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トキ

(略)
桜草はその靭(しな)やかな緑色の軸をしづかにゆすりながら、ひとの聞いてゐるのも知らないで斯(こ)うひとりごとを云ってゐました。
「おひさんは丘の髪毛の向ふの方へ沈んで行ってまたのぼる。
そして沈んでまたのぼる。空はもうすかり鴇の火になった。
さあ、鴇の火になってしまった。」
若い木霊は胸がまるで裂けるばかりに高く鳴りだしましたのでびっくりして誰かに聞かれまいかとあたりを見まはしました。その息は鍛冶場のふいごのやう、そしてあんまり熱くて吐いても吐いても吐き切れないのでした。
(略)
                                  童話「若い木霊」


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画像提供は蘇雲山さんです。
トキ(コウノトリ目トキ科)鴇 朱鷺
画像は中国の野生のトキである。成鳥だという。

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画像提供は佐渡トキセンターです。

「タネリはたしかにいちにち噛んでゐたやうだった」の前身ともいえるこの「若い木霊」では、トキは、官能的イメージ、性的なシンボルを象徴するかのように登場する。

明治33年に岩手県宮古地方で捕獲されたトキが国立科学博物館に保存されている。
大正期、一般的には既に絶滅した鳥と考えられていたようだ。
賢治の独自なトキのイメージは、当時既に幻の鳥として、美しい羽色が話題になったことや、博物館などで見聞する機会のあった標本の印象もあったと思われる。
トキは下に曲がった大きな嘴をもち、赤い顔をし、短い脚で、奇妙な雰囲気の鳥でもある。
実際のトキは、ダォと鳴き、臆病で動作も鈍かったゆえに簡単に捕獲され、明治以後激減してしまった。
トキは一年のうち約半分は灰色をしている。この灰色の羽を生殖羽と呼ぶ。賢治はこの生殖羽のトキを描いていない。
実際のトキに出会う機会はなかったのであろう。
by nenemu8921 | 2008-01-28 00:12 | 鳥・動物 | Comments(8)

トキ

一疋の大きな白い鳥が、日を遮って飛びたちました。
はねのうらは、桃いろにぎらぎらひかり、まるで鳥の王さまとでもいうふう、タネリの胸は、まるで酒でいっぱいのようになりました。
タネリは、いま噛んだばかりの藤蔓を、勢よく草に吐いて高く叫びました。
「おまへは鴇(とき)といふ鳥かい。」
                    童話「タネリはたしかにいちにち噛んでゐたやうだった」


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画像提供は蘇雲山さんによる中国の野生のトキです 
トキ(コウノトリ目トキ科) 鴇 朱鷺
体は白色だが、尾羽の羽毛は橙紅色を帯び、飛ぶと風切羽が橙紅色に見える。
トキは明治以後、田を荒らす害鳥として駆除されたり、美しい羽を採集するために捕獲されたりして急激に減った。
1934(昭和9)年に天然記念物、1952年に特別天然記念物、1960年には国際保護鳥と指定された。
1981年、佐渡に残された最後の野生のトキ5羽を捕獲保護し、その後中国から番のトキを寄贈されるなどの経過を経て、繁殖を図ってきた。
2003年に日本の野生のトキは死亡したが、、手厚い保護のもとトキは増え、2007年末、国内のトキは95羽だという。
コウノトリのように野生復帰できる日も遠くないのかもしれない。
画像は知人の好意から蘇雲山さん(環境文化創造研究所 主席研究員)のものをお借りした。

「タネリはたしかにいちにち噛んでゐたやうだった」におけるトキは、幻想的なイメージだ。異界へ主人公を連れ込む役割で、魔性の力を持つ鳥として描かれる。
by nenemu8921 | 2008-01-27 18:00 | 鳥・動物 | Comments(2)

花椰菜→カリフラワー

(略)
小屋のうしろにもたしかにその黒い木がいっぱいにしげってゐるらしかった。畑には灰いろの花椰菜(はなやさい)が光って百本ばかりそれから蕃茄(トマト)の緑や黄金(きん)の葉がくしゃくしゃにからみ合ってゐた。馬鈴薯(ばれいしょ)もあった。馬鈴薯は大抵倒れたりガサガサに枯れたりしてゐた。ロシア人やだったん人がふらふらと行ったり来たりしてゐた。全体祈ってゐるのだらうか畑を作ってゐるのだらうかと私は何べんも考へた。
(略)
                                  初期短編「花椰菜(はなやさい)」


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花椰菜→カリフラワー(アブラナ科アブラナ属)
ヨーロッパ原産。ブロッコリーと同様にキャベツの仲間です。
紀元前6世紀頃には、既に記録があるが、育成が難しい植物だったため、普及したのは20世紀に入ってからだという。
日本には明治初年に導入されたが、長い間食べる用途より観賞用として使われてたとか。
園芸用でキャベツが「葉牡丹」(はぼたん)、カリフラワーを「花椰菜」(はなはぼたん、はなやさい)として扱っていたが、カリフラワーのほうは採種が困難なことと、当時の日本食には合わないこともあって、食用としては普及しなかったらしい。
昨今のように食卓に普通にあがるようになったのは、日本人の食事が洋風化した60年代以降か。

短編「花椰菜」は、夢の記述と思われる作品。
大正期に東北でカリフラワーは栽培していたのだろうか? 
もっとも夢の舞台はカムチャッカの野原らしいのだが。
宮沢賢治は食べたのかしら。
私(nenemu)は戦後の生まれですが、カリフラワーを子どものときに食べたj記憶はないのですが……。
by nenemu8921 | 2008-01-25 19:41 | 植物 | Comments(4)
聖なる窓
そらのひかりはうす青み
汚点ある幕はひるがへる
  Oh, my reverence!
  Sacred St.Window!
              文語詩〔聖なる窓〕


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閲覧室の窓を外から撮影したもの
Oh, my reverence! Sacred St.Window!は、
「おお、私の尊師!聖なる聖(セント)ウィンドウよ!」の意。
関連したいくつかの作品を併せ読めば、この窓はダルケがたたずむ閲覧室の窓と解釈することが多いようです。
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閲覧室(現在は資料室)へ続く廊下
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明治期のガラスがそのまま使われている窓
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当時の板硝子は手作りだったため、ゆがんでいる。
by nenemu8921 | 2008-01-24 16:06 | イメージ | Comments(6)
われはダルゲを名乗れるものと
つめたく最後のわかれを交はし
閲覧室の三階より
白き砂をはるかにたどるここちにて
その地下室に下り来り
かたみに湯と水とを呑めり
そのとき瓦斯のマントルはやぶれ
焔は葱の華なせば
網膜半ば奪はれて
その洞黒く錯乱せりし

かくてぞわれはその文に
ダルケと名乗る哲人と
永久(とは)のわかれをなせるなり
                  文語詩〔われはダルケを名乗れるものと〕

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帝国図書館→国際子ども図書館
大正10年1月23日、家を出て上京した賢治は、本郷の菊坂町に下宿し、東京大学前の文信社でアルバイトをしながら、国柱会や図書館へ通ったり、童話を書いたりして、8月半ばまで東京で生活した。
上野にあったため上野図書館とも呼ばれた帝国図書館にはしばしば通ったらしく、この文語詩の素材となった「図書館幻想」は、その頃の体験をもとに書かれた作品である。
往時の帝国図書館(明治39年3月竣工)は、昭和4年に一部増築され国立国会図書館支部上野図書館を経て、平成12年(2000年)に創立時の建物、内装の一部を復元し、新に増設された部分も併合して国際子ども図書館として開館した。安藤忠雄の設計によるものだという。
賢治が上京した季節に合わせて、図書館を訪れてみた。
建物左側のガラスのエントランスホールは新設された部分である。屋根の避雷針は創立時の復元だという。
建物の施設に関して詳しくはこちらをどうぞ。

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大階段と呼ばれる階段は透明な手すりが施されているが、ほぼ当時のままを復元したもの。宮沢賢治もこの階段を上って3階の閲覧室へ通ったのだ。
by nenemu8921 | 2008-01-22 23:48 | 場所 | Comments(2)

カモ 7

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ヒドリガモ♂(ガンカモ科)緋鳥鴨
全長48.5cm 冬鳥として全国に渡来する。池、河川、海上などでごく普通に見られる。1960年代は少なかったが、1970年代以降増加し、現在ではホシハジロ、オナガガモとともに、もっとも数が多い種類のカモである。赤褐色の頭と胸、、額から頭頂に黄白色の縦班、先端の黒い灰色の嘴が特徴。ピュー、ピューと鳴く。
by nenemu8921 | 2008-01-19 20:07 | 鳥・動物 | Comments(2)

カモ 6

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画像提供は船橋の猛禽大好きさんです。

コガモ♂(ガンカモ科)小鴨
全長37.5cm。冬鳥として全国に渡来する。
大人のカモ(成鳥)でもコガモ、黄いろのパンツ緑のサングラス。と、よくバードウォッチングを始めた頃小学生の息子が合言葉のようにつぶやいていた。
その頃は我が家の周辺の水田で、よく見かけたが、最近は水田もなくなり、姿も見かけなくなった。
前回紹介したトモエガモとちょっと似ているが、このコガモはごくありふれた淡水ガモ。トモエガモはなかなか出会えない。
おそらく宮沢賢治も見ていだろうと思われるカモの仲間です。
by nenemu8921 | 2008-01-17 19:33 | 鳥・動物 | Comments(0)

カモ 5

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トモエガモ♂
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トモエガモ♂
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トモエガモ♀
今回の画像提供はすべて船橋の猛禽大好きさんです。

トモエガモ(ガンカモ科)巴鴨
全長40cm 冬鳥として全国に渡来する。北陸、中部地方には比較的多いが、関東地方ではまれである。♂の顔は黄色と緑色が巴模様をなしていることからの命名。♂の体側にある前後にある白色の縦班は、本種にだけ見られる特徴である。♀はコガモやシマアジの♀とよく似ているが、嘴のつけ根にある丸いくっきりした白斑が特徴。

歌舞伎役者の隈取のようなこの顔を見ると、つい、
「その複雑なきみの表情を見ては
ふくろふでさへ遁げてしまふ」
という賢治の詩のフレーズを思い出してしまう。

by nenemu8921 | 2008-01-14 16:31 | 鳥・動物 | Comments(8)

カモ 4

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ハシビロガモ♂(ガンカモ科)嘴広鴨
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ハシビロガモ♀(ガンカモ科)嘴広鴨
全長50cm 冬鳥として本州以南に渡来する。水面をグルグルまわりながら、扁平な嘴でペチャペチャと、浮かんでいる植物の種子やプランクトンなどを漉しとって採食している。
英名Shoveler(shoverはシャベル)は、嘴の形から名づけられている。

人間だったらちょっと困った顔だったかも。
by nenemu8921 | 2008-01-12 21:55 | 鳥・動物 | Comments(4)

カモ 3

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オナガガモ♂(ガンカモ科)尾長鴨
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オナガガモ♀(ガンカモ科)尾長鴨
全長♂75cm ♀53cm 全国に冬鳥として渡来する。個体数は多く、近年増加傾向にある。池、河川などにごく普通に見られる。典型的な水面採食ガモで、地上や水面で植物質のものを採食している。水面で逆立ちして、水底の植物などをたべている姿もよく観察される。
英名のPintailは細長くとがった尾羽からつけられた。
by nenemu8921 | 2008-01-11 17:03 | 鳥・動物 | Comments(4)

宮沢賢治の愛した鳥や植物


by nenemu8921