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ひびわれのほそえだ

せともののひびわれのごとくほそえだは
さびしく白きそらをわかちぬ
                       歌稿A28


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葉を落とした樹木の骨格は思いがけない美しさを見せる。
冬空に見とれてしまう。
だが、賢治は瀬戸物のひびわれを連想したのだ。
やはり、独特の感性ですね。
15歳の頃、短歌創作を始めて、ごく初期の頃の作品。

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by nenemu8921 | 2009-02-26 18:09 | イメージ | Comments(10)

ふきの葉

(略)
しかはあれかの雲の峯をば
しづかにのぞまんはよけんと
蕗の葉をとりて地に置けるに
講の主催者
その葉を師に参らせよといふ
すなはち更に三葉をとって
重ねて地にしき置けるに
師受用して座しましき
                     文語詩「講后」

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アキタブキ(キク科フキ属)秋田蕗
東北以北に自生する。巨大なフキ。茎を砂糖漬けなどにする。葉柄の長さは 2 メートル、葉の直径は 1.5 メートルにもなるという。
最近では栽培したものが多く、自生しているものは少ないと言われているが、岩手山麓で見つけた。

1906年8月1日~10日、賢治の父政次郎も中心になって活動していた花巻仏教会は、中央から暁烏敏を招き、大沢温泉で、夏期講習会を主催した。
賢治10歳の時で、このとき、少年賢治は侍堂として、師の身辺の用を勤めたという。
その折の体験を晩年思い出して文語詩に描いた作品。未定稿である。

あるとき、一行は温泉の裏山に登った。雲の峯を眺めようと、フキの葉を座布団代わりに、三枚重ねて地に敷き、師はその上に座したというのである。

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by nenemu8921 | 2009-02-20 01:01 | 植物 | Comments(22)

ふきの花

そら ね ごらん
むかふに霧にぬれてゐる
蕈(きのこ)のかたちのちひさな林があるだらう
あすこのとこへ
わたしのかんがえが
ずゐぶんはやく流れて行って
みんな
溶け込んでゐるのだよ
  こゝいらはふきの花でいっぱいだ
                   詩「林と思想」

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フキ(キク科フキ属)蕗
山野に生える多年草。地下茎を伸ばしてふえる。
淡緑色の苞に包まれた若い花茎がフキノトウである。

俗に言う「とうがたつ」(薹が立つ)とは、本来は蕗や菜の花などの、花茎が伸びることの意。
以前とうがたった蕗の花を紹介した。
by nenemu8921 | 2009-02-19 04:28 | 植物 | Comments(8)

くひな →ヒクイナ

(略)
ここらの空気はまるで鉛糖溶液です
それにうしろも三合目まで
たゞまっ白な雲の澱みにかはってゐます
月がおぼろな赤いひかりを送ってよこし
遠くで柏が鳴るといふ
月のひかりがまるで掬って呑めさうだ
それから先生、鷹がどこかで磐を叩いてゐますといふ
   (ああさうですか 鷹が磐(けい)など叩くとしたら
    どてらを着てゐて叩くでせうね)
鷹ではないよ くいなだよ
くいなでないよ しぎだよといふ
(略)
                         詩「林学生」

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画像提供は船橋の猛禽大好きさんです

ヒクイナ(クイナ科)緋水鶏
夏鳥として渡来。全国の平地から低山の水田や湿地に生息する。臆病な鳥。なかなか姿を見せない。最近は湿地の減少などで生息数が非常に減っている。が、一方で越冬例の報告もある。繁殖期にはキョッ、キョッ、キョッ、キョキョキョキョ…と次第にテンポをあげて鳴く。その鳴声から、古来、クイナが戸をたたくと表現された。

水鶏(くひな)のうちたたきたるは誰が門さしてと、あはれにおぼゆ   源氏物語
たたくとて宿の妻戸を明けたれば人もこずゑの水鶏なりけり      拾遺和歌集
くひなだにたたけばあくる夏のよをこころみじかき人やかへりし     古今和歌集

文学に登場するクイナといえば、このヒクイナをさした。

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by nenemu8921 | 2009-02-15 14:38 | 鳥・動物 | Comments(10)

富士山と夕景

空気が澄む冬の間、天候次第で東京湾から富士山が見える。
さすがは富士山だ、大きいなと思う。
ちょうど夕日が富士の後ろに沈むこの時期、近くの海、三番瀬は
ダイヤモンド富士の写真を撮ろうという、三脚を抱えたカメラマンで賑やかになる。
しかし、こう温かくては、空も富士もぼんやりしてしまいます。

賢治作品にも夕景と富士山が登場する詩があった。

思いがけなく
雲に包まれた富士の右で
一つの灰色の雲の峯が
その葡萄状の周縁をかがやく金の環で飾られ
さん然として立って居ります
       ……風と
          風と
(略)

あなたの上のそらはいちめん
そらはいちめん
かがやくかがやく
        猩々緋(しょうじょうひ)です
                       詩「三原三部」


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昭和3年6月、大島の伊藤七雄を訪ねた賢治は妹の伊藤ちえに心惹かれたといわれている。
長い三原三部という詩の中で、この一節は、帰途の船からの描写である。
猩々緋は夕空のたとえ、賢治の心も燃えていたのかもしれない。
by nenemu8921 | 2009-02-13 08:37 | イメージ | Comments(12)

雪沓(ゆきぐつ)

雪がすっかり凍って大理石よりも堅くなり、空も冷たい滑らかな青い石の板でできてゐるらしいのです。
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「堅雪かんこ、しみ雪しんこ。」
お日様がまっ白に燃えて百合の匂いを撒きちらし又雪をぎらぎら照らしました。
木なんかみんなザラメを掛けたやうに霜でぴかぴかしてゐます。
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「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。」
四郎とかん子とは小さな雪沓をはいてキックキックキック、野原に出ました。
                                           童話「雪渡り」

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by nenemu8921 | 2009-02-10 09:36 | イメージ | Comments(22)

オオバコ

凍りしく
ゆきのなかからやせたおほばこの黄いろの
穂がみな北に向いてならんでゐます
                    冬のスケッチ三七


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オオバコ(オオバコ科オオバコ属)

オオバコはマルコという地方名でも登場する以前ご紹介した

2009年1月末、胡四王山の麓で見つけた情景です。
by nenemu8921 | 2009-02-09 02:10 | 植物 | Comments(4)

雨上がり

(略)
こんなあかるい穹窿(きゅうりゅう)と草を
はんにちゆっくりあるくことは
いったいなんといふおんけいだらう
(略)
                  詩「一本木野」

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雨上がりの都市公園で、遠く岩手山麓を歩いた賢治の言葉が突き上げてきた。季節も場所も全く異なる時空でも、宮沢賢治はいつも共にあるという実感がある。
気持ちのよい半日だったのです。
by nenemu8921 | 2009-02-04 16:45 | イメージ | Comments(12)

ハンノキ 花

風が吹き風が吹き
残りの雪にも風が吹き
猫の眼をした神学士にも風が吹き
吹き吹き西の風が吹き
はんの木の房踊る踊る
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偏光! 斜方錐! トランペット!
はんの木の花ゆれるゆれる
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吹き吹き西の風が吹き
青い鉛筆にも風が吹き
かへりみられず棄てられた
頌歌訳詞のその憤懣にも風が吹き
はんの木の花をどるをどる

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(略)
  東は青い銅のけむりと
  いちれつひかる雲の乱弾
吹き吹き西の風が吹き 
レンズ! ヂーワン! グレープショット!
はんの雄花はこんどはしばらく振子になる
                  詩 三二六 〔風が吹き風が吹き〕

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ハンノキ(カバノキ科カバノキ属)榛の木
低地の湿地に生え、高さ20mくらいになる落葉高木。

二月に入って明るい日差しのもと、風が吹いた。
都内の水元公園では、日当りのよい場所でハンノキの雄花が開き始めていた。
賢治作品にはハンノキはたびたび登場するが、雄花の開花を歌い上げているこの詩にぴったりの情景だった。

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by nenemu8921 | 2009-02-03 13:35 | 植物 | Comments(10)

宮沢賢治の愛した鳥や植物


by nenemu8921