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グラジオラス

一九二五、 十一月十日。
 今日実習が済んでから農舎の前に立ってグラジオラスの球根の旱(ほ)してあるのを見てゐたら、武田先生も鶏小屋の消毒だか済んで、硫黄華(いおうか)をずぼんへいっぱいつけて来られた。
そしてやっぱり球根を見てゐられたが、そこから大きなのを三つばかり取って僕に呉れた。
僕がもぢもぢしてゐると、これは新しい高価(高)い種類だよ。君にだけやるから来春植えてみたまへと云った。(略)
                                         「或る農学生の日誌」


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グラジオラス(アヤメ科グラジオラス属)
アフリカや地中海沿岸などを原産地とする園芸植物。春に球根(球茎)を植え、夏に赤、黄、白などの花を開花する。葉(一説には花が咲く前の一連のつぼみ)が剣のようなのでGladius(ラテン語で「剣」)にちなんで名づけられた。別名、トウショウブ(唐菖蒲)、オランダショウブ(阿蘭陀菖蒲)。

最近宮沢賢治とグラジオラスをめぐって興味ふかいエピソードが紹介されている。
「森のミュージアム・賢治とモリスの館」さんに拠れば、
花巻市桜町の「賢治詩碑」、つまり羅須地人協会の跡地に隣接する協会メンバー故伊藤克己氏宅(現在、伊藤明治宅)で、協会メンバー2世(妻、弟、甥、息子、娘等)9名参加による座談会が開かれました。とあり、

 「ある時先生から、グラジオラスを植えてみませんかとすすめられました。
グラジオラスというのはどんな花ですかと聞き返しましたら、
ナガラベットのことだということがわかりました。
それならうちの庭にも沢山ありましたし、あまり気乗りがしませんでしたが、
せっかくすすめられるものですから植えてみることにしました。
 夏がやって来て、新しく植えたグラジオラスが次から次へと咲き始めました。
花は赤、白、黄、紫と全く色とりどりのきれいな花なのです。
うちにあるナガラベッドとはあまりにも違う花なのでびっくりしました。
グラジオラスは忽ち近所の評判になり、わざわざ見に来る人もたくさんありました。
その花はたいてい近所の人に分けてやりました。」と、
羅須地人協会2世の座談会の一部が紹介されている。

宮沢賢治は、羅須地人協会時代に、近隣の人へ、グラジオラスの栽培を進め、たいそう立派な花を咲かせて話題になったということですね。
きっとそれは「新しい高価(高)い種類」だったのでしょう。

でも、ナガラベット?とは
ナガラベットとはグラジオラスの方言でしょうか?
日ごろ、何かとご教示を頂く壺中人さんから、森口多里著「町の民俗」(三國書房・昭和19年初版)をご紹介いただいた。
岩手県水沢出身の民俗学者、森口氏は「大正初年から昭和18年までの間帰郷の折々に聞いて書きとめておいた」もろもろの話を郷土にたいする愛情と家に対する郷愁を随筆の形式で表白したものとはしがきで述べているが、宮沢賢治の時代でもあり、地理的には花巻に近い水沢が舞台で、読んでみると、たいへんに興味深い内容が詰まっている。
そして、「動植物と方言」の章に、
「母がグラジオラスを「ナガラ別當」と呼んだのは一個人の瓢軽な思いつきだつたのであらう。花茎が長くステッキのように延びるからである。」とあった。
ふーむ、ナガラベットはナガラ別当なのだ!!と驚いたが、若い読者にはぴんと来ないかもしれない。
蛇足を承知で、補足させて頂くと、別当(べっとう)は、本来、本官を持つ者が他の管轄の役職を持つ場合に、それを補佐する役職名だそうで、このことから転じて、以下のような複数の意味を持つ。
①律令制度の下で、令外官として設置された検非違使庁や蔵人所の長官。
②平安時代以降の院、親王家、摂関家の政所の長官。鎌倉幕府の政所、侍所、公文所などの長官。
③東大寺、興福寺、四天王寺などの諸大寺で、寺務を司る者。なお、僧侶身分では無い者が別当に就任した場合にはそれを「俗別当(ぞくべっとう)」と呼ぶ。
④神宮寺の寺務を司る者。検校に次ぐ。別当がそこに住んだことから神宮寺の一部を別当寺とも言う。それを指す場合もある。
⑤当道座における盲人の官位の1つ。検校に次ぐ。
⑥日本人の姓の1つ。別当薫(元プロ野球選手)など
⑦かつての厩務員の呼称。

「どんぐりと山猫」に登場する馬車別当は⑦の厩務員(きゅうむいん)の呼称に当るのでしょうね。
ここでは⑤の盲人のお役人といったところで、それゆえに杖が登場するのでしょう。

つまり、簡単にいってしまえば、グラジオラスの花茎が杖のように長く伸びることから、盲人のお役人の使うステッキ(杖)を連想してのネーミングだったというわけですね。
森口氏の母上の一個人の瓢軽な思いつきだつたのか、どうか。賢治の時代、羅須地人協会周辺の人達もまた、グラジオラスのことをナガラベットと呼んでいたというわけです。
Commented by namiheiii at 2007-07-09 22:23
まだ五六歳の頃、この花が私の実家に植わっていたのを覚えています。グラジオラスという名も覚えています。きっと珍しかったのでしょう。
バックが白く抜けています。室内で撮られたのですか?垢抜けして見えます。
Commented by nenemu8921 at 2007-07-09 23:35
namiheiせんせい。
このはなは梅雨どきの花というイメージがあります。
「下ノ畑」で撮ったものです。
Commented by マルメロ at 2007-07-10 00:21 x
夏の花というえばグラジオラスを連想する子供時代でした。赤や黄色の鮮やかな色形がバタ臭い花と思いました。ナガラベットとは聞いたことはありませんがその杖を連想する花柄のまっすぐさは確かにそうですね。
Commented by nenemu8921 at 2007-07-10 09:05
マルメロさん。おはようございます。
そうですか。盛岡では流通していなかったのね。
戦前の花巻生まれの友人は、祖母がグラジオラスのことをナガラベットと呼んでいたといっています。
言葉って不思議ですね。
Commented by toshiko at 2007-07-10 20:38 x
日曜日の9時からクリーンパトロールに出ましたときに、もう撮影を終えられてお帰りになるところに出会いましたね。こんなに早くにもう一仕事終えられて!と今このグラジオラスを見て、あの朝はきっとこれを撮ってこられたのでしょうと思いました。本当に美しい赤ですね。近いうちに実物を
是非見に行くつもりです。宮沢賢治の文章はこのように解説していただくとようやく理解できる程度の私ですが、ストレッチ前の早朝5時半にはページを開き、今日はどんな?と期待に胸弾ませています。
Commented by nenemu8921 at 2007-07-10 22:01
toshikoさん。久しぶりにお目にかかれて嬉しかった!
海外へ行かれてしまったのかと思いましたよ。
蛇足はないほうがイイのかなと思いつつ、つい多くの方に賢治を理解してもらいたくて書いてしまいます。
毎日見てくださるって本当? 嬉しいな。
時々、コメント入れてくださるといっそう嬉しいです。(*^_^*)
ストレッチも続けていらっしゃるのね。
わたくしも運藤不足に悩んでいるのですが……。
5年後、10年後は自己管理した人としない人と歴然とした差が現れるのでしょうね。
ああ、長生きはしないでおこうかな。
Commented by toshiko at 2007-07-10 22:25 x
nenemuさんのブログとは離れますが、運動不足を嘆く人に面白い
あるテキストのトピックをご紹介しますね。
「運動のおかげで伸びる人生の時間は、運動に費やす時間と同じ。
運動が生み出すものは差し引きゼロってわけだ。」
今朝のストレッチの話題にもなりましたが、私たちはただ長生きしたいの
ではなく、生きている間は自由に身体を動かせる状態でいたい!という
気持ちだけで続けられるという結論になりました。
nenemuさんは大丈夫、重い機材をいとも軽々と持ってしっかり
歩いていらっしゃいましたもの!
Commented by nenemu8921 at 2007-07-11 11:22
toshikoさん。
そうですか。運動した分だけ、寿命が延びるわけですか。
それでは、無理しなくともいいカナ。(いつも自分に優しく暮らしています)(*^_^*)
ふーむ、おっしゃるとおりですね。からだもそうですが、頭も心も自由に動いてくれるといいですね。
このあたりは心配でありますが…。
Commented by ファッションブランド at 2013-11-04 11:38 x
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by nenemu8921 | 2007-07-09 00:15 | 植物 | Comments(9)

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by nenemu8921