【124】 りんご

りんごの樹
ボルドウ液の霧ふりて
ちひさき虹のひらめけるかな
          歌稿[A]248
 

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リンゴ(バラ科リンゴ属) 
原産地はカザフスタン南部、キルギスタン、タジキスタン、中国の新疆ウイグル自治区など中央アジアの山岳地帯、カフカスから西アジアにかけての寒冷地だといわれている。現在日本で栽培されているものは、明治時代以降に導入されたもの。病害抵抗性、食味、収量などの点から品種改良が加えられ、現在7500以上の品種が栽培されている。
画像は ゴージャスという品種の花。

賢治の時代はどんなリンゴを栽培していたのだろう。
賢治作品にはリンゴのイメージは頻出するが、多くはその果実や香りで、苹果と表記されることが多い。
この短歌のように樹木をうたったものは少ない。
ボルドウ液は農業用殺菌剤。フランスのボルドーで初めて使われたのに由来する。
# by nenemu8921 | 2007-05-03 07:42 | 植物 | Comments(6)
バケツがのぼって
鉛いろしたゴーシュ四辺形の影のなかから
いまうららかな波をたゝえて
ひざしのなかにでてくると
そこに -ひとひらー
    -なまめかしい貝ー
   -ヘリクリサムの花冠……
一ぴきの蛾が落ちてゐる
(略) 
              詩〔バケツがのぼって〕

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ムギワラギク(キク科ヘリクリサム属) 麦藁菊
オーストラリア原産。花弁状に発達したのは総苞片で、花弁ではない。
乾燥に強く、昔からドライフラワーに使われてきた。
別名をヘリクリサム、帝王貝細工ともいう。

ゆがんだ四辺形は井戸のことである。ひきあげたバケツの中に、
水がゆるやかな波をたて、貝殻のようなムギワラギクの花びらがひとつ浮いている。
かと思ったら、……それは一ぴきの蛾だった!!
下書き稿や前後の詩句を勘案して読めば、そんな意味だ。

ムギワラギクの光沢!とまがう蛾とは、どんな蛾だったのだろう。
# by nenemu8921 | 2007-05-02 01:11 | 植物 | Comments(0)

【122】 スズラン

み裾野は雲低く垂れすゞらんの
白き花さきはなち駒あり
           歌稿1 (歌稿A)

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スズラン(ユリ科スズラン属)鈴蘭
山地や高原の草地に生える多年草。別名キミカゲソウ(君影草)

盛岡中学3年生のときの短歌。岩手山麓には鈴蘭の群生地があったようだ。

岩手山麓でオキナグサの群生には出会ったことがあるが、スズランを見つけることはできなかった。今でも自生しているのだろうか。
# by nenemu8921 | 2007-05-01 00:50 | 植物 | Comments(8)
こはやまつつじ丘丘の、    栗また楢にまじはりて    熱き日ざしに咲きほこる。

なんたる冴えぬなが紅ぞ、  朱もひなびて酸えはてし、  紅土(ラテライト)にもまぎるなり。

いざうちわたす銀の風、 無色の風とまぐはへよ、 世紀の末の児らのため。

さは云へまことやまつつじ、 日影くもりて丘ぬるみ、 ねむたきひるはかくてやすけき。

                                      文語詩「山躑躅」(一百編) 



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画像提供は大角修さんです。
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画像提供は大角修さんです。

ヤマツツジ(ツツジ科ツツジ属) 山躑躅
山野にふつうに生え、高さ1~4mになる半落葉低木。花はふつう朱赤色。
ツツジ科の樹木は丈夫で美しい花を咲かせ、花期も長い。多くの園芸品種もある。

丘丘にクリやナラに混じって暑い日差しをあびながら、咲きほこるヤマツツジ。
酸性化した赤土と見分けがつかないほど冴えない色だというのである。
「きわたる無色の風、銀色の風と結婚したらどうかね、お前の子孫が末永く繁栄するためにもさ」と、ユーモアをこめて語りかけているのである。紅土は、主として、鉄、アルミニウムの水酸化物から成る土壌で、文字どおり赤みがかったれんが状の土壌。ルビのラテライト(Laterite)は原名。
詩句にこうした専門用語がしぜんに登場するのも土壌学を専門に学んだ賢治らしい表現である。
風と結婚したためか、最近のツツジ科の植物には、さわやかな花も多い。
# by nenemu8921 | 2007-04-30 13:20 | 植物 | Comments(2)

【120】 セイタカシギ

イーハトーブ番外・セイタカシギ
昨日、千葉県習志野市の谷津干潟でセイタカシギのラブラブカップルに出会いました。
あたたかい気持ちのよい日で、鳥たちはセンターの前の流れで水浴びをしたり、草地で昼寝をしてくつろいでいました。セイタカシギの愛情あふれる場面をご紹介します。
この鳥は賢治作品に登場するわけではありませんが、私が野鳥に関心を持つきっかけになった鳥で、特別の思いを抱いています。
と、いいますのは、現在の住まいに数十年前、転居してきたとき、ベランダで洗濯物を干しているときに、近くの水田に白い見かけない鳥が5,6羽舞いおりて、けれっ、けれっと鳴くのです。
驚いて、降りていってみると、極端に長く、細い足は紅く、体重を支えられるのかと思うほどで、白い体に艶々した黒い翼が朝日に光っていました。忘れられない光景です。
それがセイタカシギという鳥だと知り、それからすっかり野鳥ファンになり、自然そのものに関心を持つようになりました。
現在では住まい周辺の水田はみな、マンションや駐車場に変わってしまいましたが、この鳥に出会わなかったら、野鳥や植物に関心をもつことはなかったかもしれません。
宮沢賢治の読み方もちがったものになっていたかもしれません。

これらのシーンは、どなたも観察できる谷津干潟観察センターの観察コーナーで、鳥たちを脅かすことなく撮ったものです。(ガラス壁ごしに、鳥たちに気づかれずにどなたでも観察できます)
昨年もここでセイタカシギは営巣して雛を育てたそうです。リングをしている鳥が♀で、昨年営巣した個体と同じ鳥のようです。今年も雛が巣立つとよいですね。

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セイタカシギ(チドリ目セイタカシギ科)
主に旅鳥として渡来。東京湾周辺では越冬、繁殖するものもある。
水田、蓮田、入り江などに住むが、多くない。

思いがけない場面に出くわし、不備な態勢で、下手な写真をお見せするのは冷汗ですが、
他にも数十枚のショットがあります。セイタカシギの研究や調査をしている方にはご協力できます。
# by nenemu8921 | 2007-04-27 18:31 | 番外 | Comments(6)
酸っぱい胡瓜をぽくぽく噛んで
みんなは酒を飲んでゐる
……土橋は曇りの午前にできて
   いまうら青い榾のけむりは
   稲いちめんに這ひかゝり
   そのせきぶちの杉や楢には
   雨がどしゃどしゃ注いでゐる……
みんなは地主や賦役に出ない人たちから
集めた酒を飲んでゐる
……われにもあらず
   ぼんやり稲の種類を云ふ
   こゝは天山北路であるか……
さっき十ぺん
あの赤砂利をかつがせられた
顔のむくんだ弱さうな子が
みんなのうしろの板の間で
座って素麺(むぎ)をたべてゐる
   (紫雲英(ハナコ)植れば米とれるてが
   藁ばりとったて間に合ぁなぢゃ)
こどもはむぎを食ふのをやめて
ちらっとこっちをぬすみみる
            詩「饗宴」


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レンゲソウ(マメ科ゲンゲ属)蓮華草
中国原産の2年草。根に根粒菌がついて空気中の窒素を固定できるため、もともとは緑肥として利用されてきた。これが水田地帯を中心に野生化したもの。
別名ゲンゲ。紫雲英(しうんえい)は、レンゲソウの漢名。花巻地方では、方言か、俗名か、ハナコと呼ぶことが多かった。

部落の共同作業、土橋つくりのあとのご苦労さん会の饗宴である。
宮沢賢治はこの時期、羅須地人協会活動を本格的に始めた時期であった。
慣れない労働に疲れ、ぼんやりしている詩人の耳に「れんげを田に植えたら米がたくさん獲れるって?藁ばかり獲れたって間に合わないさ」と誰かの声が響く。
下書稿をよむと、賢治自身が子どもと同じように疲れ、半人前の仕事しかできない自身への無力感、屈辱感がにじんでいる。
# by nenemu8921 | 2007-04-25 22:54 | 植物 | Comments(2)

【118】 オキナグサ

  おきな草
  丘のなだらの夕陽に
  あさましきまでむらがりにけり
             歌稿〔B〕321 


  
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画像提供は大角修さんです。

  オキナグサ〔キンポウゲ科オキナグサ属〕翁草
  日あたりのよい草原に生える多年草。
  近年自生地が減り、環境省の「絶滅危惧Ⅱ類」に指定されている。
  花茎は高さ10cm前後で開花するが、花後伸長して30~40cmにもなる。

  やはり賢治10代のときの短歌。
  「あさましき」は、意外である、驚くべきであるの意。
  が、ここは、興ざめである、あまりのことにあきれるといったところか。
# by nenemu8921 | 2007-04-24 17:10 | 植物 | Comments(13)

【117】 カタクリ

     かたくりは
      青き実となる
      恋ごころ
      風にふかるゝ
      5月の峡に  
           歌稿〔B〕315


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カタクリ(ユリ科カタクり属)片栗
種子が地中に入ってから平均8年目でようやく2枚の葉を出して開花するそうです。

この短歌は賢治が18歳の時のもの(大正3年5月)。
この年の4月に盛岡市岩手病院に入院して肥厚性鼻炎の手術を受けた。
入院中に看護婦の一人に恋し、悩んだという。
初恋は報われぬもの。
さびしい歌だが、歌稿〔A〕では
  「かたくりは青き実となる
   うすらやみの
   脳のなかなる5月の峡に 」 であった。
  うーむ、独特ですね。
# by nenemu8921 | 2007-04-23 19:55 | 植物 | Comments(4)

【116】 ヒナゲシ

ひなげしはみなまっ赤に燃えあがり、めいめい風にぐらぐらゆれて、息もつけないやうでした。                                       童話「ひのきとひなげし」
テクラと呼ばれたひなげしは、この一むらの中では、いちばんかがやいて一番大きく、そしていちばんかしこかったのです。
                                   童話「ひのきとひなげし」初期形
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画像提供はnamiheiさんです。

小さいひなげしの花が、さびしく燃えながらひとりごとを云ひました。
「わたしなんか、まるでつまらないわね、美しくさへなれたら、もうあしたの晩死んだっていいんだけれど。」
                                  童話「ひのきとひなげし」初期形
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となりの花が云ひました。
「わたしだってさうよ。だって美しいことのほかに、わたしらの命なんてないんでせう。」
「あら、あなたの位立派だったら沢山だわ。あなた、本当にお立派よ。まるでお日様のやうよ。あなたの位になれたら、わたし悪魔のうちへ下女奉公にでも何でも行くわ。」
                                  童話 「ひのきとひなげし」初期形

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ヒナゲシ(ケシ科ケシ属)雛罌粟
耐寒性の1年草。別名虞美人草。

美しくなりたい!という願望で悪魔に魂を売り渡す物語は、古今東西の文学の古典的テーマである。
賢治文学では、危ないところでひのきが登場して「はらぎゃあてい」と叫び、蛙に化けた悪魔からひなげしたちを救う。
この初期形はお説教調が強いせいか、後に手を入れて大幅に改稿している。
# by nenemu8921 | 2007-04-22 09:34 | 植物 | Comments(10)

【115】 桜草(プリムラ)

(略)
丘も峠もひっそりとして
そこらの草は
ねむさもやはらかさもすっかり鳥のこゝろもち
ひるなら羊歯のやはらかな芽や
桜草(プリムラ)も咲いてゐたらう
            詩〔どろの木の下から〕


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ニホンサクラソウ(サクラソウ科サクラソウ属)日本桜草
山間の湿地や河岸の原野などに生える多年草。日本原産。自生地は激減している。
「サクラソウ」というのは本来、日本産のこの植物のみを指す名称なので、ニホンサクラソウと呼ぶのは適切ではない。しかしほかのプリムラ(サクラソウ)属の植物と区別するために、そのように呼ばれるようになったのだろう。
しかし、面倒なのは宮沢賢治が描いている桜草は、しばしばプリムラというルビが振られていることで、、これは、学名 Primula sieboldiiからのルビで、西洋桜草を指すわけではない。

賢治の時代には、盛岡から外山へ越える北上山地に、桜草の群落があちこちに見られたようだ。
# by nenemu8921 | 2007-04-21 21:42 | 植物 | Comments(2)

宮沢賢治の愛した鳥や植物


by nenemu8921