【119】 紫雲英(ハナコ)→レンゲソウ
2007年 04月 25日
みんなは酒を飲んでゐる
……土橋は曇りの午前にできて
いまうら青い榾のけむりは
稲いちめんに這ひかゝり
そのせきぶちの杉や楢には
雨がどしゃどしゃ注いでゐる……
みんなは地主や賦役に出ない人たちから
集めた酒を飲んでゐる
……われにもあらず
ぼんやり稲の種類を云ふ
こゝは天山北路であるか……
さっき十ぺん
あの赤砂利をかつがせられた
顔のむくんだ弱さうな子が
みんなのうしろの板の間で
座って素麺(むぎ)をたべてゐる
(紫雲英(ハナコ)植れば米とれるてが
藁ばりとったて間に合ぁなぢゃ)
こどもはむぎを食ふのをやめて
ちらっとこっちをぬすみみる
詩「饗宴」
レンゲソウ(マメ科ゲンゲ属)蓮華草
中国原産の2年草。根に根粒菌がついて空気中の窒素を固定できるため、もともとは緑肥として利用されてきた。これが水田地帯を中心に野生化したもの。
別名ゲンゲ。紫雲英(しうんえい)は、レンゲソウの漢名。花巻地方では、方言か、俗名か、ハナコと呼ぶことが多かった。
部落の共同作業、土橋つくりのあとのご苦労さん会の饗宴である。
宮沢賢治はこの時期、羅須地人協会活動を本格的に始めた時期であった。
慣れない労働に疲れ、ぼんやりしている詩人の耳に「れんげを田に植えたら米がたくさん獲れるって?藁ばかり獲れたって間に合わないさ」と誰かの声が響く。
下書稿をよむと、賢治自身が子どもと同じように疲れ、半人前の仕事しかできない自身への無力感、屈辱感がにじんでいる。
オキナグサ、ありがとうございました。(*^-^)ニコ