風はそらを吹き
そのなごりは草をふく
おきなぐさ冠毛の質直(しつぢき)
松とくるみは宙に立ち
   (どこのくるみの木にも
    いまみな金のあかごがぶらさがる)
ああ黒のしやつぽのかなしさ
おきなぐさのはなをのせれば
幾きれうかぶ光酸(くわうさん)の雲
              詩「おきなぐさ」


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オキナグサ(キンポウゲ科オキナグサ属)
最近はオキナグサの自生しているところが少なくなった。
カタクリは、あちこちで植生して、保護しているところが多いけれども。
これは市内の万葉植物園でわずかに残った株。
質直は、仏教語で素直なことの意。
賢治はオキナグサがたいそうお気に入りだったらしく、童話「おきなぐさ」は、この野の花への賛歌である。
うずのしゅげという名はこんな時期に出会うとなるほどと思う。

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画像提供はyonoさん

オニクルミ(クルミ科クルミ属)
山野の川沿いにごく普通に生える落葉高木。
オキナグサが冠毛にかわる季節に、クルミは雄花をこのようにぶらさげる。
どこのくるみの木にもいま金のあかごがぶらさがるとは、こんな光景だろうか。
賢治はすばらしいものには金の、黄金のといった形容詞を付けることが少なくない。
# by nenemu8921 | 2007-04-13 10:25 | 植物 | Comments(6)
湧水(みづ)を呑まうとして
犬の毛皮の手袋などを泥に落し
あわててぴちゃぴちゃ
きれいなcressの波で洗ったりするものだから
きせるをくはえたり
日光に当ったりしてゐる
小屋葺替への村人たちが嗤ふのだ
          詩〔湧水(みづ)を呑まうとして〕


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オランダガラシ(アブラナ科オランダガラシ属)和蘭芥子
cressはwatercress(英)で、クレソン,オランダガラシのこと。
明治の初期に渡来した帰化植物。若い葉には特有の辛みがあって食用とされ、ステーキの付け合せとしてなじみ深い。
はじめ外国人用に栽培されていたものが野生化し各地に広まった。
清流の水辺などに群生する多年草。
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スジグロシロチョウだろうか。蝶や昆虫はよくわからないので間違っていたらご教示願いたい。
今日はあたたかく、風もなかったので郊外まで出かけた。
谷地にはクレソンの群落が広がっていた。

宮沢賢治の詩は、その多くがこの作品のように、野外を歩き、出会った事物のスケッチと心象との二重奏である。
フィールドワークしていると、作品世界が身近に感じられてくる。
葺替(ふきかえ)は、茅、藁、板などで、屋根をふきかえること。
# by nenemu8921 | 2007-04-12 20:50 | 植物 | Comments(8)

【105】 しゃが

しやが咲きて
きりさめ降りて
旅人は
かうもりがさの柄をかなしめり
         歌稿〔B〕186


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シャガ(アヤメ科アヤメ属)射干
人里近くの林下に群生する多年草。古い時代に中国から渡来したといわれている。

シャガの咲く風景は霧雨がよく似合う。
咲き、降りと、動詞につなげた接続助詞を繰り返して使用し、時間がたゆたうような浮遊感を感じさせる。
旅人の背景は明かされまま、かうもりがさという小道具が寂寥感をにじませ、美しい句にまとまっている。
# by nenemu8921 | 2007-04-11 00:32 | 植物 | Comments(2)
けだし音楽を図形に直すことは自由であるし、おれはそこへ花で BeethovenのFatasyを描くこともできる。さう考へた。
 (略)

(どんな花を植えるのですか。)
(来春はムスカリとチュウリップです。)
                 短編「花壇工作」


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ムスカリ(ユリ科ムスカリ属)
ヨーロッパ原産。ブドウの房のようだというので、グレープヒヤシンスの別名もある。
ムスカリやチューリップで描いたベートーベンのファンタジーとはどんなものだったろう。

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チューリップ(ユリ科チューリップ属)
花の名前を知らないという男の人でも、チューリップだけは知っている。
だが、賢治の時代、地方都市では珍しい花だった。
最近では、さまざまな園芸種が生まれて、春の花壇の主役といったふうだ。
かつて鬱金香(うこんこう)とも呼ばれ、賢治の他の作品では、その名で登場するが、賢治の筆にかかると、どこか懐かしいレトロなムードで迫ってくるから不思議だ。
# by nenemu8921 | 2007-04-10 15:14 | 植物 | Comments(4)
おれは設計図なぞ持って行かなかった。 (略)
 それにおれはおれの創造力に充分な自信があった。けだし音楽を図形に直すことは自由であるし、おれはそこへ花で BeethovenのFatasyを描くこともできる。さう考へた。
 (略)
 そのとき窓に院長が立ってゐた。云った。
 
(どんな花を植えるのですか。)
(来春はムスカリとチュウリップです。)
(夏は)
(さうですな、まんなかをカンナとコキア、観葉種です、それから花甘藍と、あとはキャンデタフトのライラックと白で模様をとったりいろいろします。)
 
 院長はたうたうこらえ兼ねて靴をはいて下りて来た。
(略)
 
だめだだめだ。これではどこにも音楽がない。(略)
 おれはこの愉快な創造の数時間をめちゃめちゃに壊した窓のたくさんの顔をできるだけ強い表情でにらみまはした。ところが誰もおれを見てゐなかった。次におれはその憐れむべき弱い精神の学士を見た。それからあんまり過鋭な感応体おれを撲ってやりたいと思った。
                                 短編「花壇工作」

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キャンデイタフト(アブラナ科イベリス属) 
マガリバナ、トキワナズナなど和名はいろいろあるが、最近の園芸店ではイベリスという名で販売されていることが多い。キャンディタフトは英名で、砂糖菓子の盛り上がった様子からのネーミングという。
賢治の植物としては、私の「下ノ畑」に早くから導入した園芸植物。毎年、4月頃から花を咲かせ、花期も長く、楽しませてくれる。丈夫で手がかからない。

短編「花壇工作」は、賢治が花巻共立病院から花壇の設計を依頼された時の体験を交えた作品。
院長と、過鋭な感応体のおれとの心理劇が面白いのだが、解説は次回に。


nenemuのつぶやき
低迷気味の日々が続き、気分転換にスキンを変えました。
近ごろ、遅ればせに、写真のことが少しわかり始めたら、これまでの写真がどれも気に入らず、画像をアップできなくなりました。(;>_<;)
ふーむ、ここで写真道に専念できれば、ささやかでも1歩の前進があるのでしょうが、雑用をかかえて、そうもならず……。
やれやれ、楽しい気分を取り戻して、どうにか続けたい。
# by nenemu8921 | 2007-04-09 19:06 | 植物 | Comments(4)

【102】 あけび

心象のはひいろはがねから
あけびのつるはくもにからまり
のばらのやぶや腐植の湿地
いちめんのいちめんの諂曲(てんごく)模様
(正午の管楽よりもしげく
 琥珀のかけらがそそぐとき)
いかりのにがさまた青さ
四月の気層のひかりの底を
唾し はぎしりゆききする
おれはひとりの修羅なのだ
           詩「春と修羅」


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アケビ(アケビ科オケビ属)木通
山野に生えるつる性の落葉木本。
4~5月、総状花序を出して淡紫色の花を開く。
雌雄同株。果実は長さ6センチの楕円形で熟すると裂ける。

アケビの蔓はこうして見ると、たしかにスゴイ。
諂曲(てんごく)は、自分の意思をまげてこびへつらうこと。
自己の心象をアケビの蔓やノバラのやぶにイメージした表現だ。
宮沢賢治って、自分を怒りの人、修羅の人として定義しているのですね。
これって、多くの人が宮沢賢治に抱くイメージとはラグがあるのではないでしょうか?

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花はなかなか可憐ですが、賢治は花には言及していません。
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こちらが雄花でしょうか。
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こちらは昨年10月10日にスーパーで購入したアケビの実。
むしゃぶりつこうとしたときにハッと気づいて、カメラを持ち出しパチリとしたもの。
甘いのですよ。紫の美しい皮はミンチを詰めてフライにすると美味!!
このことは賢治さんも知らなかったと思います。
# by nenemu8921 | 2007-04-04 00:38 | 植物 | Comments(6)

【101】 ヤマガラ

たったいままで教室にゐたあの変な子が影もかたちもないのです。
みんなもまるでせっかく友達になった子うまが遠くへやられたやう、
せっかく捕った山雀に遁げられたやうに思ひました。
                             童話「風の又三郎」


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ヤマガラ(スズメ目シジュウカラ科)山雀
ほぼ全国的に留鳥として分布する。

風の神の子っ子が転校してくる世界では、子ども達にとっての遊び友達は、子うまであり、
ヤマガラだったようだ。
かつてヤマガラは飼育しやすく、またよく慣れたので、素朴に飼い鳥として好まれた。
# by nenemu8921 | 2007-04-03 10:28 | 鳥・動物 | Comments(4)

【100】 サクラ

向ふも春のお勤めなので
すっきり青くやってくる
町ぜんたいにかけわたす
大きな虹をうしろにしょって
急いでゐるのもむじゃきだし
鷺のかたちにちぢれた雲の
そのまっ下をやってくるのもかあいさう
   (Bonan Tagon, Sinjoyo!)
   (Bonan Tagon, Sinjoyo!)
桜の花が日に照ると
どこか蛙の卵のやうだ
           詩〔向ふも春のお勤めなので〕


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ソメイヨシノ(バラ科サクラ属)染井吉野
オオシマザクラとエドヒガンの雑種とかんがえられ、江戸染井村(東京都豊島区)で、
江戸末期の頃に知られたという。

日本人は誰でもサクラが好きだ。
けれども、賢治の見方は独特だ。
でも、満開のこの花を少し離れて見つめると、たしかに蛙の卵のように見えてくるから不思議である。
(Bonan Tagon, Sinjoyo!)は、エスペラント語で「だんなさん、こんにちわ」の意。


桜の花が蛙の卵のように見える季節は、木々がいっせいに芽吹き、本当に春がすっきり青くやってくる季節だ!!
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エノキ
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トネリコ
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カツラ
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キブシ
# by nenemu8921 | 2007-04-02 09:37 | 植物 | Comments(4)

【99】 ライラック

今夜市庁のホールでうたふマリヴロン女史が、ライラック色のもすそをひいてみんなをのがれて来たのである。
                                        童話「マリヴロンと少女」


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ライラック(モクセイ科ハシドイ属)
別名リラ。ムラサキハシドイ。美しい花とその芳香が愛され、庭木などで親しまれている落葉小高木。ちなみにハシドイとは、木の枝先に花が集まって咲くことから「ハシツドイ=端集い」と言われていたものが、つまったものという。
原産地は東ヨーロッパ。日本に入ってきたのは明治半ば。花色は白もある。

「めくらぶだうと虹」に手入れした作品。
めくらぶだうが少女ギルダに、虹が声楽家マリヴロンに置き換えられている。
賢治が中学生のときの英語の教科書に、フランスのオペラ歌手マリー・マリブラン(1806~1838)のエピソードが載っていたという。
# by nenemu8921 | 2007-03-31 22:27 | 植物 | Comments(4)

【98】 雪柳

その水際園に
なぜわたくしは枝垂れの雪柳を植えるか
十三歳の聖女テレジアが
水いろの上着を着羊歯の花をたくさんもって
小さな円い唇でうたひながら
そこからこっちへでてくるために
わたくしはそこに雪柳を植える
          「装景手記」ノート


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ユキヤナギ(バラ科シモツケ属)雪柳
各地の川沿いの岩上などに生える落葉低木。庭木としても親しまれている。

聖女テレジアはフランスの修道女(1873~1897)。
彼女の書いた自叙伝は世界的なロングベストセラーとなり、日本では1911(明治44)年に『小さき花 聖女ちいさきテレジアの自叙伝』として刊行され、広く感動をよんだという。
ユキナヤギの白い小さな花はテレジアへささげる花としていかにもふさわしい。

追記
知人から画像をお送りいただいたので、感謝とともに、ご紹介いたします。
短編「花壇工作」にも聖女テレジアは登場します。賢治は修道女と若い看護婦と重ねてイメージしたようです。
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画像提供は壺中人さんです。
# by nenemu8921 | 2007-03-30 09:40 | 植物 | Comments(0)

宮沢賢治の愛した鳥や植物


by nenemu8921