カテゴリ:植物( 951 )

【92】 カタクリ

  その窪地はふくふくした苔に覆はれ、所々やさしいかたくりの花が咲いて
  ゐました。

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  若い木だまには、そのうすむらさきの立派な花はふらふらうすぐろくひらめく
  だけで、はっきり見えませんでした。 

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却ってそのつやつやした緑色の葉の上に次々せはしくあらはれては又消えて
  行く紫色の怪しい文字を読みました。
  「はるだはるだ、はるの日がきた」字は一つづつ生きて息をついて、消えてはあら
  はれ、あらはれては又消えました。

                                        童話「若い木霊」
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カタクリ(ユリ科カタクリ属)片栗
丘陵地の北側や山地にかけて生える多年草で、群生することが多い。
葉には紫色の斑紋が出る。

「若い木霊」の幻想に誘われるように、カタクリの群生地を下野に訪ねました。
ようやく開き始めたばかりの風情でした。
日が差し、カタクリが開き、影が揺れ…、光と影の織り成す不思議な時空間を私の拙いカメラ力では十分に捕らえきれず残念です。
宮沢賢治は、その不思議さを、若い木霊の青春期の官能に託すかたちで、言葉で構築していて、すばらしいなあと思います。
ことにカタクリの葉の斑紋を怪しい文字のメッセージとしているのも面白いですね。
by nenemu8921 | 2007-03-21 00:07 | 植物 | Comments(2)

【91】 シダレザクラ

……墓地がすっかり変わったなあ……
……なあにそれすっかり整理したもんでがす……
……ここに巨きなしだれ桜があったがねえ……
……なあにそれ
   青年団総出でやったもんでがす
   観音さんも潰されあした……
……としよりたちが負けたんだねえ……
                  詩「開墾地検察」


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シダレザクラ(バラ科サクラ属)枝垂桜
エドヒガンの園芸品種。ソメイヨシノに先駆けて咲く。
花は満開時には白くなる。

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〔開墾地検察〕は、羅須地人協会時代の作品。
方言を交えた会話体で全篇展開されている。
開墾した土地を検察するような制度はあったのだろうか。
どうも、いろんな想いをかかえた賢治の虚構的設定のように思われる。
作品舞台はどこなのか、不明。墓地ということばがあるので実相寺周辺かとも思われるが…。
どなたか、ご存知の方がいらしたらご教示願いたいです。

画像はイーハトーブの景色ではなく、拙宅近所の古い寺院を今朝撮影したもの。
このサクラはまだ樹齢数十年で、若い樹だ。ピンクのつぼみがまだ残っていて、満開は数日後だろう。
日ごろ、ひっそりしていてアオジやメジロが見られるのに、今日は春の彼岸入りというので、人が多かった。
人の途絶えた短い時間に撮影した。
by nenemu8921 | 2007-03-18 12:54 | 植物 | Comments(0)

【90】 こぶし

こぶしの咲き
きれぎれに雲のとぶ
この巨きななまこ山のはてに
紅い一つの擦り傷がある
それがわたくしも花壇をつくってゐる
花巻温泉の遊園地なのだ
          〔こぶしの咲き〕


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by nenemu8921 | 2007-03-18 01:04 | 植物 | Comments(2)

【89】 馬酔木

月あかりまひりのなかに入り来るは馬酔木の花のさけるなりけり   
                                  歌稿 791

あぜみ咲きまひるのなかの月あかりこれはあるべきことにあらねど 
                                   歌稿792


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アゼビ(ツツジ科アセビ属) 馬酔木
大正10年4月に父親と関西旅行した折、奈良公園で詠んだ短歌。
奈良公園は鹿で有名だが、アゼビは馬酔木と書くように有毒なので、鹿も食べないという。
それゆえ、奈良公園には馬酔木がたくさん生えている。
満開だったのだろうか。
奈良公園で鹿のことを詠まずに、馬酔木に目をやるのも、宮沢賢治らしいと思う。
彼は小さな釣鐘状の花が好みだったようである。
by nenemu8921 | 2007-03-17 21:00 | 植物 | Comments(0)

【88】 ヒヤシンス

  向こうの坂の下り口で
  犬が三疋じゃれてゐる
  子供が一人ぽろっと出る
  あすこまで行けば
  あのこどもが
  わたくしのヒアシンスを
  呉れ呉れといって叫ぶのは
  いつもの朝の恒例である
             詩「同心町の夜あけがた」

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ヒヤシンス(ユリ科ヒヤシンス属)
オキナグサやツメクサなど野の花を愛した賢治だが、園芸種の花への言及も少なくない。
花壇設計もし、自分でもたくさんの園芸種の花を育てたりもした。
ヒヤシンスは当時の東北では、たいへん珍しい花だった。
昭和2年4月21日の日付の作品。
自分で作った野菜や花を朝リアカーに積んで、町へ売りに行こうとする時の情景である。

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明治期の呼称はヒアシントだった。賢治の表記はヒアシンスが多いが、文語詩では「風信子華」(風信子は中国名)という字を当てている。
東京の花屋から球根を取寄せて栽培していたのである。
by nenemu8921 | 2007-03-15 13:33 | 植物 | Comments(2)

【87】 黄金のゴール

 はんの木とまばゆい雲のアルコホル
 あすこにやどりぎの黄金のゴールが
 さめざめとしてひかつてもいい
              詩「冬と銀河ステーション」


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画像提供はこにタンさん

賢治のヤドリギには、黄金(きん)のまりという表現が多いが、ここのゴールはgall(英)で、植物の突起物、虫こぶなどの意。木にヤリギのついている様子を表現したもの。

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画像提供はこにタンさん

ヨーロッパでは古くから魔よけの木とされ、クリスマスには実のついた枝を飾るという。
by nenemu8921 | 2007-03-14 01:36 | 植物 | Comments(0)

【86】 おきなぐさ

春の二つのうずのしゅげはすっかりふさふさした銀毛の房にかはってゐました。
(中略)
「いいえ、飛んだって、どこへ行ったって、野はらはお日さんのひかりで一杯ですよ。
僕たちばらばらにならうたって、どこかの水の上に落ちようたって、お日さんちゃんと見ていらっしゃるんですよ。」
                                     童話「おきなぐさ」

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画像提供はyonoさんです。

うずのしゅげ
ウズは翁(オンズ)の方言、の髭(ノシュゲ)のなまったものであろうという説もある。
「おじいさんのひげ」の意ですね。
うずのしゅげ、うずのひげ、おばがしら、ちごちご等、地方の呼び名は、日向のぬくもりのような
あたたかさが感じられる。
でも、賢治は意味ではなくて、ことばの音の響きから気に入っていたようです。
べむべろ(楊の花芽)と同じように。
by nenemu8921 | 2007-03-12 18:31 | 植物 | Comments(0)

【85】 うずのしゅげ

うずのしゅげを知ってゐますか。
うずのしゅげは、植物学ではおきなぐさと呼ばれますがおきなぐさといふ名は何だかあのやさしい若い花をあらはさないやうに思ひます。(中略)
うずのしゅげといふときはあの毛茛(きんぽうげ)科のおきなぐさの黒繻子(くろじゅす)の花びら、青じろいやはり銀びろうどの刻みのある葉、それから6月のつやつや光る冠毛がみなはっきりと眼にうかびます。
                                       童話「おきなぐさ」
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オキナグサ(キンポウゲ科オキナグサ属)翁草
高さ10センチぐらいになる多年草。4,5月に長さ3センチほどの鐘状の花を下向きに開く。
宮沢賢治がこのおきなぐさ賛歌ともいうべき小さな童話を書き残さなかったら、この山野草は注目されなかったかもしれない。

最近の園芸店では、セイヨウオキナグサがたくさん出回っている。
セイヨウオキナグサは花も大きく、色鮮やかなものが多い。セイヨウオキナグサは上向きに咲く。
近くの万葉植物園では、ねつこ草(根都古草)という大きなプレートの横で小さな花を開き始めた。
by nenemu8921 | 2007-03-11 22:58 | 植物 | Comments(4)
たけしき耕の具を帯びて、   羆熊の皮は着たれども、
夜に日をつげる一月の、    干泥のわざに身をわびて、
しばしましろの露置ける、   すぎなの畔にまどろめば、
はじめは額の雲ぬるみ、    鳴きかひめぐるむらひばり、
やがては古き巨人の、     石の匙もて出てきたり、
ネプウメリてふ草の葉を、  薬に食めとをしへけり。
                文語詩「民間薬」


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ネプウメリ→ギョウジャニンニク(ユリ科ネギ属)行者大蒜
「民間薬」のネプウメリはこれまで、定説がなかったが、最近ギョウジャニンニク説が発表されている。
羆熊の毛皮をまとった農夫が夢で啓示を得る民間薬は、アイヌ民族がご馳走として、冬の保存食として、魔よけとして肺病をはじめ多くの病気に効能あらたかな食品としてのギョウジャニンニク、ヌペ草であろうというのである。
興味のある方は「ワルトラワラ22号」(ワルトラワラの会発行)をどうぞ。

最近ではこのギョウジャニンニクは山菜として、自然食品としても大変な人気だそうで、栽培しているところもあると聞いていた。
その折、2006年、6月、沢内村で、本当に栽培している情景に出会ったので撮影させていただいた。花はきれいだが、食品としては若い茎や葉を食するという。
また、つい最近、ギョウジャニンニクの漬物を知人からお送りいただいた。
これは栃木県産である。
味噌漬けで、白いご飯でいただくとたいそうな美味であった。

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by nenemu8921 | 2007-03-03 12:05 | 植物 | Comments(4)

【79】 コブシ

沃土ノニホヒフルヒ来ス、   青貝山のフモト谷、
荒レシ河原ニヒトモトノ、   辛夷ハナ咲キタチニケリ.

    文語詩〔沃土ノニホヒフルヒ来ス〕


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コブシ(モクレン科モクレン属)辛夷
マグノリアである。
賢治作品にはたびたび登場するので、下手な写真をお許しいただきたい。

文語詩 一百篇 中の一つ。
沃土は沃素。賢治作品には科学用語がごく当たり前に出てくるので戸惑う。
2行の定型が8連つづく作品。
海の匂うようなさわやかな山の朝だ。谷川はそこにささやかな河原を広げていた。
山仕事の人々の集合地には1本のコブシの木が立っていた。
「宮沢賢治文語詩の森」 (宮沢賢治研究会編)では、このように解説が始まっている。


by nenemu8921 | 2007-02-24 01:37 | 植物 | Comments(3)

宮沢賢治の愛した鳥や植物


by nenemu8921