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ムクドリ←賢治のもず

上を見ろ
石を投げろ
まっ白なそらいっぱいに
もずが矢ばねを叩いて行く
             詩「黄いろな花もさき」

停車場の方で、鋭い笛がピーと鳴りました。もずはみな、一ぺんに飛び立って、気違ひになったばらばらの楽譜のやうに、やかましく鳴きながら、東の方へ飛んで行きました。。
                                        童話「めくらぶだうと虹」
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画像提供はnamiheiさんです

もずが、まるで千疋ばかりも飛びたって、野原をずうっと向ふへかけて行くやうに見えましたが、今度も又、俄かに一本の楊の木に落ちてしまひました。
                                         童話「鳥をとるやなぎ」

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画像提供はfieldnoteさん

ムクドリ(スズメ目ムクドリ科)
九州以北で繁殖する。留鳥として村落付近や市街地に多く、芝生、耕地等を歩いて昆虫等をとり、樹上で木の実も食べる。夏から春には群れをつくり、電線、大木、鉄塔などに並んでとまる。ねぐらでは何万羽という大群になる。

賢治作品に登場する「もず」はみなムクドリである。標準和名もずは単独鳥で、縄張りを持ち、群れで生活することはない。当時の地方名でムクドリをもずと呼んでいたのである。
ムクドリの方言は実にたくさんあり、地方によってさまざまだった。モズ、モンズ、クソモズ、デロモズ、サクラモズ、ツグミ、ウマジラミ、モク、モクドリ、ナンブスズメ、ツガルスズメ、エチゴスズメ、ヤマスズメなど、仁部富之助は東北のムクドリの方言を採集している。
生態の描写を見れば、明らかである。
鳥の名前が標準和名で統一されたのちも、現代のようにムクドリがムクドリとして多くの人に認識されるようになったのは、テレビや出版物の普及によってビジュアルな情報があふれるようになってからだ。賢治の時代には性能のいい双眼鏡も入手しにくかったし、ハンディな野鳥図鑑もなかった。野外をよく歩いて詩作をした賢治にとっても、ムクドリは土地の人が呼ぶ「もず」だったのである。
宮沢賢治のモズはムクドリであることを最初に指摘したのは中谷俊雄だった。(「野鳥」1982.12月号)
童話「鳥をとるやなぎ」では、鳥をすいこむエレキの木があるというので、少年が友人の藤原慶次郎と放課後に、煙山にエレキの楊の木を探しに行く物語だ。
楊(ヤナギ)の大木にムクドリが群れて、ねぐら入りする光景が目に浮かぶ。その情景に出会った少年の不思議を感じる感覚が文学の母体だ。
郊外の竹やぶや森が開発されて、最近では駅前のケヤキ並み木や商店街の街路樹などにムクドリが群れて、フン公害や騒音などで話題になる。
野鳥にとっても、詩人にとっても、ツマラナイ時代でもある。

標準和名のモズは賢治作品には登場しないが、紹介しておきたい。
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画像提供は船橋の猛禽大好きさん

モズ(スズメ目モズ科)百舌
九州以北で繁殖」する。北部日本のものは秋に暖地に移動する。秋から早春には低地の村落付近の林、低木のある川原や農耕地、公園、広い庭等に単独ですむ。秋には枯れ枝や電線の上で高鳴きをし、2羽の百舌の縄張り争いをする姿も見かける。尾をゆっくりと回すように動かして枝や電線に止まり、地上に獲物を見つけると飛び降りて嘴で捕らえ、またもとの枝に戻って食べる。捕らえた獲物を小枝やとげに刺す習性があり、これを「百舌のはやにえ」という。
Commented by namiheiii at 2007-06-09 22:45
ムクドリが戸袋に巣を作って雨戸を閉められなくなったことがありました。
詩人であるが科学者でもある賢治は何故ムクドリを敢えてモズと言ったのでしょうね。
Commented by nenemu8921 at 2007-06-11 09:56
namihei先生。ご無沙汰しました。
解説をお読みいただければ、ご理解いただけるかと思いますが、賢治の時代、賢治の生活する地方ではムクドリはモズだったということです。
あえて、モズと言ったのではなく、ムクドリはモズだったのです。
方言には方言の命があると思います。
by nenemu8921 | 2007-06-04 23:57 | 鳥・動物 | Comments(2)

宮沢賢治の愛した鳥や植物


by nenemu8921