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ノバラ

清夫は今日も、森の中のあき地にばらの実をとりに行きました。(略)
そこは小さな円い緑の草原で、まっ黒なかやの木や唐檜に囲まれ、
その木の脚もとには野ばらが一杯に茂って、丁度草原にへりを取ったやうになってゐます。

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おどろいて手にもったその一つぶのばらの実を見ましたら、
それは雨の雫のやうにきれいに光ってすきとほってゐるのでした。(略)
                           童話「よく利く薬とえらい薬」


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賢治が愛したのはノバラの花より、その香りや赤い実だった。
うつくしいもの、清らかなもの、癒しの象徴として描かれる。

しかし、農村活動に入ると、ノバラの藪にはだいぶ悩まされた様子が伝わってくる。
実際、地中に深く根を張り、剛健なノバラは、開墾する身には、実に厄介な植物であったろう。

驟雨(カダチ)はそそぎ
土のけむりはいっさんにあがる
   あゝもうもうと立つ湯気のなかに
   わたくしはひとり仕事を忿る
      ……枯れた羊歯の葉
        野ばらの根
        壊れて散ったその塔を
        いまいそがしくめぐる蟻……
杉は驟雨のながれを懸け
またほの白いしぶきをあげる
       口語詩 七二八〔驟雨はそそぎ〕


「春と修羅」第三集の作品である。
驟雨にはカダチとルビがある。一般的にはしゅううと言うことが多い。
驟雨とはいきなり降りだして、短時間でやんでしまう激しい雨。にわか雨。夕立のこと。
野ばらの根を掘り起こす作業の折、にわか雨に降られたのである。
この時期の賢治は慣れない農作業に、体力がついていかない自分自身にいつも怒っていた。
この作品はのちに文語詩に改稿され、印象が違った作品になるのだが。

私も「下ノ畑」で野菜や花を作っていたとき、ノバラを植栽したために他の園芸種をだいぶ犠牲にした。
撤去するときも実にたいへんだった。
また、ガーデンでは蟻の王国もやっかいで、蟻退治の薬剤を度々散布しなければならなかった。

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それでも、ノバラの赤い実を見ると、なんだか嬉しくなって撮影せずにいられないのです。

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ノイバラ(バラ科バラ属)Rosa multiflora 野茨 ノバラともいう。
by nenemu8921 | 2014-10-17 23:38 | 植物 | Comments(10)

ノバラ

清夫は今日も、森の中のあき地にばらの実をとりに行きました。(略)
そこは小さな円い緑の草原で、まっ黒なかやの木や唐檜に囲まれ、
その木の脚もとには野ばらが一杯に茂って、丁度草原にへりを取ったやうになってゐます。
清夫はお日さまで紫色に焦げたばらの実をポツンポツンと取りはじめました。
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清夫はお母さんのことばかり考えながら汗をポタポタ落として、一生懸命実をあつめましたが
どう云ふ訳か、その日はいつまで経っても籠の底がかくれませんでした。
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そのうちにもうお日さまは、そらのまん中までおいでになって、林はツーンツーンと鳴り出しました。
(木の水を吸ひ上げる音だ)と清夫はおもひました。
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まだ籠の底は隠れません。
よしきりが林の向ふの沼に行こうとして清夫の頭の上を飛びながら、
「清夫さん清夫さん、まだですか。まだですか。まだまだまだまだまぁだ。」と言って通りました。
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清夫は汗をポタポタこぼしながら、一生けん命とりました。
いつまでたっても籠の底はかくれません。
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たうたうすっかりつかれてしまって、ぼんやりと立ちながら、一つぶのばらの実を唇にあてました。
するとどうでせう。
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唇がピリッとしてからだがブルブルッとふるひ、なにか、きれいな流れが頭から手から足まで、
すっかり洗ってしまったやう、何とも云へず、すがすがしい気分になりました。
空まではっきり青くなり、草の下の小さな苔まではっきり見えるやうに思ひました。
それに今まで聞こえなかったかすかな音もみんなはっきりわかり、
いろいろの木のいろいろな匂まで、実に一一手にとるやうです。
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おどろいて手にもったその一つぶのばらの実を見ましたら、
それは雨の雫のやうにきれいに光ってすきとほってゐるのでした。(略)
                                 童話「よく利く薬とえらい薬」


賢治の時代には、野ばらの実をお茶にするなんて、誰も考えなかったでしょうね。

野ばらが好きです。花も、実も。
園芸種のように美しいこれら野茨の株に出会ったとき、すごく嬉しかったです。
でも、ローズヒップとは違う、正真正銘の野ばらです。
実が青いうちから何回か通いました。実は水元公園の一角です。
魅せられて……、しかし、なかなかイメージどうりの作品に仕上がらない(>_<)
by nenemu8921 | 2010-12-10 07:44 | 植物 | Comments(14)

宮沢賢治の愛した鳥や植物


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