教え子の晴山亮一(大正12年3月卒業)は、後に次のように、
賢治から聞いた話を思い出話として語っている。
「いろいろ話の中に、カラフトへ行った話がありました。
夏休みにカラフトへ行ってきたが、カラフトは花の匂いがよくて、
とてもよいところだったと言いました。」
              森荘已池『宮沢賢治の肖像』より
 

サガレンでは多くの野草に出会った。それらの多くは宮沢賢治も83年前に目にしたものだと思われる。
この国の自然はそれほど大きく変わってはいないのだ。
下手なデジカメのスナップで恐縮だが、サガレンと北海道稚内でであった植物を順次紹介したい。

エゾクガイソウ(ゴマノハグサ科クガイソウ属)蝦夷九蓋草。
樺太鉄道の車窓から目立ったのは、ヤナギランとこのエゾクガイソウである。
クガイソウは早池峰でも出会ったことがあるが、こちらのは草丈がはるかに大きい。
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エゾムラサキニガナ(キク科アキノノゲシ属)蝦夷紫苦菜
花は、ハーブのチコリによく似ているが、葉を見ると、ニガナの仲間だと納得。
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ヤマハハコ(キク科ヤマハハコ属)山母子
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チシマヒョウタンボク(スイカズラ科スイカズラ属)千島瓢箪木
花も実も、双子の星のように。
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# by nenemu8921 | 2006-12-28 21:46 | 植物 | Comments(0)

【45】 栄浜駅舎跡

大正12年8月4日〈土〉
詩「オホーツク挽歌」の舞台になっているのは、当時の栄浜海岸〈現在のスタロドゥブスコエ〉である。
宮沢賢治は、前日、大泊〈現在のコルサコフ〉発13:10の樺太鉄道東海岸線に乗車して、栄浜到着は
18:20。当時、このあたりで一番大きな旅館、山口旅館に宿泊しただろうと推測されている。
当時の栄浜周辺はアイヌ部落が多く、又この時期は、ニシン漁で人の賑わいも多かったという。
われわれが訪れた平成17年の夏には、鉄道は落合〈ドーリンスク〉までで、栄浜までの路線は廃線となっていた。ドーリンスクで樺太鉄道から貸切のバスに乗り換えての旅だった。
栄浜の駅舎跡は土台石だけが雑草に埋もれ、形もなく、鉄道レールもなく、枕木だけが朽ちて、残されていた。
かわいい少女が屈託のない表情で、われわれに話しかけてきた。

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名前を聞くと、勘違いして犬の名前を教えてくれた。

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朽ちていく枕木。平成16年の夏にはまだレールもあったという。

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小さな小屋に当時の駅で使っていたという日本式のつるべ井戸があった。いまも近所の民家の人たちは使っているという。宮沢賢治もここで水をのんだだろうか。
# by nenemu8921 | 2006-12-26 22:36 | 場所 | Comments(0)
五匹のちひさないそしぎが
海の巻いてくるときは
よちよちとはせて遁げ
  (ナモサダルマプフンダリカサスートラ)
浪がたひらにひくときは
砂の鏡のうへを
よちよちとはせてでる
         詩「オホーツク挽歌」


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ミユビシギ(チドリ目シギ科)三趾鴫
〈ちひさないそしぎ〉は、標準和名のイソシギのことではなく、小さな磯のシギという意味である。
ミユビシギは波打ち際を数羽から数十羽の群れで、チョコチョコと小走りに行き来して採食する。
賢治の表現は、鳥の習性を的確に美しく捉えている。バードウォッチャーが読めば、すぐにこのミユビシギを思い浮かべることだろう。
ミユビシギは、日本列島では旅鳥だが、樺太のツンドラで短い繁殖期に連続して二つの巣をつくる「複式営巣」を行うという。
画像は九十九里海岸でぐうぜん出遭った光景だが、挽歌のステージを喚起させた。

〈ナモサダルマプフンダリカサスートラ〉は、南無妙法蓮華経のサンスクリット読み。
妹からの通信は来ない。なんというあるがままの自然だろう。
鳥の姿を見て、思わず唱えたお題目である。

イソシギ
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画像提供はfieldnoteさん

イソシギ〈チドリ目シギ科〉
イソシギは海岸の岩場、防波堤などでよく出会う。単独でいることが多い。
歩くときは尾を上下に振り、けいれんするように翼を動かして低く飛ぶ。
「宮沢賢治語彙辞典」では、このイソシギとして解説しているが明らかな間違いである。


白鳥湖
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この「オホーツク挽歌」の舞台、栄浜の北には、白鳥湖と呼ばれる美しい沼地が広がっていた。ツンドラ地帯である。
賢治がそこまで脚を伸ばしたかどうかは不明である。
# by nenemu8921 | 2006-12-25 01:12 | 鳥・動物 | Comments(0)

【43】 硝子笛を吹いて

空があんまり光ればかへつてがらんと暗くみえ
いまするどい羽をした三羽の鳥が飛んでくる
あんなにかなしく啼きだした
なにかしらせをもつてきたのか
わたくしの片つ方のあたまは痛く
遠くなつた栄浜の屋根はひらめき
鳥はただ一羽硝子笛を吹いて
玉髄の雲に漂つていく
                  詩「オホーツク挽歌」

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キアシシギ(チドリ目シギ科》黄足鴫
大正12年8月4日、樺太の栄浜海岸である。浜辺に腰を下ろして海を見つめ、空を見つめ、逝ってしまった妹からのしらせを待つ詩人のもとに訪れた三羽の鳥は何か
するどい羽、かなしい啼き声、硝子笛を吹くようにひびくその啼き声……。
三羽であることから、カモメやアジサシではなく、シギではないかと思われる。
キアシシギは飛翔時、広げた羽はシャープで、その声はピューイ、ピューイと本当に硝子笛のように響く。
旅鳥。4~6月にかけて日本列島の干潟、入り江、海岸の岩場、川岸、中洲などに多数飛来する。そして樺太、シベリアで繁殖し、夏の終わりに日本列島に立ち寄って、南へ帰るのである。
詩人は頭痛に襲われ、硝子笛から通信を受け止めることは出来なかったが……。
# by nenemu8921 | 2006-12-24 01:12 | 鳥・動物 | Comments(0)
どっどど どどうど どどうど どどう、
青いくるみも吹きとばせ
すっぱいくゎりんもふきとばせ
どっどど どどうど どどうど どどう
            童話「風の又三郎」


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カリン(バラ科ボケ属)花櫚
広く庭園に植えられている落葉高木。花期は4~5月。果実は芳香があり、薬用。
最近では果実もスーパーなどで見かけ、庭木としても普及したが、賢治の時代はなじみがなかった。
昭和15年に公開された日活映画、島耕二監督の映画「風の又三郎」では、「甘いりんごも~、すっぱいりんごも~」と歌っていたように記憶している。
宮沢賢治という名も知らぬまま、小さな神社の境内で、この映画を妹と見た記憶がある。
昭和30年ごろだったと思う。小学校の1年生くらいのときだ。
# by nenemu8921 | 2006-12-21 01:25 | 植物 | Comments(7)

【41】 サラーブレッド

  《みんなサラーブレッドだ
   あゝいふ馬、誰行っても押へるにいがべが》
  《よつぽどなれたひとでないと》
古風なくらかけやまのした
おきなぐさの冠毛がそよぎ
鮮やかな青い樺の木のしたに
何匹かあつまる茶いろの馬
じつにすてきに光ってゐる
            詩 「白い鳥」

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サラブレッド(奇蹄目ウマ科)
競走馬の優良種。英国原産の牝馬にアラブ系の牡馬をさせて作りあげた。
賢治の時代は、生活のなかで、馬は身近な存在だった。
「馬も上等のハックニー」「息濃く熱いアングロアラヴ」など、農耕馬、輓馬、重輓馬、軍馬、種馬、乗馬、幻想的な神馬など、さまざまな馬が、賢治作品には登場する。
馬のいる風景は、潜在意識のなかのイーハトーブの記憶を呼び覚ます装置だ。
# by nenemu8921 | 2006-12-20 07:08 | 鳥・動物 | Comments(14)

【40】 めくらぶだう

その城あとのまん中に、小さな四っ角山があって、
上のやぶには、めくらぶだうの実が、虹のやうに熟れてゐました。
                         童話「めくらぶだうと虹」


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ノブドウ(ブドウ科ノブドウ属) 野葡萄
山地や丘陵地、野原や川原にごくふつうに生える落葉つる性木本。
メクラブドウとはノブドウの方言。盲人の目玉に似た実をつけるのでこう呼んだ。
四っ角山は花巻市城内にある花巻城二の丸鐘楼跡の通称。

賢治はこの美しい実を地上の虹と見立て、天上の虹と対照させている。

今年はいいメクラブドウに出会えなかった。そんな年は秋も冬もゆっくり来る。
これは古い画像から拾い出した。
# by nenemu8921 | 2006-12-16 01:38 | 植物 | Comments(2)

【39】 露

ほろびのほのほ湧きいでて
つちとひととを つゝめども
こはやすらけきくににして
ひかりのひとらみちみてり
ひかりにみてるあめつちは………

その十力の金剛石こそは露でした。
                  童話「十力の金剛石」

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 画像提供はyonoさん

王子たちが見出したものは、《十力の金剛石》、露であり、同時に森羅万象をかがやかせる原理そのものだったというのが、主題である。
# by nenemu8921 | 2006-12-14 23:47 | その他 | Comments(0)

【38】 はちすゞめ 3

はちすゞめが度々宝石に打たれて落ちそうになりながら、やはりせはしくせはしく飛びめぐって、
  ザッザザ、ザザッザ、ザザアザザザア、
  降らばふれふれひでりあめ
  ひかりの雲のたえぬまゝ。
と歌ひましたので、雨の音は一しほ高くなり、そこらは又一しきりかゞやきわたりました。   


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ユミハシハチドリ(ベネズエラ) 画像提供は谷英雄さん


それから、はちすゞめは、だんだんゆるやかに飛んで、
  ザッザザ、ザザァザ、ザザアザザザア、
  やまばやめやめ、ひでりあめ、
  そらは みがいた 土耳古(トルコ)玉
と歌ひますと、雨がぴたりとやみました。
                童話「十力の金剛石」


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トパーズハチドリ(ベネズエラ)  画像提供は谷英雄さん

ハチドリは、おそらく、自然界でまさにもっとも美わしいものだろう。
ハチドリについてさまざまと書かれたものを全部読んでいても、初めて見る生きたハチドリは、
あらゆる他の美しいものとその美しさをまったく異にしていて、新しい美の啓示のごとく心を打つ。 
                              W・H・ハドソン『ラ・プラタの博物学者』

賢治の時代、明治、大正期の子ども向けの科学読み物などにも、世界で一番小さな鳥、花の蜜を食べる鳥、宝石のように美しい鳥、南北アメリカにだけ生息する鳥という解説があちこちに見られ、いわば、当時の博物誌の目玉商品といった趣も感じられる。

ハチドリは毎秒約60回羽ばたき、蜂に似た唸りを出すことから、英名ではHumming-Birdという。賢治は詩「阿耨達池幻想曲」では蜂雀と書き、ハニーバードとルビを入れている。ハチドリという表記は見当たらない。

花の蜜を食べる小さな美しい鳥は賢治のお気に入りだった。ほかの作品でも、この「十力の金剛石」でもそうだが、はちすずめは、いわば聖地へ誘うものとして描かれている。
                                             『賢治
鳥類学』

# by nenemu8921 | 2006-12-13 23:44 | 鳥・動物 | Comments(2)
りんだうの花は刻まれた天河石(アマゾンストン」と、打ち劈かれた天河石で組み上がり、
その葉はなめらかな硅孔雀石(クリソコラ)で出来てゐました。
黄色な草穂はかゞやく猫目石(キャッツアイ)、
いちめんのうめばちさうの花びらはかすかな虹を含む乳色の蛋白石、
たうやくの葉は碧玉、そのつぼみは紫水晶(アメシスト)の美しいさきを持ってゐました。
そしてそれらのなかで一番立派なのは小さな野ばらの木でした。
野ばらの枝は茶色の琥珀や紫がかった霰石(アラゴナイト)でみがきあげられ、
その実はまっかなルビーでした。
                                       童話「十力の金剛石」


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リンドウ(リンドウ科リンドウ属)竜胆

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ウメバチソウ(ユキノシタ科ウメバチソウ属)梅鉢草

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センブリ(リンドウ科センブリ属)千振  画像提供はyonoさん
日当たりの良い草地に生える二年草。胃腸薬としてよく知られている。
全草を乾燥させ、煎じて飲むが、苦味が強く、千回振り出してもまだ苦味があることから
この名がついたという。
たうやく→トウヤクはセンブリの別名、俗名。もともとは乾燥させたものを当薬と呼んだ。 
# by nenemu8921 | 2006-12-13 10:54 | 植物 | Comments(0)

宮沢賢治の愛した鳥や植物


by nenemu8921