり。
(略)
                 文語詩〔月のほのほをかたむけて〕

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コナラ(ブナ科コナラ属)小楢
山地や丘陵地に多い落葉高木。高さ25mほどになる。樹皮は灰黒色で、縦に不規則な裂け目がある。堅果(どんぐり)は、長さ約2cmの楕円形で年内に熟す。

きれいに紅葉したコナラの若い木を見つけた。実は昨年のもの。
宮沢賢治はナラノキが気に入っていたのだろう。「楢の木大学士の野宿」では大学士、」「ひかりの素足」では遭難する弟、楢夫で登場する。「さるのこしかけ」の主人公も楢夫だった。
普通ナラといえば、コナラをさす。オオナラとも呼ばれるミズナラはコナラよりやや深山に多い。


追記
メールをいただいた。水杵について説明せよとの仰せである。
水杵とは、バッタン(バッタリ、バッタリー、ガッタンなどとも)と呼ばれたもの。沢水などを引いて、水力を利用した脱穀、精米の装置のこと。現在でも使用している地域もあるようです。
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搗いても食べられない渋いどんぐりだと詩人は言うが、時間をかけて煮て、水に晒してアクを抜き、食料にしていた。
「どんぐりと山猫」の舞台となった北上山地では、第2次世界大戦後の食糧難の時代までずっと、どんぐりは日常の食べものだったという。(「どんぐり博物誌」『雲の信号』創刊号所収)
北上山地の宿でいただいたどんぐりデザートを以前紹介した。よかったら、こちらをどうぞ。
by nenemu8921 | 2007-12-28 02:01 | 植物 | Comments(15)

ワタ

(略)
人はやっぱり秋には
禾穂(かすい)を叩いたり
鳴子を引いたりするけれども
氷点は摂氏十度であって
雪はあたかも風の積もった綿であり、
柳の波に積むときも
まったくちがった重力法によらねばならぬ
(略)
              詩「浮世絵展覧会印象」


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ワタ(アオイ科ワタ属)綿
ワタ属(Gossypium spp.、英:cotton plant)はアオイ科の属の一つ。約40種の多年草からなる。世界各地の熱帯または亜熱帯地域が原産。子房が発達して形成される朔果 (ball) の内部の種子表面からは白い綿毛が生じ、これを繊維として利用するため栽培される。この繊維は綿として利用される。
画像は佐倉市の国立歴史民族博物館に付属した「くらしの植物苑」での撮影。花は7月。実は10月。

引用した詩は、1928(昭和3)年、6月6日~25日、上野の東京府立(現、都立)美術館で報知新聞社主催の「御大典記念徳時代名作浮世絵展覧会」を鑑賞した折の作品の一節 。
鈴木春信の「雪中相合傘」が素材らしいが、詳細は不明。ご存知の方がいらしたらご教示願いたい。
以前ハスの花の紹介でも、この作品には触れた。

「雪はあたかも風の積もった綿」とは、詩人としては凡庸な比ゆだ。今の季節、クリスマスツリーに飾られた綿の雪を連想してしまう。
禾穂(かすい)は、稲の穂のこと。鳴子は田畑を荒らす鳥をおどし追うのに用いる具。小さい板に細い竹管を糸で掛け連ねたものを縄に張り、引けば管が板に触れて音を発する。
前半の4行は秋の田をイメージさせると思えるのだが。
by nenemu8921 | 2007-12-23 12:07 | 植物 | Comments(9)

マユミ

(略)
そのとき向ふから一列の馬が鈴をチリンチリンと鳴らしてやって参りました。
みちが一むらの赤い実をつけたまゆみの木のそばまで来たとき両方の人たちは行きあひました。
兄弟の先に立った馬は一寸みちをよけて雪の中に立ちました。兄弟もひざまで雪にはひってみちをよけました。(略)
                                          童話「ひかりの素足」
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マユミ(ニシキギ科ニシキギ属)真弓
昔、本種の材で弓を創ったことからこの名がある。高さ5~12mになる落葉高木。葉は5~15cmの楕円形。淡緑色の小さな花をつける。雌雄異株。雄花では花糸が長く、雌花では短い。蒴果は淡紅色で4つに裂け、中から赤い種子がのぞく

兄弟が吹雪の中で遭難する物語。そのきっかけになる大人の長い立ち話が始まる直前のシーンである。
この秋は気にかけていたせいか、市川、東京、信州でもマユミの美しい木に出会った。
が、撮影はどれもイマイチで、アップするのも気が進まない。
来年は出来れば、雪の中のマユミの実をしっかり撮りたいと思う。
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今年5月に千葉市郊外で。マユミの花が散っていちめんプリント模様をつくっていた。
by nenemu8921 | 2007-12-21 13:40 | 植物 | Comments(8)

ツルウメモドキ

今日もまたしやうがないな
青ぞらばかりうるうるで
窓から下はただいちめんのひかって白いのっぺらばう
砂漠みたいな氷原みたいな低い霧だ
雪にかんかん日が照って
あとで気温がさがってくると
かういふことになるんだな
(略)
もっとも向ふのはたけには
つるうめもどきの石藪が
小さな島にうかんでゐるし
(略)                    詩〔今日もまたしやうがないな〕
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ツルウメモドキ(ニシキギ科ツルウメモドキ属)蔓梅もどき
山野に生える落葉つる性木本。つるは長くのびて他物にからまる。
5~6月、短い花序に黄緑色の小花を開く。雌雄異株。蒴果は黄色の球形。裂けると黄赤色の種子がのぞく。

花巻農学校之教師時代、職員室の窓から下校時の校庭の様子を描いている。
1925.1.25の日付がある。晴れているのに、気温が低いため霧が澱んでいるらしい。
そこから、この作品の後半は幻想的に展開される。
ツルウメモドキは校門の手前の池に石囲いのやぶを島のようにしつらえたものか。
by nenemu8921 | 2007-12-19 18:19 | Comments(10)

ゲンノショウコ

(略)
私は沢山の美しかった人たちを知ってゐます。
あの去年「暁(あかつき)」と名づけられ、もろもろの花の中の王とたたえられ、欧字の新聞や
雑誌にまでその肖像をかかげられた黄薔薇のことを皆さんはお聞きでせう。
私は、あの花がどうしてあんなに立派になったかを、ここでちゃんと見てゐました。
あの花の魂が、まだ、ばらにならなかった前は、それはそれはあはれなちいさなげんのしょうこだったのです。
けれども、その小さな白い花は、決してほかの花をそねんだことがありませんでした。
十五日ほどのみぢかな一生を、ほかの大きな葉や花のかげで、しづかにつつましく送ったのです。
そのしづけさつつましさ、安らかさこそはあの美しい黄ばらに咲いたのです。(略)
                             童話「ひのきとひなげし」(初期形)
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ゲンノショウコ(フウロソウ科フウロソう属)現の証拠
下痢止めや腹痛の薬草として有名。飲めばすぐに薬効が現れるということからこの名がある。
高さ30~50cmになる多年草。葉は掌状。花は7~11月で、東日本では白花、西日本では赤花が多い。
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はじけた実の形が神輿(みこし)の屋根のように見えるので、ミコシグサともいう。

ゲンノショウコは小さな花だが、見た目も中身も名前も存在感が大きい。はじけた実の元気ぶりはごらんの通りである。
宮沢賢治も思い直したのか、晩年手入れして残された草稿ではこの部分は削除されている。
残念なような気もする。
なお「暁」という黄薔薇に関しては、京成バラ園芸さんで調べてもらったが、資料は見つからなかった。
バラは毎年沢山の新品種が出来るので、古いものはどんどん市場からも消えてしまうという。
国会図書館で、古い欧字の新聞?を丹念に調べたら「暁」の記事が見つかるかもしれない。
by nenemu8921 | 2007-12-15 00:14 | 植物 | Comments(8)

キビ

(略)
「四郎はしんこ、かん子はかんこ、黍の団子をおれやろか。」
かん子もあんまり面白いので四郎のうしろにかくれたままそっと歌ひました。
「狐こんこん狐の子、狐の団子は兎(うさ)のくそ。」(略)
「とにかくお団子をおあがりなさい。私のさしあげるのは、ちゃんと私が畑を作って
播いて草をとって刈って叩いて粉にして練ってむしてお砂糖をかけたのです。
いかがですか。一皿さしあげませう。」(略)
                                童話「雪わたり」

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キビ(イネ科キビ属)黍
イネ科の1年生作物。五穀の一種で栄養価が高く、山間部ややせ地でも栽培が可能。日本古来の五穀とはコメ、ムギ、アワ、キビ、ダイズである。
小実はたんぱく質に富み、混炊や餅や飴などの原料とする。

小狐紺三郎くんのキビ団子は、いかにも無農薬で、手作り!! おいしそうだ。
最近では、健康ブームとかで、雑穀をミックスしたものを混炊するのが流行のようだ。
by nenemu8921 | 2007-12-14 00:06 | 植物 | Comments(4)

毒もみのすきな署長さん

(略)
ある夏、この町の警察へ、新しい署長さんが来ました。
この人は、どこか河獺(かわうそ)に似てゐました。
赤ひげがぴんとはねて、歯はみんな銀の入歯でした。
署長さんは立派な金モールのついた、長いマントを着て、毎日ていねいに町をみまはりました。
(略)                           童話「毒もみのすきな署長さん」


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「賢治童話絵画館 ある晴れた日に」(本橋英正・パロル舎)より。

賢治童話絵本はさまざまなものがあって、楽しいが、この「毒もみのすきな署長さん」を描いたのは、この人だけではないだろうか。おしゃれな署長さんだ。
本橋英正氏は古い友人の一人だったが、逝かれてからもう何年になるだろう。

毒もみのこと
友人のヤジュルさんから毒もみについて懐かしいお話をご紹介いただきました。
こちら「ロゴス古書」をどうぞご覧ください。
作品に関しても解説もいただきました。たいへん、ためになります。
わさび田についても言及されています。
by nenemu8921 | 2007-12-11 19:40 | その他 | Comments(8)

岩手銀行←銀行

(略)
老いたるミセスタッピング、          「去年(こぞ)なが姉はこゝにして、
中学生の一組に、               花のことばを教えしか。」

孤光燈(アークライト)にめくるめき、    羽虫の群のあつまりつ、
川と銀行木のみどり、             まちはしづかにたそがるゝ。

                              文語詩「岩手公園」

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岩手銀行 (中ノ橋支店)← 盛岡銀行
明治期を代表する建築家である辰野金吾の設計により、1911年に完成した建物。
盛岡銀行は、盛岡の実業家が興したものの、後に昭和金融恐慌で破綻し、のちに設立される現在の岩手銀行へ継承された。
盛岡銀行時代も岩手銀行となってからも、1983年まで銀行の本店であった。盛岡市中央通りに岩手銀行本店が設置されてからは中ノ橋支店となったが、今なお現役の銀行店舗である。現役の銀行店舗が重要文化財に指定された例は、これが最初だという。


この作品は再三の手入れの後、岩手公園を舞台にしてタッピング・ファミリーを描く作品となった。
タッピング氏に関してはこちらをどうぞ。
孤光燈(アークライト)は明治期に街灯によく用いられた。二つの炭素電極間に電圧をかけたときに起こる放電が弧形(アーチ、弓形)に見えることからこの名がある。
川は中津川。
笑い話がある。賢治の文語詩がまだ多くの人に周知されないころ、銀行木(ぎんこうぼく)とはどんな木だろうかと真面目に書いていた論があった。川と銀行、木のみどりと読む。

この銀行の壁はかつて岩手公園にくつろぐ宮沢賢治を見つめていたのだ。そして、明治、大正期も、昭和の戦前戦後も、多くのものを眺めてきた。今なお平成の時代のなかで、道行く人や走る車を黙って見つめている。
by nenemu8921 | 2007-12-10 09:29 | 場所 | Comments(8)

大豆←豆

(略)
嘉ッコは林にはひりました。松の木や楢の木が、つんつんと光のそらに立ってゐます。
林を通り抜けると、そこが嘉ッコの家の豆畑でした。
豆ばたけは、今はもう、茶色の豆の木でぎっしりです。
豆はみな厚い茶色の外套を着て、百列にも二百列にもなって、サッサッと歩いてゐる兵隊のやうです。
お日さまはそらのうすぐもにはひり、向ふの方のすゝきの野原がうすく光ってゐます。(略)
                                             童話「十月の末」

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ダイズ(マメ科ダイズ属)大豆
マメ科の1年草。農作物として世界中で広く栽培されている。豆といえば、大豆、小豆、ソラマメ、エンドウマメなどの総称だが、大豆の代名詞として使われることが多い。
大豆は土質を選ばず育ちもよく、さらに根に空中の窒素を吸収固定させる働きがあるため土質改良の目的で栽培されることも多い。実は「畑の肉」といわれてたんぱく質に富み、豆腐、味噌、しょうゆ、納豆などに加工され、また食用油、燈油、石鹸などの原料にもなる。
大豆とは大きな豆ではなく、大いなる豆だと言うのもうなずける。
賢治作品でも豆として登場する多くはこの大豆のことである。

童話」「十月の末」は、草稿表紙に村童スケッチという書き込みがある通り、農村の子どもを描いた童話である。時代の背景も感じられて興味深い。
この茶褐色に熟した豆のさやは、なるほど外套のようだ。
この畑は収穫期をだいぶ過ぎてしまったせいか、兵隊の行進としては、規律が混乱しているようだ。

安曇野の11月で、目に留まった光景である。
平成の時代、村童はどこへ行ったのか?
by nenemu8921 | 2007-12-08 10:39 | 植物 | Comments(4)

サンショウ

(略)
 さてこの国の第一条の
「火薬を使って鳥をとってはなりません、
 毒もみをして魚をとってはなりません。」
 といふその毒もみといふのは、何かと云ひますと床屋のリチキはかう云ふ風に教へます。
 山椒(さんしょう)の皮を春の午(うま)の日の暗夜(やみよ)に剥(む)いて、土用を二回かけて乾かし、うすでよくつく、その目方一貫匁(かんめ)っを天気のいい日に、もみぢの木を焼いてこしらへた木灰七百匁とまぜる、それを袋に入れて水の中へ手でもみ出すことです。
 さうすると、魚はみんな毒をのんで、口をあぶあぶやりながら、白い腹を上にして浮かびあがるのです。そんなふうにして、水の中で死ぬことは、この国の語(ことば)ではエップカップと云ひました。これはずいぶんいい語です。
(略)
                                  童話「毒もみのすきな署長さん」
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サンショウ(ミカン科サンショウ属)山椒
山地や丘陵地に自生するが、若葉を食用とするため人家にもよく植えられる。
高さ2~3mの落葉低木。枝や葉柄の基部に対生するとげがある。葉は奇数羽状複葉で互生。4~5月、枝先に黄緑色の小花を多数開く。雌雄異株。果実は赤褐色で種子は黒色。
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「毒もみのすきな署長さん」は、たしかにへんてこなお話である。
が、妙に心惹かれる登場人物であり、読後に声に出せない爽快感がある。
この童話の登場人物たちに関して、「賢治の好きでたまらなかった人間型であったようだ」と弟の清六氏がコメントしているのも、賢治文学の本質を考える上で示唆的である。

この夏は過激な暑さだったが、11月になって私の「下の畑」のサンショが狂い咲きした。
実をつける時期だというのに。
春には他の植物も華やかな時期なので気にも留めなかった小さな花を、改めてゆっくり眺めることとなった。
by nenemu8921 | 2007-12-05 01:12 | 植物 | Comments(13)

宮沢賢治の愛した鳥や植物


by nenemu8921