【43】 硝子笛を吹いて

空があんまり光ればかへつてがらんと暗くみえ
いまするどい羽をした三羽の鳥が飛んでくる
あんなにかなしく啼きだした
なにかしらせをもつてきたのか
わたくしの片つ方のあたまは痛く
遠くなつた栄浜の屋根はひらめき
鳥はただ一羽硝子笛を吹いて
玉髄の雲に漂つていく
                  詩「オホーツク挽歌」

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キアシシギ(チドリ目シギ科》黄足鴫
大正12年8月4日、樺太の栄浜海岸である。浜辺に腰を下ろして海を見つめ、空を見つめ、逝ってしまった妹からのしらせを待つ詩人のもとに訪れた三羽の鳥は何か
するどい羽、かなしい啼き声、硝子笛を吹くようにひびくその啼き声……。
三羽であることから、カモメやアジサシではなく、シギではないかと思われる。
キアシシギは飛翔時、広げた羽はシャープで、その声はピューイ、ピューイと本当に硝子笛のように響く。
旅鳥。4~6月にかけて日本列島の干潟、入り江、海岸の岩場、川岸、中洲などに多数飛来する。そして樺太、シベリアで繁殖し、夏の終わりに日本列島に立ち寄って、南へ帰るのである。
詩人は頭痛に襲われ、硝子笛から通信を受け止めることは出来なかったが……。
# by nenemu8921 | 2006-12-24 01:12 | 鳥・動物 | Comments(0)
どっどど どどうど どどうど どどう、
青いくるみも吹きとばせ
すっぱいくゎりんもふきとばせ
どっどど どどうど どどうど どどう
            童話「風の又三郎」


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カリン(バラ科ボケ属)花櫚
広く庭園に植えられている落葉高木。花期は4~5月。果実は芳香があり、薬用。
最近では果実もスーパーなどで見かけ、庭木としても普及したが、賢治の時代はなじみがなかった。
昭和15年に公開された日活映画、島耕二監督の映画「風の又三郎」では、「甘いりんごも~、すっぱいりんごも~」と歌っていたように記憶している。
宮沢賢治という名も知らぬまま、小さな神社の境内で、この映画を妹と見た記憶がある。
昭和30年ごろだったと思う。小学校の1年生くらいのときだ。
# by nenemu8921 | 2006-12-21 01:25 | 植物 | Comments(7)

【41】 サラーブレッド

  《みんなサラーブレッドだ
   あゝいふ馬、誰行っても押へるにいがべが》
  《よつぽどなれたひとでないと》
古風なくらかけやまのした
おきなぐさの冠毛がそよぎ
鮮やかな青い樺の木のしたに
何匹かあつまる茶いろの馬
じつにすてきに光ってゐる
            詩 「白い鳥」

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サラブレッド(奇蹄目ウマ科)
競走馬の優良種。英国原産の牝馬にアラブ系の牡馬をさせて作りあげた。
賢治の時代は、生活のなかで、馬は身近な存在だった。
「馬も上等のハックニー」「息濃く熱いアングロアラヴ」など、農耕馬、輓馬、重輓馬、軍馬、種馬、乗馬、幻想的な神馬など、さまざまな馬が、賢治作品には登場する。
馬のいる風景は、潜在意識のなかのイーハトーブの記憶を呼び覚ます装置だ。
# by nenemu8921 | 2006-12-20 07:08 | 鳥・動物 | Comments(14)

【40】 めくらぶだう

その城あとのまん中に、小さな四っ角山があって、
上のやぶには、めくらぶだうの実が、虹のやうに熟れてゐました。
                         童話「めくらぶだうと虹」


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ノブドウ(ブドウ科ノブドウ属) 野葡萄
山地や丘陵地、野原や川原にごくふつうに生える落葉つる性木本。
メクラブドウとはノブドウの方言。盲人の目玉に似た実をつけるのでこう呼んだ。
四っ角山は花巻市城内にある花巻城二の丸鐘楼跡の通称。

賢治はこの美しい実を地上の虹と見立て、天上の虹と対照させている。

今年はいいメクラブドウに出会えなかった。そんな年は秋も冬もゆっくり来る。
これは古い画像から拾い出した。
# by nenemu8921 | 2006-12-16 01:38 | 植物 | Comments(2)

【39】 露

ほろびのほのほ湧きいでて
つちとひととを つゝめども
こはやすらけきくににして
ひかりのひとらみちみてり
ひかりにみてるあめつちは………

その十力の金剛石こそは露でした。
                  童話「十力の金剛石」

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 画像提供はyonoさん

王子たちが見出したものは、《十力の金剛石》、露であり、同時に森羅万象をかがやかせる原理そのものだったというのが、主題である。
# by nenemu8921 | 2006-12-14 23:47 | その他 | Comments(0)

【38】 はちすゞめ 3

はちすゞめが度々宝石に打たれて落ちそうになりながら、やはりせはしくせはしく飛びめぐって、
  ザッザザ、ザザッザ、ザザアザザザア、
  降らばふれふれひでりあめ
  ひかりの雲のたえぬまゝ。
と歌ひましたので、雨の音は一しほ高くなり、そこらは又一しきりかゞやきわたりました。   


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ユミハシハチドリ(ベネズエラ) 画像提供は谷英雄さん


それから、はちすゞめは、だんだんゆるやかに飛んで、
  ザッザザ、ザザァザ、ザザアザザザア、
  やまばやめやめ、ひでりあめ、
  そらは みがいた 土耳古(トルコ)玉
と歌ひますと、雨がぴたりとやみました。
                童話「十力の金剛石」


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トパーズハチドリ(ベネズエラ)  画像提供は谷英雄さん

ハチドリは、おそらく、自然界でまさにもっとも美わしいものだろう。
ハチドリについてさまざまと書かれたものを全部読んでいても、初めて見る生きたハチドリは、
あらゆる他の美しいものとその美しさをまったく異にしていて、新しい美の啓示のごとく心を打つ。 
                              W・H・ハドソン『ラ・プラタの博物学者』

賢治の時代、明治、大正期の子ども向けの科学読み物などにも、世界で一番小さな鳥、花の蜜を食べる鳥、宝石のように美しい鳥、南北アメリカにだけ生息する鳥という解説があちこちに見られ、いわば、当時の博物誌の目玉商品といった趣も感じられる。

ハチドリは毎秒約60回羽ばたき、蜂に似た唸りを出すことから、英名ではHumming-Birdという。賢治は詩「阿耨達池幻想曲」では蜂雀と書き、ハニーバードとルビを入れている。ハチドリという表記は見当たらない。

花の蜜を食べる小さな美しい鳥は賢治のお気に入りだった。ほかの作品でも、この「十力の金剛石」でもそうだが、はちすずめは、いわば聖地へ誘うものとして描かれている。
                                             『賢治
鳥類学』

# by nenemu8921 | 2006-12-13 23:44 | 鳥・動物 | Comments(2)
りんだうの花は刻まれた天河石(アマゾンストン」と、打ち劈かれた天河石で組み上がり、
その葉はなめらかな硅孔雀石(クリソコラ)で出来てゐました。
黄色な草穂はかゞやく猫目石(キャッツアイ)、
いちめんのうめばちさうの花びらはかすかな虹を含む乳色の蛋白石、
たうやくの葉は碧玉、そのつぼみは紫水晶(アメシスト)の美しいさきを持ってゐました。
そしてそれらのなかで一番立派なのは小さな野ばらの木でした。
野ばらの枝は茶色の琥珀や紫がかった霰石(アラゴナイト)でみがきあげられ、
その実はまっかなルビーでした。
                                       童話「十力の金剛石」


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リンドウ(リンドウ科リンドウ属)竜胆

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ウメバチソウ(ユキノシタ科ウメバチソウ属)梅鉢草

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センブリ(リンドウ科センブリ属)千振  画像提供はyonoさん
日当たりの良い草地に生える二年草。胃腸薬としてよく知られている。
全草を乾燥させ、煎じて飲むが、苦味が強く、千回振り出してもまだ苦味があることから
この名がついたという。
たうやく→トウヤクはセンブリの別名、俗名。もともとは乾燥させたものを当薬と呼んだ。 
# by nenemu8921 | 2006-12-13 10:54 | 植物 | Comments(0)

【36】 はちすゞめ 2

はちすゞめが水の中の青い魚のやうに、
なめらかにぬれて光りながら、
二人の頭の上をせはしく飛びめぐって、
  ザッ、ザ、ザ、ザザァザ、ザザァザ、ザザァ、
  ふらばふれふれ、ひでりあめ、
  トパァス、サファイア、ダイヤモンド。
と歌ひました。
              童話「十力の金剛石」


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シロハラチビハチドリ(エクアドル)
画像提供は谷英雄さん

ハチドリ
ハチスズメの体は小さいため、飛行力が強く、高速を出し、小さなヘリコプターのように空中の一点に飛びながら静止して花の蜜を吸い、吸い終わればそのまま後退して、花から遠ざかる。
これはほかの鳥には真似のできないことである。
                                              『賢治鳥類学』
# by nenemu8921 | 2006-12-12 23:30 | 鳥・動物 | Comments(0)

【35】 蜂雀

するとおどろいたことは、王子たちの青い大きな帽子に飾ってあった
二羽の青びかりの蜂雀が、ブルルルブルッと飛んで、二人の前に降りました。
                                   童話「十力の金剛石」


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アオボウシモリハチドリ(コスタリカ)
画像提供は谷英雄さん

ハチドリ
ハチスズメはハチドリの別名で、アマツバメ目ハチドリ科の320種もあるハチドリの総称。
南北アメリカの特産で、その形態、色彩、分布もさまざまである。
多くの種は体重2~9グラムで、強い金属光沢をもち、美しい。
エメラルドハチドリ、ルビーハチドリ、トパーズハチドリなどと宝石にちなんだ名前も
少なくない。

野鳥写真家の谷英雄氏のご好意により多くを紹介したい。
# by nenemu8921 | 2006-12-12 18:05 | 鳥・動物 | Comments(2)

【34】 ぬすびとはぎ

「えゝ、王子さま。あなたのきものは草の実で一杯ですよ。」
そして王子の黒いびろうどの上着から、緑色のぬすびとはぎの実を一ひらづつとりました。
                                          童話「十力の金剛石」


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ヌスビトハギ(マメ科ヌスビトハギ属)盗人萩
山野に多い多年草。和名は半月形の豆果が盗人の忍び足の足跡に似ているからとも言うが、異説もある。
# by nenemu8921 | 2006-12-12 00:17 | 植物 | Comments(0)

宮沢賢治の愛した鳥や植物


by nenemu8921