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イソシギ

谷津でイソシギにも出会った。岩場を単独で歩いていた。

五匹のちひさないそしぎが
海の巻いてくるときは
よちよちとはせて遁げ
(ナモサダルマプフンダリカサスートラ)
浪がたひらにひくときは
砂の鏡のうへを
よちよちとはせてでる
             詩「オホーツク挽歌


『定本宮沢賢治語彙事典』を広げて、唖然とした。
いそしぎの項目に下記のような解説がある。
「いそしぎ【動】磯鴫。チドリ目シギ科の小鳥。河川や湖畔、磯辺に渡来するところからその名がある。
翼長11cmほどで体色は黄褐色、黒い斑点があり、腹部は白い。長いくちばしでピィーピィーツィーツィーと
細く高く鳴く。詩〔オホーツク挽歌〕に「五匹のちい(ひ)さないそしぎが/海の巻いてくるときは/よちよちと
はせて逃げ」とある。
翼長11cmとあるが、普通は全長 (嘴の先から尾の先までの長さ。Lで表す) を基準にする。
イソシギの全長は20cmである。

これは詩の解釈としては、間違いである。

野鳥図鑑 (どこの図鑑だろう、イソシギの解説としても十分ではない) の「標準和名イソシギ」の解説を安易に当てているが、ここで賢治が描いているのは「標準和名イソシギ」ではない。磯べのシギという意味であろう。
なぜなら、「標準和名のイソシギ」は群れることはなく、磯の岩場などで単独で行動することが多い。
浜辺で波を追いかける行動もとらない。

この画像が「標準和名のイソシギ」である。
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賢治が見た「ちひさないそしぎ」は
「海の巻いてくるときは/よちよちとはせて遁げ/浪がたひらにひくときは/砂の鏡のうへを/
よちよちとはせてでる」とある。
この習性はミユビシギという鳥の生態にぴったりとあてはまる。


ミユビシギは、波間を飛ぶハマトビムシを追いかけて食べるので、傍目にはよちよちとはせて遁げ、はせて出るように見える。
『フィールドガイド日本の野鳥』(日本野鳥の会発行)では、
「ミユビシギは旅鳥、冬鳥として砂浜に渡来し、波打ち際で波の進退とともに動いて餌をとる。時には干潟や入り江にも来る。全長19cm。嘴は短い。夏羽では頭上、顔、くび、胸、背が赤褐色で黒い斑点があり、額と喉は白く、肩羽の軸班は黒くて赤褐色と白の羽縁がある。冬羽では上面灰白色で翼角の部分が黒く見え、下面は白く、小形シギ類の中では全体にもっとも白っぽく見える。クリーッと鳴く。」とある。
日本では、冬羽で見かけることが多いが、夏のオホーツクの浜辺では夏羽の可能性が強い。

こちらがミユビシギの画像である
以前、この作品とともに紹介した。これは2011年の12月に船橋市の三番瀬で撮影したものである。

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クリックしてご覧ください。

文学は科学書でも図鑑でもないが、言葉には実態がある。
いそしぎという名前だけででなく、その描写を読み解くことが作品に迫ることではないだろうか。
小さな鳥が波の進退とともに繰り返すしぐさは、詩人の心の動きと連動して読むことが可能である。
標準和名イソシギは歩くときは尾を上下に振り、けいれんするように翼を動かして低く飛ぶ。
そうしたイメージは、この作品世界に全くそぐわない。

既にこのことは中谷俊雄が「間違いの多い新宮沢賢治語彙事典」(Annual vol10)で指摘している。
『賢治鳥類学』(新曜社)でも明記している。
版を改めた際、何故、きちんと確認し、訂正していないのだろうか。
しかも、定本とは恐れ入った! 
by nenemu8921 | 2014-04-30 09:50 | 鳥・動物 | Comments(2)
五匹のちひさないそしぎが
海の巻いてくるときは
よちよちとはせて遁げ
  (ナモサダルマプフンダリカサスートラ)
浪がたひらにひくときは
砂の鏡のうへを
よちよちとはせてでる
         詩「オホーツク挽歌」


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ミユビシギ(チドリ目シギ科)三趾鴫
〈ちひさないそしぎ〉は、標準和名のイソシギのことではなく、小さな磯のシギという意味である。
ミユビシギは波打ち際を数羽から数十羽の群れで、チョコチョコと小走りに行き来して採食する。
賢治の表現は、鳥の習性を的確に美しく捉えている。バードウォッチャーが読めば、すぐにこのミユビシギを思い浮かべることだろう。
ミユビシギは、日本列島では旅鳥だが、樺太のツンドラで短い繁殖期に連続して二つの巣をつくる「複式営巣」を行うという。
画像は九十九里海岸でぐうぜん出遭った光景だが、挽歌のステージを喚起させた。

〈ナモサダルマプフンダリカサスートラ〉は、南無妙法蓮華経のサンスクリット読み。
妹からの通信は来ない。なんというあるがままの自然だろう。
鳥の姿を見て、思わず唱えたお題目である。

イソシギ
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画像提供はfieldnoteさん

イソシギ〈チドリ目シギ科〉
イソシギは海岸の岩場、防波堤などでよく出会う。単独でいることが多い。
歩くときは尾を上下に振り、けいれんするように翼を動かして低く飛ぶ。
「宮沢賢治語彙辞典」では、このイソシギとして解説しているが明らかな間違いである。


白鳥湖
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この「オホーツク挽歌」の舞台、栄浜の北には、白鳥湖と呼ばれる美しい沼地が広がっていた。ツンドラ地帯である。
賢治がそこまで脚を伸ばしたかどうかは不明である。
by nenemu8921 | 2006-12-25 01:12 | 鳥・動物 | Comments(0)

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by nenemu8921