【38】 はちすゞめ 3

はちすゞめが度々宝石に打たれて落ちそうになりながら、やはりせはしくせはしく飛びめぐって、
  ザッザザ、ザザッザ、ザザアザザザア、
  降らばふれふれひでりあめ
  ひかりの雲のたえぬまゝ。
と歌ひましたので、雨の音は一しほ高くなり、そこらは又一しきりかゞやきわたりました。   


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ユミハシハチドリ(ベネズエラ) 画像提供は谷英雄さん


それから、はちすゞめは、だんだんゆるやかに飛んで、
  ザッザザ、ザザァザ、ザザアザザザア、
  やまばやめやめ、ひでりあめ、
  そらは みがいた 土耳古(トルコ)玉
と歌ひますと、雨がぴたりとやみました。
                童話「十力の金剛石」


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トパーズハチドリ(ベネズエラ)  画像提供は谷英雄さん

ハチドリは、おそらく、自然界でまさにもっとも美わしいものだろう。
ハチドリについてさまざまと書かれたものを全部読んでいても、初めて見る生きたハチドリは、
あらゆる他の美しいものとその美しさをまったく異にしていて、新しい美の啓示のごとく心を打つ。 
                              W・H・ハドソン『ラ・プラタの博物学者』

賢治の時代、明治、大正期の子ども向けの科学読み物などにも、世界で一番小さな鳥、花の蜜を食べる鳥、宝石のように美しい鳥、南北アメリカにだけ生息する鳥という解説があちこちに見られ、いわば、当時の博物誌の目玉商品といった趣も感じられる。

ハチドリは毎秒約60回羽ばたき、蜂に似た唸りを出すことから、英名ではHumming-Birdという。賢治は詩「阿耨達池幻想曲」では蜂雀と書き、ハニーバードとルビを入れている。ハチドリという表記は見当たらない。

花の蜜を食べる小さな美しい鳥は賢治のお気に入りだった。ほかの作品でも、この「十力の金剛石」でもそうだが、はちすずめは、いわば聖地へ誘うものとして描かれている。
                                             『賢治
鳥類学』

# by nenemu8921 | 2006-12-13 23:44 | 鳥・動物 | Comments(2)
りんだうの花は刻まれた天河石(アマゾンストン」と、打ち劈かれた天河石で組み上がり、
その葉はなめらかな硅孔雀石(クリソコラ)で出来てゐました。
黄色な草穂はかゞやく猫目石(キャッツアイ)、
いちめんのうめばちさうの花びらはかすかな虹を含む乳色の蛋白石、
たうやくの葉は碧玉、そのつぼみは紫水晶(アメシスト)の美しいさきを持ってゐました。
そしてそれらのなかで一番立派なのは小さな野ばらの木でした。
野ばらの枝は茶色の琥珀や紫がかった霰石(アラゴナイト)でみがきあげられ、
その実はまっかなルビーでした。
                                       童話「十力の金剛石」


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リンドウ(リンドウ科リンドウ属)竜胆

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ウメバチソウ(ユキノシタ科ウメバチソウ属)梅鉢草

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センブリ(リンドウ科センブリ属)千振  画像提供はyonoさん
日当たりの良い草地に生える二年草。胃腸薬としてよく知られている。
全草を乾燥させ、煎じて飲むが、苦味が強く、千回振り出してもまだ苦味があることから
この名がついたという。
たうやく→トウヤクはセンブリの別名、俗名。もともとは乾燥させたものを当薬と呼んだ。 
# by nenemu8921 | 2006-12-13 10:54 | 植物 | Comments(0)

【36】 はちすゞめ 2

はちすゞめが水の中の青い魚のやうに、
なめらかにぬれて光りながら、
二人の頭の上をせはしく飛びめぐって、
  ザッ、ザ、ザ、ザザァザ、ザザァザ、ザザァ、
  ふらばふれふれ、ひでりあめ、
  トパァス、サファイア、ダイヤモンド。
と歌ひました。
              童話「十力の金剛石」


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シロハラチビハチドリ(エクアドル)
画像提供は谷英雄さん

ハチドリ
ハチスズメの体は小さいため、飛行力が強く、高速を出し、小さなヘリコプターのように空中の一点に飛びながら静止して花の蜜を吸い、吸い終わればそのまま後退して、花から遠ざかる。
これはほかの鳥には真似のできないことである。
                                              『賢治鳥類学』
# by nenemu8921 | 2006-12-12 23:30 | 鳥・動物 | Comments(0)

【35】 蜂雀

するとおどろいたことは、王子たちの青い大きな帽子に飾ってあった
二羽の青びかりの蜂雀が、ブルルルブルッと飛んで、二人の前に降りました。
                                   童話「十力の金剛石」


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アオボウシモリハチドリ(コスタリカ)
画像提供は谷英雄さん

ハチドリ
ハチスズメはハチドリの別名で、アマツバメ目ハチドリ科の320種もあるハチドリの総称。
南北アメリカの特産で、その形態、色彩、分布もさまざまである。
多くの種は体重2~9グラムで、強い金属光沢をもち、美しい。
エメラルドハチドリ、ルビーハチドリ、トパーズハチドリなどと宝石にちなんだ名前も
少なくない。

野鳥写真家の谷英雄氏のご好意により多くを紹介したい。
# by nenemu8921 | 2006-12-12 18:05 | 鳥・動物 | Comments(2)

【34】 ぬすびとはぎ

「えゝ、王子さま。あなたのきものは草の実で一杯ですよ。」
そして王子の黒いびろうどの上着から、緑色のぬすびとはぎの実を一ひらづつとりました。
                                          童話「十力の金剛石」


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ヌスビトハギ(マメ科ヌスビトハギ属)盗人萩
山野に多い多年草。和名は半月形の豆果が盗人の忍び足の足跡に似ているからとも言うが、異説もある。
# by nenemu8921 | 2006-12-12 00:17 | 植物 | Comments(0)

【33】 サルトリイバラ

小藪のそばを通るとき、さるとりいばらが緑色の沢山のかぎを出して、
王子の着物をつかんで引き留めようとしました。
はなさうとしても仲々はなれませんでした。
王子は面倒臭くなったのでいきなり小藪をばらんと切ってしまひました。
                                  童話「十力の金剛石」
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サルトリイバラ(ユリ科シオデ属)猿捕茨
山地に生える落葉つる性木本。茎はかたく、
節ごとに屈折し、まばらにとげがある。
4~5月、散形花序に黄緑色の花を開くが目立たない。
果実はこのように美しい。
今年は出会えないかと思ったが、紅葉狩りに行って見つけた。

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# by nenemu8921 | 2006-12-11 16:36 | 植物 | Comments(0)

【32】 虹

「虹の脚もとにルビーの絵の具皿があるさうです。」

「おい、取りに行こうか。行こう。」

「そら虹だ。早く行ってルビーの皿を取らう。早くお出でよ。」

                          童話「十力の金剛石」


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童話「十力の金剛石」の世界は、宝石と蜂雀と花々のイメージであふれている。
王子が大臣の子どもとふたりで、森の奥へ、ルビーでできた《虹の絵の具皿》や金剛石(ダイヤモンド)を探しに行く物語。
賢治は「虹の絵の具皿」というタイトルに変えて、改作しようとしたメモが残されている。

イーハトーブに行くと、なぜか、よく虹に出会う。2002年、春、花巻市郊外で偶然に出会った光景、初めてのデジカメで撮影した。
# by nenemu8921 | 2006-12-11 00:42 | その他 | Comments(4)

【31】 かけす

「清夫さんもうお昼です。弁当おあがりなさい。おとしますよ。そら。」
と云ひながら青いどんぐりを一粒ぽたっと落として行きました。
                           童話「よく利く薬とえらい薬」


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画像提供はfieldnoteさん


カケス(カラス科)
カケスは美しい鳥だが、カラス科だけあって、声はジャージャーとやかましい。
留鳥だが、積雪期には暖地へ移動するものもある。
秋にはカケスがどんぐりをくわえて飛ぶ姿によく出会う。冬の食料保存のためである。
どんぐりは冬場、食料不足の折に掘り出して食べるが、忘れられたどんぐりは発芽して
立派な木に成長する。カケスは森の「木を植える人」でもあるのだ。
# by nenemu8921 | 2006-12-10 00:55 | 鳥・動物 | Comments(0)

【30】 よしきり 2

「おやおやおや、これは一体大きな皮の袋だらうか、
それともやっぱり人間だらうか、愕いたもんだねえ、愕いたもんだねえ、
びっくりびっくり。くりくりくりくりくり。」
                         童話「よく利く薬とえらい薬」


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画像提供は堀内洋助さん

コヨシキリ
賢治はオオヨシキリもコヨシキリも書き分けていない。賢治の時代はみなよしきりだった。

童話「よく利く薬とえらい薬」に登場するにせ金つかいの大三は、
体がまるで象のやうにふとって、お金を沢山持ってゐて、おれといふものもずいぶんえらいもんだと思って居たのでしたが、喰べすぎでちかごろ頭がぼんやりして、息がはあはあ云って困るというのです。
清夫くんが病気のお母さんのために採集したばらの実が、たいへんよく利いたというので、
野原に出かけてきたのでしたが……。このとおり、よしきりに皮の袋扱いされてしまいます。
でも、最近の日本人は、大三みたいな体型の人が増えてますね。いや考え方も大三のようにお金えさえあれば、何でもできると思っているふうです
気の毒な大三氏にはエルサレム・アーティチョーク(キクイモ)などをお勧めしたい。
清夫くんが採集したすきとほったばらの実も、最近ではローズ・ヒップティとして、ハーブショップでは人気商品だとか。
このさりげない童話は、宮沢賢治の先見性をよく伝えています。
しかし、なんといっても、このよしきりの鳴声は、古今東西の鳥の文学の中でも、最高傑作ですよね。
# by nenemu8921 | 2006-12-09 10:56 | 鳥・動物 | Comments(0)

【29】 よしきり

「清夫さん清夫さん、
    お薬、お薬お薬、取りですかい?
 清夫さん清夫さん、
    お母さん、お母さん、お母さんはどうですかい?
 清夫さん清夫さん、
    ばらの実ばらの実、ばらの実はまだありますかい?」
「いや、よしきり、お早う。」
              童話「よく利く薬とえらい薬」


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画像提供はfieldnoteさん

オオヨシキリ(ヒタキ科ウグイス亜科)
夏鳥として九州以北の海岸、河口、川岸、湖沼畔の広いアシ原に渡来する。ギョギョシ、ギョギョシ、ケケシ、ケケシ、チカチカなどと大声で、橙赤色の口の中を見せてさえずる。
よしきりの声を聞いたことがある人だったら、このせりふを読めば、誰だってうなずかずにいられないだろう。
鳥の声を言葉に置き換えて聞き取ることを聞きなしという。
ここでは、賢治は言葉(語感や音)ではなく、リズムでよしきりの声を捕らえようとしている。
彼は音楽的に鳥の声そのものを楽しんでいる。
その音楽を文字と言葉で再創造しているのだ。
# by nenemu8921 | 2006-12-08 19:47 | 鳥・動物 | Comments(0)

宮沢賢治の愛した鳥や植物


by nenemu8921