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2008年 09月 12日 ( 1 )

サルオガセ

(略)
ああ、こいつは実に将軍が
三十年も北の方の国境の
深い暗い谷の底で
重いつとめを肩に負ひ
一度も馬を下りないため
将軍の足やズボンが
すっかり鞍と結合し
鞍は又馬と結合し
全くひとつになったのだ。
おまけにあんまり永い間
じめじめな処に居たもんだから
将軍の顔や手からは
灰色の猿おがせが
いっぱいに生えてしまったのだ
尤(もっと)もこのさるおがせには
九十九万人みなかかってゐた
(略)
                     童話「三人兄弟の医者と北守将軍」

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トゲサルオガセ?(サルオガセ科サルオガセ属)
サルオガセ(猿尾枷、猿麻桛)とは、「樹皮に付着して懸垂する糸状の地衣」(広辞苑)。霧藻、蘿衣ともいう。ブナ林など落葉広葉樹林の霧のかかるような森林の樹上に着生する。その形は木の枝のように枝分かれし、下垂する。サルオガセ科サルオガセ属の地衣類は、日本ではおよそ40種類確認されている。

サルオガセなるものがこの世に存在することを知ったのは、初めてこの童話を読んだときでした。
宮沢賢治という人はジャンルを越えてよくまあいろんなことを知っているなあと改めて感心しました。
実物を初めて見たのは2002年の秋、このイーハトーブの森ででした。樹齢数百年の古木に着床しています。このサルオガセに会いたくて、先月末、イーハトーブを訪れた際、盛岡から車で1時間半、区界高原の奥の湿原まで行ってみました。

あまりきれいな画像ではないので、広げるのは少々臆しましたが、サルオガセが生えるような森はこんな処です。
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地衣は菌類と違って、木を養分にし木を腐らせるということはなく、空気中の水分を直接吸収し、光合成をおこない、自活しているわけです。
つまりサルオガセは霧藻(キリモ)の名にふさわしく、霞を食して生きているわけで、人にたとえれば、仙人ともいえます。
「三人兄弟の医者と北守将軍」は、初期形は「北守将軍と三人兄弟の医者」というタイトルでした。
そのラストシーンで、将軍は王様のありがたい申し出を断って、郷里に帰って百姓になり、だんだんものを食わなくなり、秋の終わりごろ、どこへ行ったか、影もかたちもなくなってしまいます。それで仙人になったとかうわさされるわけで……、そんなことを思い出しながら、半日ゆっくり森を歩きました。
by nenemu8921 | 2008-09-12 10:21 | 植物 | Comments(6)

宮沢賢治の愛した鳥や植物


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