つめたいゼラチンの霧もあるし…(略)

またこめつがは青いザラメでできてゐて
さきにはみんな
大きな乾葡萄(レジン)がついてゐる
みやまういきょうの香料から
蜜やさまざまのエッセンス
そこには碧眼の蜂も顫へる
          詩「山の晨明に関する童話風の構想」

c0104227_10541793.jpg
この画像は岡山理化大学波田研究室からお借りしました
コメツガ(マツ科ツガ属)米栂
亜高山帯にふつうに生え、高さ20~25mになる常緑高木。乾葡萄(レジン)とは、この球果を見立てたもの。はじめ緑紫色で、成熟すると褐色になる。

c0104227_9353449.jpg
画像提供はは「可児からの山歩き」さんです。
ミヤマウイキョウ(セリ科シラネニンジン属)深山茴香
高山の岩石地に生える多年草。高さ10~40cmになる。和名は漢方薬に使われる茴香に葉が似ているため。しかし、薬効も香りもないと図鑑にはある。

c0104227_936849.jpg
これはわが「下ノ畑」でいま満開のフェンネル
ウイキョウ←フェンネル(セリ科ウイキョウ属)
最近ではハーブ・ブームでフェンネルという名前の方がよく知られている。
ヨーロッパ原産の多年生草本で、茎は直立し高さ1~2m、上部で分枝する。全草黄緑色、独特な香りがある。果実は卵状楕円形の双懸果で、長さ3.5~8mm、幅1~2.5mmで香りが強い。花期は夏。

「山の晨明に関する童話風の構想」は、早池峰山の夜明け(晨明)の美しさを高らかに歌い上げたすばらしい作品だ。ここでは自然の現象や風物をすべておいしそうな飲み物や食べ物に見立てている。
ミヤマウイキョウとは賢治の造語かと思っていたが、調べてみると、実在する植物だったので驚いた。ウイキョウ(フェンネル)は、茴香入りボンボン(媚薬)として「サド公爵夫人」(三島由紀夫)にも登場し、芳香や薬効が古くから知られているが、ミヤマウイキョウを登場させたのはイメージだろうか。つまりウイキョウを爽やかなイメージに進化させたような。だが、この花も賢治の好きな月光色の散形花だ。
早池峰山に、ミヤマウイキョウは自生したかどうか不明。ご存知の方がいらしたらご教示願いたい。
# by nenemu8921 | 2007-07-06 10:32 | 植物 | Comments(2)

ヤブカンゾウ←わすれ草

種山ヶ原の 霧の中で刈った草さ
わすれ草も入ったが、わすれだ 雨ふる
                  歌曲「牧歌」


c0104227_2330107.jpg

ヤブカンゾウ(ユリ科ワスレグサ属)藪菅草←ワスレグサ
本州以南の野原や薮などに群生する。多年草。本来は中国原産だが、古い時代に渡来し広がった 。万葉集にも唄われている。中国では「金針」、「忘憂草」などとも呼ばれる。憂さを忘れるほどの美しい花といった意味が和名の由来というが諸説ある。方言ではなくて、れっきとした古語である。
わたくしの「下ノ畑」の土手で、今年も咲き始めた。

劇「種山ヶ原の夜」の劇中歌。
「入ったが」はへったがと読む。「雨ふる」はあみゃふると読む。
朗読は難しいがみんなで歌えば、コワクナイ歌です。
# by nenemu8921 | 2007-07-05 10:10 | 植物 | Comments(2)

キキョウ

(ああ、もう明るくなって来た。空が明るくなって来た。きれいだなあ。おい。)
 深い鋼青から柔らかな桔梗、それからうるはしい天の瑠璃、それからけむりに眼を瞑るとな、やはりはがねの空が眼の前一面にこめてその中にるりいろのくの字が沢山沢山光ってうごいてゐるよ。くの字が光ってうご……。  
                                         初期短編綴等「柳沢」


c0104227_1726329.jpg

キキョウ(キキョウ科Platycodon属)桔梗
多年性草本植物。山野の日当たりの良い所に育つ。日本全土、朝鮮半島、中国、東シベリアに分布する。秋の七草のひとつとして親しまれている。万葉集のなかで秋の七草と歌われているアサガオは本種であると言われている。

「柔らかな桔梗」はあけがたの空の形容。鋼青(こうじょう)は賢治の造語だが、空の形容に頻出する。新しく灼いたばかりの青い鋼の板のやうな質感を鋼青と表現することが多い。
ここでは、その鋼青の空が柔らかな桔梗色に変化し、やがて瑠璃色の晴れた空が広がることをイメージしている。
# by nenemu8921 | 2007-07-02 17:48 | 植物 | Comments(4)
鈍い月あかりの雪の上に
松並の影がひろがってゐる
ひるなら碧く
いまも螺鈿のモザイク風した影である
こんな巨きな松の枝さへ落ちてゐる
このごろのあの雨雪で折れたのだ
そこはたしかに畑の雪が溶けてゐる
玉葱と ペントステモン
なにかふしぎなからくさ模様が
苗床いちめんついてゐる
           詩〔鈍い月あかりの雪の上に〕


c0104227_22414386.jpg

ペンステモン(ゴマノハグサ科ペンステモン属)
北アメリカ原産の秋播き1年草。最近では非常にたくさんの園芸種がある。ペンステモンという名で流通しているが、別名をツリガネヤナギともいう。もともとは宿根草だが、高温多湿に弱いため1年草扱いにされることが多い。花期は5~6月。ペンステモンは5本のおしべの意味だという。

「新宮沢賢治語彙辞典」でイワブクロとしているのは明らかな認識不足である。
詩の内容から、まだ雪の季節であるが、雨混じりになってくれば、春も遠くない。秋に蒔いた玉葱やペンステモンの苗床を気にかけているのが察せられる。賢治は、「下ノ畑」を耕作していた時期には当時としては珍しい園芸種の花も数多く育てていた。高山植物のイワブクロを畑に植えるようなことはしない。

ツリガネヤナギは、名前も花もいかにも賢治好みである。
# by nenemu8921 | 2007-07-01 23:13 | 植物 | Comments(2)

こけもも←フレツプス

(略)
たしかに日はいま羊毛の雲にはひらうとして
サガレンの八月のすきとほつた空気を
やうやく葡萄の果汁(マスト)のやうに
またフレツプスのやうに甘くはつこうさせるのだ   
(略)                  詩「樺太鉄道」   


c0104227_18144538.jpg

コケモモ(ツツジ科スノキ属)苔桃
高山の岩地やハイマツの下に群落をつくって生える落葉小低木。6~8月に、白色またはやや赤みを帯びた長さ約6mmの鐘形の花を開く。液果は直径5~7mmの球形で赤く熟し、食用となる。

アカモノ(ツツジ科シラタマノキ属)
山地帯から高山帯の乾いたところに生える常緑小低木。茎は地面を這い、高さ10~20cmになる。若枝には赤褐色の開出毛がある。6~8月に上部の葉腋に長さ7~8mmの鐘型の白花をつける。果実は赤く熟す。和名は赤桃の転化ではないかという。別名をイワハゼとも言う。

mayahaさんからご指摘を頂き、訂正しました。
ありがとうございました。 
今後とも、皆さん、お気づきのことがあればお教えくださいね。

フレップスはコケモモ、ツルコケモモ、クオマメノキ、クロウスゴ、ガンコウラン、ケヨノミ等の液果の総称である。このアカモノの実もフレップスといえそうですが。
アイヌ語のフレプ(エゾイチゴの意)からきているらしい。
賢治作品では花は語られずフレツプスのイメージが多い。

追記
イーハトーブの友からコケモモの画像が送られてきました。
ようやく、ここ数日で咲き始めたようです。
c0104227_19271791.jpg

# by nenemu8921 | 2007-06-28 18:35 | 植物 | Comments(4)
そのきらびやかな空間の
上部にはきんぽうげが咲き
  (上等のbutter-cup(バッタカップ)ですが
   牛酪(バター)よりは硫黄と蜜とです)
下にはつめくさや芹がある
ぶりき細工のトンボが飛び
雨はぱちぱち鳴ってゐる
(略)                   詩「休息」


c0104227_164087.jpg

c0104227_172353.jpg

ウマノアシガタ(キンポウゲ科キンポウゲ属)馬の脚形
野原の土手などに多い多年草。
バターカップはキンポウゲの英名。賢治はこの言葉も気に入っていたらしい。
花びらのつややかさは絶品である。

草原にからだを投げだして休息のひとときを唄っている詩だ。
# by nenemu8921 | 2007-06-27 01:17 | 植物 | Comments(2)
(息子がいつでも云ってゐる
技師といふのはこの男か
も少しからだも強靭(しな)くって
何でもやるかと思ってゐたが
これではとても百姓なんて
ひどい仕事ができさうもない
だまって町で月給とってゐればいゝんだが)
(略) 
(みんなで米だの味噌だのもって
寒沢川につれて行き
夜は河原へ火をたいてとまり
みづをたくさん土産にしょはせ帰さうと
とてもそいつもできさうにない)
(略) 
                    詩「会見」


c0104227_21145614.jpg

ウワバミソウ(イラクサ科ウワバミソウ属)蟒蛇草
山菜のミズは植物学上の標準和名はウワバミソウである。いかにもウワバミ(大蛇)が出そうなところに多いことからのネーミングであろう。
山地の湿り気のあるところに生えるやわらかい多年草。
最近では都会のスーパーでも購入できる。
c0104227_21151796.jpg

黄白色の小花をかたまってつける。
食するのは茎の部分。水分が多くて、癖がない。
c0104227_2116011.jpg

湯がいてフキのように皮をむき、からし酢味噌などで食すると美味。
9月末には茎にむかごのように実がつく。これは味噌漬けが絶品だが、それは又別の作品とともに紹介したい。

作品は一部だけしか紹介できないので、解説するのは難しいが、賢治が農村指導をしていた時期の作品。逞しい野武士の子孫のような百姓からみれば、作者、すなわち賢治はとても百姓なんて無理だから、町で月給取っていればいいんだがと思わせてしまう。
下書稿では「さういふ面白い人ならば、鍋だの味噌だのみんなでしょって寒沢川の奥のほうへみづをとりに連れて行って川原へ火を焚いて明かそうと云ったが、このアンコでは仕方ないとさういふことを考へてゐる」とある。
賢治自身の自意識過剰とも思える作品だが、事実関係は不明。
# by nenemu8921 | 2007-06-25 21:39 | | Comments(2)
少し前セイタカシギのラブラブカップルのことをお知らせしました。
気にかかっていたので、久しぶりに谷津干潟へ出かけて、様子を見てきました。
あの折に出会ったカップルとは別のカップルが観察できる場所で抱卵していました。
ご覧ください。

これはパパです。
雨が降り始めたなかで、じっと長い脚を折りまげて、たまごを冷やさないようにがんばっていました。
c0104227_21121425.jpg


こちらがママです。若い鳥です。人間で言えば、ヤンママといったところ。
c0104227_21335799.jpg


水に映ったわが身を見て、「ああ、アタシってきれい? たまごのお守なんて…」と、つぶやいたりしていませんよ。
1時間ほどで♂♀交代で抱卵している様子です。
c0104227_21344323.jpg

セイタカシギ(チドリ目セイタカシギ科)
主に旅鳥として渡来。東京湾周辺では越冬、繁殖するものもある。
水田、蓮田、入り江などに住むが、多くない。
# by nenemu8921 | 2007-06-24 21:50 | 番外 | Comments(0)
ごらんなさい。この花は黒繻子ででもこしらへた変り型のコップのやうにみえますが、その黒いのはたとえば葡萄酒が黒く見えると同じです。この花の下を始終往ったり来たりする蟻に私はたづねます。
「おまへはうずのしゅげはすきかい、きらひかい。」
蟻は活発に答へます。
「大すきです。誰だってあの人をきらひなものはありません」
c0104227_8303172.jpg

「けれどもあの花はまっ黒だよ」
「いいえ、黒く見えるときもそれはあります。けれども、まるで燃えあがってま赤な時もあります。」
c0104227_22262864.jpg

「そしてあの葉や茎だって立派でせう。やはらかな銀の糸が植ゑてあるでせう。
私たちの仲間では誰かが病気にかかったときは、あの糸をほんのすこうし貰ってきてしづかにからだをさすってやります。」
                                           童話「おきなぐさ」

c0104227_22345427.jpg


オキナグサキンポウゲ科オキナグサ属)翁草
ウズノシュゲは、地方名。

この花に逢いたくての旅でした。願いどうり出会うことができてハッピーでした。
ご案内頂いたイーハトーブの友に感謝します。

≪イーハトーブの友≫
ご存知ですか?「税務署長の冒険」という童話では、≪イーハトーブの友≫という名前のお酒が登場しますね。
# by nenemu8921 | 2007-06-22 22:49 | 植物 | Comments(10)
c0104227_1471061.jpg

     ノビネチドリ(ラン科テガタチドリ属)延根千鳥
     ブナ林や針葉樹林の林下に生える多年草。高さ30~60cmになる。和名は、根がひも状になって伸びる様子をあらわしたもの。

c0104227_14132843.jpg

      ズミ(バラ科リンゴ属)酸味
      高さ6~8mになる小高木。別名コナシ。コリンゴ。安比で見たものはみな1mほどの低い樹木で、つぼみが多かった。標高が高いゆえか。五輪峠では、5メートルもある大きな木に花が満開だった。五輪峠は標高どれほどなのか…。昔、人々も賢治も歩いてここを越したのだ。
c0104227_14154465.jpg

     ウスバシロチョウ(アゲハチョウ科ウスバアゲハ亜科)薄羽白蝶
     林に続く明るい草原で、白いはねに陽を透かしながら、ふんわりと、あまり羽ばたくことなく飛ぶ。五輪牧野でたくさん見た。

c0104227_14172342.jpg

      オオタカネバラ(バラ科バラ属)大高嶺薔薇
      高山や北地に生える落葉低木。日本に自生するバラの原種の一つ。盗掘されてしまうらしく、1株だけ、一輪だけ咲いていた。
     
c0104227_14193182.jpg

      ヤグルマソウ(ユキノシタ科ヤグルマソウ属)矢車草
深山の谷沿いに生える多年草。和名は、5枚の小葉が掌状についた様子が、端午の節句の鯉のぼりに添える矢車に似ていることによる。

2007年6月10日。とうわ野鳥の会の皆さんと自然観察会に参加しての一日でした。ありがとうございました。
# by nenemu8921 | 2007-06-21 22:42 | 植物 | Comments(6)

宮沢賢治の愛した鳥や植物


by nenemu8921