<   2008年 04月 ( 11 )   > この月の画像一覧

スズラン

今は兎たちは、みんなみじかい茶色の着物です。
野原の草はきらきら光り、あちこちの樺の木は白い花をつけました。
実に野原はいい匂でいっぱいです。
子兎のホモイは、悦(よろこん)でぴんぴん踊りながら申しました。
「ふん、いい匂だなあ。うまいぞ。うまいぞ。鈴蘭なんかまるでパリパリだ。」
風が来たので鈴蘭は、葉や花を互いにぶっつけて、しゃりんしゃりんと鳴りました。
ホモイはもう嬉しくて、息もつかずにぴょんぴょん草の上をかけ出しました。
(略)
                                童話 「貝の火」


c0104227_1322243.jpg


c0104227_13222296.jpg

スズラン(ユリ科スズラン属)
山地や高原の草地に生える多年草。別名キミカゲソウ(君影草)
画像は園芸種のドイツスズラン。
賢治作品に登場するスズランは、日本スズラン(Convallaria keiskei)と呼ばれる在来種で、中部以北から北海道の山地で自生しているもの。ドイツスズランに比べて花が小さく、香りは強いという。秋には赤い実がたくさんつくらしい。
かつて岩手山麓にはたくさん自生していたと思われるが、私はイーハトーブでお目にかかったことはない。
今でも自生しているところがあるのだろうか。ご存知の方がいらしたら、ご教示願いたい。
by nenemu8921 | 2008-04-30 13:27 | 植物 | Comments(15)
1926(大正15・昭和元)年4月1日(木)
豊沢町の実家を出、下根子桜の別宅で独居自炊の生活に入る。

同6月末
教え子菊池信一が、送られた地図を頼りに石鳥谷から下根子の家を訪ねてくる。(略)
菊池の来訪をよろこんだ賢治は「最初の日はたった二坪ばかり、その次の日も二坪ちょっとばかり、何せ竹藪でね、ゆうがたには腕がジンジン痛む、然し今では十坪位は楽ですよ。体もなれてもうなんともない」と開墾のもようを語り、冷たいご飯に汁をかけ、たくあんをかじりあった。
(略)
開墾地は北上川の岸近い沖積土のいわゆる砂畑二反四畝歩(約2400平方メートル)ほどで、家から二、三分で行けた。読書・執筆。訪問者の合間をみては下の畑へ降りて耕し、結球白菜・トウモロコシ・ジャガイモ・トマトなどを育て、チューリップを咲かせ、畑のふちはアスパラガスで緑の煙のように巻いた。
花壇は家の空き地につくられ、花の種はイギリスのサットン商会のものを横浜の店から取り寄せた。
                    新校本宮澤賢治全集第16巻下 補遺資料 年譜篇より

c0104227_1635990.jpg
現在の「下ノ畑」跡

c0104227_1664239.jpg
下ノ畑から北上川を臨むいずれも2006年6月の撮影 

c0104227_1692981.jpg
マイ下ノ畑
マンションや住宅地に囲まれた市民農園です。4、5年前からマイ下ノ畑と称して、野菜や草花を栽培しています。ベランダから遠く見下ろせるので、そう呼ばせていただいております。
c0104227_201171.jpg
こちらが我が家のスペースです。きゅうりやインゲンの種をまき、トマトやシシトウの苗を植えました。タマネギやワケギ、ブロッコリーも青々としています。
c0104227_16261013.jpg
こちらは増設した分です。これから賢治作品に登場する草花が次々咲き始める予定ですが…。

ある会で雑談の折、ある研究者から
「なに、下のノ畑ですと!!
nenemuさん。賢治はどれくらいの広さの土地を耕していたか、知っているかね」
と訊かれました。
うーん、答えに窮してしまいましたが、全集には上記の記述があります。
まことに小さな市民農園の一角を「下ノ畑」と呼ぶのはおこがましいかぎりですが、
賢治さんへの敬愛に免じてお許しいただき、楽しい下の畑ごっこ、マイ下ノ畑のあれこれを、今後少しづつ紹介させていただこうと思います。

まずはマイ下ノ畑のシンボルツリーのギンドロです。
c0104227_16454415.jpg
ようやく新芽が延びてきました。これは黒沢尻高校に賢治が寄贈したと伝えられているギンドロのひこばえを盛岡の友人がお送りくださった、由緒正しいギンドロであります。
黒沢尻高校のギンドロは、お送りいただいた年の秋、台風で倒れたとか。
たいへん丈夫で、成長が早いので、あっという間に大きくなりました。毎年小さく剪定するのですが…。
足元には、いまたくさん新芽が出ています。

c0104227_1713482.jpg
ギンドロ←ウラジロハコヤナギ(ヤナギ科ハコヤナギ属)
ヨーロッパから中央アジアに分布し、若い枝は白く、長枝の葉身は裏面が白色で、掌状に3~5裂し、葉柄は白く円い。White poplar (英)、Silberpappel[(独)。
ハーブ界でも、この樹木は人気があるらしく、友人のハーブ・ガーデンではシルバーポプラと呼んでいる。
日本で自生しているドロヤナギやヤマナラシとは同じヤナギ科ハコヤナギ属だが、同一のものではない。
こちらは園芸種である。
by nenemu8921 | 2008-04-27 16:04 | イメージ | Comments(12)

チューリップ ③

(略)
「さうです、さうです。
そして一寸(ちよっと)あいつをごらんなさい。ね。そら。(略)」
「あのちいさな白いのですか」
「さうです。あれは此処(ここ)では一番大切なのです。まあしばらくじっと見つめてごらんなさい。
どうです。形のいいことは一等でせう。」
「(略)
風にゆらいで微(かす)かに光ってゐるやうです。
(略)
それにあの白い小さな花は何か不思議な合図を空に送ってゐるやうにあなたには思はれませんか」
(略)
                      童話「チューリップの幻術」


c0104227_21481743.jpg
c0104227_2151526.jpg

c0104227_2154513.jpg

チューリップ(ユリ科チュ^リップ属)


チューリップ ①、②、③の花は、みな最近の新種です。
賢治の時代にも多くの種類があった様子ですが、これらとは異なるものだったと思われます。
昨今のように、公園で植栽された美しいチューリップの群落を見ることはかなわなかった時代でした。
by nenemu8921 | 2008-04-24 21:54 | 植物 | Comments(6)

チューリップ ②

(略)
「この赤と白の斑は私はいつでも昔の海賊のチョッキのやうな気がするんですよ。ね。
それからこれはまっ赤な羽二重(はぶたえ)のコップでせう。
この花びらは半分すきとほってゐるので大へん有名です。
ですからこいつの球はずゐぶんみんなで欲しがります。」
「ええ、まったく立派です。
赤い花は風で動いてゐる時よりもじっとしてゐる時の方がいいやうですね。」
(略)
                                童話「チューリップの幻術」


c0104227_19435542.jpg


c0104227_19441199.jpg


c0104227_19482683.jpg
チューリップ(ユリ科チューリップ属)

チューリップ狂
チューリップ事件といえば、古くはチューリップバブル事件が有名だ。オスマン・トルコから輸入されたチューリップの球根に人気が集中し、異常な高値がつき、その後価格は100分の1以下にまで下がり、オランダ諸都市は混乱に陥った。オランダで1637年に起こった世界最初のバブル経済事件である。チューリップ・バブルは南海泡沫事件(イングランド)やミシシッピ計画(フランス)と並んで、近世ヨーロッパの三大バブルに数えられるそうである。
最近のチューリップ事件は、全国都市緑化ぐんまフェア画開催中の前橋市でプランターのチューリップ約1000本が切断されたというニュースが報じられたあと、あちこちでチューリップを踏みにじる人が続出したことである。
豊かな時代に人の心のかげりを突きつけられたようだった。
(ちょうど半月前に前橋へ出向く所要があり、緑化ぐんまフェアの会場も覗いたりしたので、ひどく心にかかった。)
童話「チューリップの幻術」は、農園でチューリップのコップで光のお酒を飲んだ園丁と洋傘直しが幻想世界に脚を踏み入れる物語である。

どうやら、チューリップは人を狂わせる花のようだ。

どうせなら、チューリップのグラスで光のワインをなみなみと注いでいただき、ヒバリの声を聞きながら、酔いたいものであります。
by nenemu8921 | 2008-04-22 13:51 | 植物 | Comments(10)

チューリップ ①

(略)
「ね、此の黄と橙(だいだい)の大きな斑(ぶち)はアメリカから直(じ)かに取りました。
こちらの黄いろは見てゐると額が痛くなるでせう」
(略)
                           童話「チューリップの幻術」


c0104227_13472194.jpg


c0104227_13474988.jpg


c0104227_13482031.jpg


c0104227_1355016.jpg

チュウーリップ(ユリ科チューリップ属)
トルコ原産の園芸植物。日本には1820年ごろオランダから入ったといわれているが、賢治の時代はまだまだ珍しい植物だった。賢治は園丁が言うように海外から球根を取り寄せて栽培したらしい。
最近では多彩な園芸種があるが、バラと同様、青いチューリップは出来ないようである。

知人がここ数年秋に富山産の珍しい球根の組み合わせを送ってくるので、マンション脇の通り道に植えて通る人にも楽しんでもらっている。園丁が言うように、この花は陽光が良く似合う。
by nenemu8921 | 2008-04-21 13:48 | 植物 | Comments(8)

れんげさう

(略)
おいおいおいおい
とてもすてきなトンネルだぜ
けむって平和な群青の山から
いきなりガアッと線路がでてきて
まるで眼のまへまで一ぺんにひろがってくる
鳥もたくさん飛んでゐるし
野はらにはたんぽぽやれんげさうや
じゅうたんをしいたやうです
(略) 
                         詩「自由画検定委員」


c0104227_1374320.jpg

c0104227_1382753.jpg

レンゲ(マメ科ゲンゲ属)蓮華草
中国原産の二年草。根に根粒菌がついて空気中の窒素を固定できるため、もともとは緑肥として利用されてきた。これが水田地帯を中心に野生化したもの。以前は里山の風物だったが、最近では公園などで観賞用に栽培されている風景が多い。
別名ゲンゲ。紫雲英(しうんえい)は、レンゲソウの漢名。花巻地方ではハナコと呼ぶことが多かった。
詩「饗宴」では、ハナコとして登場する。良かったらこちらもご覧ください。


詩「自由画検定委員」は、1923年,11月に花巻川口町花城小学校で開催された「県下小学校自由画展覧会」の展覧作品を描いたもの。1章ごとに1点の児童画を描いている。
子どもの描いた絵を、詩人は言葉に置き換えてみたのである。
どんな絵だったのだろう。
by nenemu8921 | 2008-04-18 13:08 | 植物 | Comments(15)

スモモ

この農園のすもものかきねはいっぱいに青じろい花をつけてゐます。
雲は光って立派な玉髄(ぎょくずい)の置物です。四方の空を繞(めぐ)ります。
すもものかきねのはずれから一人の洋傘(こうもり)直しが荷物をしょって、この月光をちりばめた緑の牆壁(しょうへき)に沿ってやって来ます。
(略)
                                童話「チューリップの幻術」


c0104227_9222982.jpg
スモモ(バラ科サクラ属)酢桃。
中国原産の落葉小高木。
スモモの果実はモモに比べて酸味が強いことが、和名の由来となっている。漢字では「李」とも書かれる。英語では「prune(プルーン)」、「plum(プラム)」などと呼ばれる(ただしウメも「プラム」と呼ばれることがある。)。古くから日本に伝わっており、和歌などにも詠まれる。農園で栽培される他、自生しているものもある。
花期は初春。果実はスモモ系は6月下旬から8月上旬、プルーンの系統は9月頃収穫できる。果実は紅や黄色、代表的な品種としては「大石早生」、「ソルダム」、「サンタローザ」、「メスレー」、「太陽」など。比較的新しい品種では「紫峰」、「月光」、「貴陽」、「秋姫」、「いくみ」などがあり、これらの品種は従来種より糖度が高く、生食用に品種改良されている。日本での主産地は山梨県など。
「スモモも桃も桃のうち」という言葉があるが、桃とは異なる種である。 同じバラ科サクラ属の梅、杏、桃の花粉を利用して人工授粉させることができる。


果樹整枝法で牆壁仕立てがカンデラーブルである。
牆壁(しょうへき)は、垣と壁。囲いの壁の意。
カンデラーブルは蜀台やシャンデリアの連想からのネーミング。
まず水平に枝を伸ばし、その枝から上へ分枝を伸ばす整枝法。

昨年時期をはずしたので、今年こそはと思ったが、スモモは気に入った画像は撮れなかった。
また来年、チャレンジしたい。
千葉県市川市では梨より半月ほど早く開花する。3月末に撮影した画像である。
by nenemu8921 | 2008-04-17 09:16 | 植物 | Comments(4)

(略)
それよりまああの梨の木どもをご覧なさい。
枝が剪られたばかりなので身体が一向釣り合いません。
まるで蛹(さなぎ)の踊りです。」
「蛹踊(さなぎおどり)とはそいつはあんまり可愛さうです。
すっかり悄気(しょげ)て化石してしまったぢゃありませんか。」
「石になるとは。そいつはあんまりひどすぎる。
おおい。梨の木。木のまんまでいいんだよ。
けれども仲々人の命令をすなほに用ひるやつらぢゃないんです。」
(略)
                     童話「チューリップの幻術」


c0104227_199479.jpg
画像はクリックすると大きくなります
c0104227_19115323.jpg

c0104227_1913031.jpg

ナシ(バラ科ナシ属)
和なし(日本なし、Pyrus pyrifolia var. culta )、中国なし (P. bretschneideri) 、洋なし(西洋なし、P. communis )の3つがあり、食用として世界中で栽培される。日本語で単に「梨」と言うと通常はこのうちの和なしを指す。
ナシ(和なし、日本なし)は、中国を原産とし中国や朝鮮半島、日本の中部地方以南に自生する野生種ヤマナシ(ニホンヤマナシ、P. pyrifolia var. pyrifolia )を基本種とする栽培品種群のことである。
高さ15メートルほどの落葉高木。葉は長さ12cmほどの卵形で、縁に芒状の鋸歯がある。花期は4月頃で、葉の展開とともに5枚の白い花弁からなる花を付ける。8月下旬から11月頃にかけて、黄褐色または黄緑色でリンゴに似た直径10~18センチメートル程度の球形の果実がなり、食用とされる。
20世紀、長十郎、幸水、豊水などたくさんの品種がある。

「チューリップの幻術」は、農園を舞台として、洋傘直しと園丁との会話で展開される童話である。 
農園にはすももや油桃(つばいもも)、巴丹杏やまるめろも栽培されている様子だが、二人は畑のチューリップを眺めながら話を弾ませる。
梨の蛹踊とは、剪定整枝された樹木の様子をたとえたもの。

市川市は梨の栽培で有名である。花盛りの梨農園を訪ねた。
剪定された樹木は戯曲「飢餓陣営」の生産体操、カンデラーブルを連想させた。
by nenemu8921 | 2008-04-16 19:10 | 植物 | Comments(8)
空気がゆるみ
沼には鷺百合の花が咲いた
むすめたちは
みなつややかな黒髪をすべらかし
あたらしい紺のペッティコートや
また春らしい水いろの上着
プラットフォームの陸橋の段のところでは
赤縞のずぼんをはいた老楽長が
そらこんな工合だといふふうに
楽譜を読んできかせてゐるし
山脉はけむりになってほのかにながれ
(略)
             詩 「春」 


c0104227_9786.jpg

c0104227_975037.jpg
ミズバショウ(サトイモ科ミズバショウ属)水芭蕉
山地の湿原に大きな群落をつくって生える多年草。北海道、本州に分布。雪解けの頃、内部に黄色い肉質の穂状花序の花を覗かせ、これを囲んで20センチほどの白い仏焔苞が開く。花後、葉がぐんぐん伸びて数十センチの大きさになり、根茎でも繁殖する。バショウの葉に似るというので水芭蕉の名がついた。

東北のミズバショウはこれからだが、群馬の赤城山の山麓で群落を見つけた。けぶったような木々のなかにコブシやミズキが満開で、その足元にミズバショウ、リュウキンカが春を歌っていた。

作品は「春と修羅 第二集」のなかの一編。
詩人は新しい言葉を創造し、世界を新鮮にする。
「牛(ベゴ)の舌」という地方名で、呼ばれていたこの花も、賢治のネーミングにかかると、水百合となり、鷺百合となる。(下書き稿を丁寧に見ていくと、その経過が判明する)
ペッティコートは、女性の下着。ドレスの下につけるスカートスタイルのもの。昭和40年代には普通に使用されていた言葉である。
春はいつの時代であっても、若い娘たちの心はずむ、おしゃれの季節である。
by nenemu8921 | 2008-04-11 09:10 | 植物 | Comments(14)

嫩葉(わかば)

(略)
山ではふしぎに風がふいてゐる
嫩葉がさまざまにひるがへる
(略)
             詩「小岩井農場」パート一


イロハモミジ
c0104227_1348531.jpg

クロモジ
c0104227_1349151.jpg

タチヤナギ
c0104227_13495650.jpg

イヌシデ
c0104227_14293030.jpg

ハンノキ
c0104227_2123688.jpg

c0104227_14422551.jpg
クリックすると画像は大きなります

嫩葉の季節である。
けれども賢治の詩句のなかには、新緑のまぶしさ、美しさを単純にうたう表現は見当たらない。
野外の景観をスケッチしながらも、叙情的な自然讃歌とは、別の世界である。
by nenemu8921 | 2008-04-06 13:56 | 植物 | Comments(11)

宮沢賢治の愛した鳥や植物


by nenemu8921